風力発電拡大に落とし穴、大規模な送電網脱落事故で―中国
大規模な送電網脱落事故が発生
「低電圧穿越」。英語ではLow Voltage Ride-Through(LVRT)。日本語にすれば「低電圧を乗り切る」といったところか。中国の風力発電業界では、LVRTに高い関心が集まっている。
きっかけは、2月24日に発生した風力発電所の大規模な送電網脱落事故だ。甘粛省の中電酒泉風力発電有限公司の橋西第一風力発電所の「35B4スイッチセルC相」のケーブルヘッドが故障し絶縁破壊が起こり、三相短絡に至った。これによって、同発電所内の274基の風力発電ユニットがLVRT機能を備えていなかったため解列した。
多数の風力発電ユニットが解列した後、同発電所では自励式無効電力補償装置を備えていなかったため、電圧が急上昇し300基の風力発電ユニットで電圧保護が働き解列した。また、これ以外にも24基で周波数保護が働き解列した。結果的に合計で598基の風力発電ユニットが解列した。解列した合計設備容量は84万kWで、酒泉地区の風力発電ユニットの合計設備容量の54.4%を占める。これによって、西北電網の主幹線の周波数は事故前の50.034ヘルツから49.854ヘルツに低下した。
甘粛瓜州協合風力発電有限公司の干河口西第二風力発電所でも4月17日、最初に25基が解列したあと97基が解列。これと同時に、LVRT機能を備えていなかった536基が解列した。また、自励式無効電力補償装置を備えていなかった44基で電圧保護が働き解列した。解列したユニットは合計で702基、設備容量は約100万kWに達した。
同じ4月17日には、河北省張家口でも解列事故が発生した。LVRT機能がない334基の風力発電ユニットが系統電圧の低下とともに解列した。その後、自励式無効電力補償装置がない295基で電圧保護が働き解列した。解列したユニットは合計で644基・85万4000kWに達した。これは、張家口地区の風力発電所の合計設備容量の48.5%に相当する。多数の風力発電ユニットの解列によって、華北電網の主幹線の周波数は50.05ヘルツから49.95ヘルツに下がった。
中国では、この3件以外にも、酒泉地区で4月3日、4月24日、4月25日と風力発電ユニットの脱落事故が発生している。このうち4月25日の事故は、解列した基数が1278基に達した。これは、酒泉地区の風力発電ユニット全体の約78%を占め、これまでの送電網脱落事故の記録となったばかりでなく、電力網の安全・安定運転に大きな衝撃を与えた。この事故でも、LVRTの機能を備えていなかったことが解列基数の拡大につながった。
世界的に再生可能エネルギーの導入が進んでいるが、多くの再生可能エネルギーは通常の発電ユニットと異なり、電力系統で電圧低下が発生すると自らの保護のために停止するといった欠点を持つ。このため、再生可能エネルギーが大量に導入されると電力システムの顕著な性能低下をもたらす。風力発電も例外ではない。
初期の風力発電システムは電力系統から供給される電力によって制御装置や各種補機が動作するように設計されているが、こうしたシステムでは系統電圧が低下すると風力発電システムの動作が維持できない。一方で、最近の風力発電システムでは、電力を安定的かつ高い信頼性で供給することが要求されている。そうした要求に応えるための機能がLVRTだ。
LVRTは、何らかの事故が発生して系統電圧が低下しても、風力発電システムが電力系統から解列しないという特性だ。再生可能エネルギーの占める割合が高い欧州のドイツやスペイン等では、LVRTだけでなく、DVS(Dynamic Voltage Support)と言われる、電圧低下時に所定の電力を出力することによって系統電圧を支える機能を備えることが送電網接続の条件となっている。
世界風力エネルギー協会(GWEC)が2011年4月に発表した世界の風力発電集計によると、中国では昨年1年間で1890万kWの風力発電所が新設され、2010年末時点で合計設備容量は4470万kWに達した。
一方、国家電網公司が4月に公表した「風力発電白書」(「国家電網公司促進風電発展白皮書」)によると、2010年末時点で送電網に接続された風力発電所の合計設備容量は2956万kW。つまり、単純に計算すれば、1514万kWが送電網に接続されていないことになる。白書では、送電網に接続される風力発電所の規模を2015年:9000万kW、2020年:1億5000万kW以上と見込んでいるが、中国では送電網への接続にあたって、電力系統の安定化がまったく考慮されていなかったということが、今回の一連の脱落事故で露呈した。
