驚愕の大逆転シナリオが囁かれている。福島第一原発の大惨事で崖っ縁に追い込まれた東京電力が、株主に背中を押されるようにして起死回生の「存亡カード」を切り、優良企業として復活する可能性が出てきたのだ。
 原子力損害賠償法(原賠法)は「異常に巨大な天災地変によって原子力損害が生じたときは免責」と定めている。今回の東日本大震災を「異常に巨大な天災地変」と認定すれば、これに起因する福島原発事故は「免責」の対象となる。従って東電は10兆円超とも算出される巨額賠償費のドロ沼地獄を脱し、3月11日以前の優良企業として奇跡的に復活することになる。

 その場合、故郷を追われて避難を余儀なくされた福島県民とすれば、返す言葉がないのが実情だろう。大多数の国民からも「そんな魔法が許されて良いのか」とのブーイングが沸き起こるのは必至だ。
 「世論がどう反応しようと、おそらく東電は遠からず究極の存亡カードを切る。そうしないことには経営陣が株主訴訟のターゲットになり、膨大な負担を強いられるのが目に見えているからです。背に腹は代えられない以上、もう世論を気にしている場合ではありません」(東電ウオッチャー)

 菅政権は東電に第一義的な賠償責任があるとの立場で、枝野幸男官房長官に至っては東電の免責を否定している。しかし、菅首相に批判的な与野党からは「安易に東電を擁護すれば袋叩きに遭い、政権の転覆に直結するのは火を見るよりも明らか。それを知っているため免責ウンヌンを口走ることをタブー視しているだけ」と、半ば突き放したような声さえ漏れてくる。
 そんな菅政権を見透かしたような動きもあった。ある株主の男性が「国が原賠法の解釈や適用を誤り、東電を免責しなかったから株価が下落し、損害を受けた」として150万円の国家賠償を求め、東京地裁へ提訴したのだ。まだ判決は出ていないが、四面楚歌に陥った東電にとっては強力な援軍登場の図式である。
 これに勇気づけられたのでもあるまいが、勝俣恒久会長は6月28日の株主総会で免責を求める株主の熱い“期待”に応えるように「(原賠法の免責条項適用は)関東大震災の3倍という話もあるが、今回の地震エネルギーはその44倍。免責の解釈は十分可能だ」と本音を口にしたのである。
 メディア報道は原発廃止を求める株主提案や総会の混乱に集中したことから、勝俣会長の発言は無視されたに等しいが、前出の東電ウオッチャーは「東電首脳が総会の場で国家にファイティングポーズを取った以上、免責を求めて裁判に打って出るくらいのことはするはず。恐らく東電にとっては文字通り社運を賭けた大一番になる」と断言する。