映像ドキュメンタリー作家ケン・バーンズの『ザ・テンス・イニング The Tenth Inning』が28日と29日(現地時間)にPBSで放送される。1994年に放映され、エミー賞を受賞した『ベースボール』の続編で、1992年以降の野球界について選手や監督、スポーツライターなどへのインタビューや試合の映像などを交えて描いたものだ。

 前作『ベースボール』は野球の黎明期から現代までを9部に分けて描いたもので、今回の作品は延長10回を意味し、ステロイド問題、レッドソックスのワールドシリーズ優勝、ラテンアメリカやアジア出身選手の増加など、この20年間の様々な出来事を取り上げており、マリナーズのイチローもインタビューに答えている。

 PBSのウェブサイトはインタビューの一部をビデオクリップの形で紹介しており、そのなかでイチローは打者としての考え方や、日本での野球の位置づけについて持論を述べている。

 打者イチロー「バッターボックスにはいる前に、頭のなかをリセットしておきたい。これができれば、その打席にかなり集中できる。よけいな考えを取り除くために、いろんなことをやっている。このピッチャーとやるときはこのアプローチ、ということではない。今日のこのゲームではこうなったけれど、明日のゲームでは変わるかもしれない。自分のアプローチは変わっていくものだという価値観を持っていなくてはならない」

 日本の野球「日本の文化になりうる存在だ。国技は相撲だが、それと同じようなものになれると思う。今は以前ほどの人気はなくなってきたかもしれないが、日本人選手がメジャーでプレーし、もしくは日の丸を背負ってWBCのような大会で優勝したときの、日本人の興奮を見ると、野球は日本に大きな影響があると実感している」

『ベースボール』にも出演している作家のダニエル・オクレントは、今回の『ザ・テンス・イニング』ではイチローの出現を「新しい野球の形を見せられたような気がした。イチローのバット操作は1890年代のものだ。まるでビリヤードのキューを扱うように、望んだところに球を弾き返す。本当に驚いた。走塁、打率、その他もろもろのすべてにおいて、彼がアメリカ球界で見せたものに度肝を抜かれた。イチローの時代にいることができて幸運だ」と述べている。

 9月17日にプロモーションでシアトルのラジオ局に出演したバーンズと共同制作者のリン・ノバックは、インタビューは日本語で行っていたので、いわんとすることが正しく伝わっているかをイチローは非常に気にしていたと述べた。スポーツ選手は自分のプレーについてほとんど説明しないが、イチローは比喩を使って説明し、また、ホームランバッターが「球をよく見る」という一言ですますところを、イチローは球を打つ瞬間に向けていかに準備するか、その過程を語ったという。

 今回のインタビューでは雄弁に語っているが、普段はマスコミと距離を置いているといわれていることについて、バーンズは「イチローは自分のプレーで判断してもらいたいと考えているのだろう」とシアトル・タイムズに述べている(9月20日付)。