高橋洋一の民主党ウォッチ民主党は財務省に完全屈服した
民主党のマニフェスト2009には、「天下りを根絶します」、「天下り、渡りの斡旋を全面禁止する」と明記されている。かなり期待していたが、今回の郵政人事でこの公約が完全に反故にされた。
日本郵政社長に就任した斎藤次郎・元大蔵次官は、退官後14年もたったと鳩山総理は説明した。退官後、研究情報基金理事長や東京金融先物取引所社長を歴任したが、いずれも財務省の天下り、渡りポストだ。副社長に就任した財務省OBの坂篤郎氏は、05年に退官後、農林漁業金融公庫副総裁、内閣官房副長官補、損保協会副会長と財務省ポストを渡り鳥している。また副社長の総務省OBの足立盛二郎氏も、02年に退官後、簡易保険加入者協会理事長、NTTドコモ副社長と旧郵政省ポストを渡った。退官して4年と7年である。
鳩山政権発足初日から予兆はあった
しかも、いつもの天下りの時の官僚の常套句「有能な人」、「役所の影響力はないと役所がいっているから」と鳩山総理は説明した。これで、天下りや渡りは全面解禁になった。「有能な人だから」、「役所の影響力はないからと役所がいっているから」、これらの常套句を鳩山総理が認めた以上、天下りや渡りをもうダメとはいえない。何か具体的な事例があれば、霞ヶ関役人は「日本郵政がよくて、どうしてこれがダメなのか」と詰め寄るだろう。
実は、この予兆は、鳩山政権発足初日からあった。閣僚人事と同時に行われる官邸の周辺ポスト人事で麻生政権と同じ人物の留任ばかりだったのだ。
官邸の周辺人事とは、役人が気にするポストで、内閣法制局長官、内閣官房副長官、内閣危機管理監、内閣官房副長官補、内閣広報官、内閣情報官である。これらのポストは、政治主導をはっきりと示すことができるが、鳩山政権では、古い自民党時代に戻ったような前例踏襲か前政権からの留任ばかりだった。
内閣法制局長官は、外から見れば地味であるが、政府提出法案や政令を生かすも殺すもできる重要なポストだ。昨08年末に、天下り関係で、麻生政権が政令で法律をひっくり返すという憲法違反の政令を出した。翌新年早々の国会で、仙谷・現行革刷新相が当時の麻生総理に対してこの問題点を厳しく追及している。その政令の責任者が宮崎内閣法制局長官で、仙谷氏は、宮崎氏を「史上最高の法匪だ」と批判していた。
それと、官房副長官は従来通り、政治家2名と官僚OB1名だった。この官僚ポストは旧内務省系官僚OBの指定席になっていたが、今回もその慣行どおりに瀧野欣彌・前総務省事務次官だった。彼は典型的な官僚主導時代の役人だ。
さらに、官房長官副長官補の3名は前麻生政権のまま留任。これらは政治任用ポストであるので、堂々と政治主導人事を行えるところだ。この3ポストは、外務省、警察、財務省が順次人を送り込む植民地になっている。
「国家戦略室」や「行政刷新会議」も財務官僚に占拠
そして、首班指名国会にも今度の臨時国会にも、内閣法や国会法の改正が出されていないことも気がかりだった。そのために、鳩山内閣の目玉だったはずの「国家戦略室」や「行政刷新会議」が、まったく機能せずに、「財務官僚に占拠された」との見方が強くなっている。たしかに、相当数の財務官僚が事務局ポストなどに就き、日に日に影響力を増しているようだ。
その象徴は、行政刷新会議の下のワーキンググループ事件だ。当初は、枝野議員以下32人の民主党議員が参加し、ワーキンググループを設けて事業仕分けを行うことになった。ところが、その後、小沢幹事長らからクレームがつき、1年生議員らは引き上げになって、結局7人になってしまったという。
これは、表面的には、仙谷氏と小沢氏との連絡不足ということになっているが、実は国会法の改正を民主党がさぼっていたことが効いている。国会法第39条では、国会議員は、大臣、副大臣政務官等を除いて政府との兼職が原則禁止されており、そもそも、仙谷氏の意向だけで、国会議員は政府機関である行政刷新会議を手伝えないのだ。
この国会法改正などの「第一歩」ができていないために、例えば、菅戦略相や仙谷行政刷新相が、政治主導の運営を目指し、従来なら官僚が就いていた「事務局長」や「次長」といったポストに民主党議員をつけようとしても、法律上できない状態になっているのだ。「財務官僚の占拠」は、いわば、国会法の制約で生じている間隙に財務官僚が入り込んできたとも言える。
こうした状況で、民主党は官僚、特に財務省に完全に屈服したようだ。今回の郵政人事はそれを示している。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。著書に「さらば財務省!」、「日本は財政危機ではない!」、「恐慌は日本の大チャンス」(いずれも講談社)など。
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