規制当局が改善通知
風力発電所の送電網への接続にあたっては、国家電網公司が2009年に「風電場接入電網技術規定」を公表しているが、これはあくまで企業標準であり拘束力を持つものではない。国家電力監管委員会による国家標準となる同様な規定は、まだ公表には至っていない。
しかし、今回の事故を踏まえ、規制当局である同委員会は4月27日、国家電網公司と南方電網公司の二大送配電会社に加えて、華能、大唐、華電、国電、中電投の五大発電事業者等の関連企業に対する、「風力発電所の安全監督管理を確実に強化し、大規模な風力発電ユニットの脱落事故を抑制することに関する通知」を公表した。
同通知では、2月と4月17日の2件の合計3件の脱落事故について、風力発電所の35kV給電線の故障による三相短絡にともなって系統電圧が低下したものの、多数の風力発電ユニットがLVRT機能を備えていなかったことに加えて、風力発電所の無効補償装置のコンデンサーが自動スイッチング機能を備えていなかったことが脱落の直接の原因になったと指摘している。
また、脱落事故防止の対策として、風力発電ユニットにLVRT能力を備えさせるとともに、すでにそうした機能を持っているユニットに対しても綿密な調査を行い、必要な能力を備えていないことが判明した場合には改良するよう要求した。なお、その際には設備メーカーも協力するよう要請するとともに、これから建設する風力発電所には事前にLVRT機能を備えるよう求めた。
酒泉風力発電所の風力発電ユニットは、華鋭風電や金風科技、東方電気といった中国を代表する風力発電メーカーが供給したものが大半を占めているが、すべてLVRT機能を備えていなかったという指摘もある。
中国電科院新能源研究所の劉純・副所長によると、LVRT機能の追加を必要とするユニットは全国規模で相当の基数に達するとの見通しを明らかにした。金風科技の関係者は、1基あたりの改造には10万元程度かかると見積もっているが、50万元かかるとの試算もある。仮に1基あたり50万元の改造費がかかるとすると、全国には2万基を超える風力発電ユニットがあるため、単純計算すれば100億元以上かかることになる。
風力発電メーカーの淘汰が始まる
中国では、風力発電所の建設が飛躍的に拡大しており、ここにきて各種の問題が浮上してきた。風力発電所の建設施工における品質問題もその1つだ。中国では2010年に入り、東北や西北の地域で風力発電ユニットの倒壊事故が頻発し、国家能源局が調査に乗り出した。
有力メーカーは技術の改良や品質保証に力を入れてきているが、価格競争に打って出ているメーカーもある。1.5MW(1500kW)クラスの風力発電ユニットの価格は、2008年当時、kWあたり6500元程度だったが、2009年の5400元を経て、2010年末時点では4000元程度に下がってきているという。
そうしたなかで、風力発電メーカーの淘汰が始まろうとしている。工業・情報化部と国家発展改革委員会、国家能源局は3月25日、共同で「風力発電設備製造産業参入標準」のドラフトを公表し一般からの意見聴取を始めた。また国家能源局は同29日、「風力発電標準体系の枠組み」のタタキ台をとりまとめた。
最終的にどのような内容になるかまだ分からないが、中国の風力発電機メーカーの淘汰競争が始まり、3〜5年内には80%以上のメーカーが再編・合併によってなくなるとの見方を示す関係者もいる。ちなみに、中国には100社近くの風力発電メーカーがあるが、上位10社だけで国内市場の80%を押さえている。また上位15社では市場占有率は95%に達する。
これだけのメーカーを抱えながら、2010年の輸出実績が全部で13基(「2010年中国風電装机容量統計」、中国再生可能エネルギー学会風能専業委員会、2011年3月)しかなかったということも、中国政府が国内の風力発電機器産業の現状に危機感を抱いた理由かもしれない。中国の風力発電は大きな転換期を迎えている。(執筆者:窪田秀雄 日本テピア・テピア総合研究所副所長 編集担当:サーチナ・メディア事業部)
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