伝統的な和定食

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 ヘルシー食として知られる和食だが、「二つの工夫」を加えることによってさらにその持ち味が増すという。“新型和食”のススメである。

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 素材のうま味を生かし、彩りも鮮やか。一汁三菜を基本とする「和食」がユネスコの無形文化遺産に登録されたのは2013年のこと。味と見た目だけではなく、動物性油脂が少ない上に肥満防止に役立つ調理法も高く評価されてのことだった。

 その和食に支えられ、日本人の平均寿命は世界最高水準を維持し続けている。だが実は、和食には致命的な“弱点”が二つあることをご存じだろうか。 

 予防栄養学などが専門の京都大学の家森幸男(やもりゆきお)名誉教授が、まずは“第一の弱点”について解説する。

伝統的な和定食

「私は約40年にわたって世界25カ国61の地域を訪れ、長寿について研究してきました。その結果、和食は世界的に見てもすばらしい長寿食であると断言できます。ただ歴史上、日本人には、欧米の遊牧民のように牛乳を飲む食習慣がなく、現代でも牛乳を飲むとお腹が緩くなるという人が多い。そのため、和食を食する私たち日本人はカルシウムが慢性的に不足しがちなのです」

 厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」では、成人のカルシウム推奨摂取量は、1日あたり男性で750~800ミリグラム、女性で600~650ミリグラムに設定されている。しかし、実際の平均摂取量は男女共1日約500ミリグラム前後で、目標に届いていない。

「和食の“アキレス腱”であるカルシウムの不足を、おいしく、かつ日常的に補ってくれるのがヨーグルトです。腸の働きを助け、免疫力を上げる効果のほか、血糖値の上昇も緩やかにしてくれるので糖尿病の予防にもなります。黒海とカスピ海に挟まれた長寿地域であるコーカサスの高齢者たちは驚くほど元気なのですが、彼らの食卓には必ず手作りのヨーグルトがありました」(家森氏)

「医療と統計」という観点から長寿に関するさまざまなデータを解析・研究してきた、福島県立医科大学の大平哲也主任教授も同様の見解だ。

「カルシウムについては、乳製品から取るのが比較的吸収率が高く、中でも気軽に食生活に取り入れやすいのはヨーグルトでしょう。1日に少なくとも1個のヨーグルトを摂取することをお勧めします。乳酸菌は胃酸の影響を受けやすいため、食べるタイミングとしては空腹時より食後がいいと思います」

短命なチベット族も塩分過多

 次に、和食の“第二の弱点”である塩分の多さについて家森氏が続ける。

「以前、兵庫県による健康運動の取り組みの中で、和食の重要な構成要素である大豆と魚の摂取量を『最もよく取るグループ』『中間のグループ』『最も取らないグループ』の3グループに分け、それぞれの食生活をデータ解析したことがあります。大豆や魚をしっかり取るグループは心筋梗塞、乳がんの死亡率が低かった一方、大豆や魚をあまり取らない人に比べて、何と1日当たり約5グラムも食塩の摂取量が多いことが分かったのです」

 塩分が多い食事を取り続けると、高血圧、脳卒中、腎臓病、骨粗鬆症、胃がんなどのリスクが増すことは周知の通りである。

「中国・チベット自治区に住むチベット族は短命で知られています。彼らの尿を研究したところ、1日平均で16グラムもの塩分を取っていることが分かりました。日常的に塩茶やバター茶を飲んでいるためで、実際に診察してみると4割の人が高血圧でした」(同)

 WHO(世界保健機関)が定める成人の1日の塩分摂取量の目標値は、食塩相当量で5グラム未満。だが、厚労省がまとめた直近の「国民健康・栄養調査結果の概要」では、男性の平均摂取量は10.5グラムで、女性は8.9グラム。日本人でも、男女共に目標値とは2倍前後の開きがある。

 減塩を実現するためには、単純に塩分の量を少なくすればいいわけだが、個人の好みや食習慣もあり、簡単にはいかないのが現実であろう。そこでお勧めなのが、一つは尿中に排出されるナトリウムとカリウムの比率「ナトカリ比」のコントロール。そして、もう一つが「だし」の活用だ。

「1日当たりの塩分摂取量を関西と東北で比較すると、後者の方が1~2グラム程度多い傾向が見られます。その原因の一つは、『だし』をどれだけ使っているかだと考えられます。関西では、だしをしっかり効かせるため、塩をそれほど使わなくても味を感じやすい。だしの有効活用をぜひ検討してみてください」(大平氏)

「伝統的日本食」との対比

 従来の和食に「乳製品を足し、塩分を引く」というアレンジを加えた“新型和食”。これに関連した興味深い報告が存在する。

 2025年に国立がん研究センターが発表した「新しい日本食パターンと死亡リスクとの関連について」と題されたもので、対象は45~74歳の男女約9万人、追跡期間は最長で約18.9年間という大規模な調査だ。同調査では、次のように食事パターンを四つに分類している。

(1)「伝統的日本食」

 ごはん・みそ汁・大豆・漬物・野菜・果物・きのこ・海藻・魚介・緑茶・調味の塩などを取り、豚・牛肉は控えめ。

(2)「減塩型伝統的日本食」

「伝統的日本食」を基本にして塩辛い魚介類などは控えめ。

(3)「新日本食」

 (1)に乳製品とコーヒーを加えたもの。

(4)「減塩型新日本食」

 (2)に乳製品とコーヒーを加えたもの。

 各食品の摂取量が対象者の中央値より多いと加点、塩分の多い漬物や調味料の摂取量が少ない場合も加点するなどしてスコアを比較した。

 調査を担当した、国立がん研究センターがん対策研究所の澤田典絵コホート研究部長が、まずは「新日本食」と「減塩型新日本食」に乳製品とコーヒーを加えた理由について説明する。

「第一に、どちらも日本人の摂取量が増えていること。第二に、国立がん研究センターでのこれまでの研究成果として、男性では乳製品を摂取している人の方が、死因を問わない全死亡や循環器疾患死亡のリスクが低く、コーヒーについては、男女共1日に3~4杯程度まで摂取量が増えるにつれて、死亡リスクが低くなるという結果が出ていたからです」

 澤田氏が調査結果について続ける。

「『伝統的日本食』でも『新日本食』でも、スコアが高いほど、全死亡リスクと循環器疾患死亡リスクの低下が見られました。つまり、日本食の傾向が強い食事をしている人ほど、基本的に死亡リスクが低いといえます。また、特に男性では『伝統的日本食』と比べて、『減塩型新日本食』の方が、より死亡リスクが低下しました。この研究では、日本食を取ることのメリットだけでなく、減塩することの重要性が改めて示されたと考えています」

94歳の今も元気に働ける理由

 最後に、卒寿を超えて現役の栄養学者である日本栄養大学の香川靖雄副学長が、

「多くの人は食材を買う時、おいしさを最優先にし、次に賞味期限、値段、ボリュームを重視します。栄養は、優先順位で7番目くらい。もう少し栄養について深く考えてほしいですね」

 と、現代日本人に警鐘を鳴らした上で、自身の「健康の源」についてこう語る。

「伝統的な和食の摂取頻度が高い人ほど、要介護率が有意に低いというデータもあります。私自身、毎日牛乳を飲むなどして、『和食+洋食の良いところ』を心がけてきました。おかげさまで、94歳のいまも元気にキャンパスで仕事をできています」

 減塩を意識し、ヨーグルトなどの乳製品を一品加える--。新型和食こそ、人生100年時代の強い味方になるに違いない。

「週刊新潮」2026年9月24日・10月1日号 掲載