〈『ダウンタイム』で話題の豊胸除去〉「将来、授乳できない可能性も」“安全”のはずが胸にしこりと激痛…除去手術までの7年

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Netflixで配信翌日に国内のTV番組ランキング1位を獲得したオリジナルドラマ『ダウンタイム』。美容整形業界の光と闇を描き、豊胸をはじめ鼻整形、エラ削りなど流行りの美容整形に関するトラブルが展開する。第一話から豊胸の生々しいシリコン除去で視聴者を惹きつけるが、現実の豊胸手術をめぐっても、女性の人生に影響しかねない深刻な問題が起きている。

【画像】明らかに左右が非対称となってしまった細田さんの胸

「豊胸手術により乳腺が溶け、授乳ができない体に」

そう言うのは、2017年6月に全国展開する美容外科で、現在は安全性が問題視されているある豊胸手術を受けた女性、細田真理恵さん(仮名、30歳)だ。

細田さんが受けた手術は、その当時「98%が水分で安全」「入れても簡単に取り出せる」「自然な柔らかさ」が売りの「アクアフィリング」という製剤を乳房に注入する手術だった。

施術費は50万円超で、ローンを組み両胸に100㎖ずつ「アクアフィリング」を注入した。これは現在、法律で一律に使用が禁止されているものではないが、2019年には日本形成外科学会、日本美容外科学会など美容医療関連学会が、非吸収性充填剤を用いた豊胸術について「実施すべきではない」とする共同声明を発表している。

細田さんが体の異変に気づいたのは術後1年以上が経った2018年9月頃。

「左右が明らかに非対称になって、おっぱいの内部にシコリを感じるようになりました。怖くなってクリニックに行くと『揉めば散らばって柔らかくなる』とのことで、そのアドバイス通り実践しました。

でも非対称がますますひどくなり、医師の勧めで左右に100㎖の同じ製剤を入れられました。手術直後は胸の非対称は少しだけ改善したのですが、全体的に大きくなってしまって、やっぱり非対称が目立ち始めたんです」

この時点で痛みなどの不調はなかったというが、月日の経過と共に胸に痛みを感じるようになる。

「術後から2年後の2019年8月頃から左のおっぱいの下あたりに500円玉くらいの大きさのしこりが出てきました。そこがなんとも言えない熱を帯びた痛みを感じるようになって。特に生理前に痛みを感じるようになって、痛み止めを飲んでも効かないし気持ちが塞ぐようになりました」

当初は生理周期に合わせた痛みだったのが、次第に熱感や疼痛が時折みられるようになり「意識は常に胸の痛みに向くようになった」と言う。

「どうにか除去してもらえないかと思って、2024年8月にアクアフィリングの手術を受けた美容外科を受診したのですが『当院ではもうその手術はしていない』と言われ、さらにフォローやケアも自己責任だって言われてしまって。

女だけじゃ舐められるかと思い、強面の彼氏を連れてクリニックに行くと、最初はクリニックの営業担当みたいな方が対応していたのですが『監査役です』と名乗るさらに強面の人が現れて『豊胸部位のトラブルはない』とハッキリ言われてしまいました」

「50万円以上も払った手術でこんなことになるとは…」

細田さんは「もうクリニックに頼ることはできない、この不調を解消したい」とネットで「アクアフィリング」のワードで検索した。すると「アクアフィリングは危険な製剤だ」とする数々の情報を見つけ呆然とする。

そこでアクアフィリング除去と修正手術を積極的に行う東京美容外科の麻生泰統括院長のYouTubeを見て「麻生先生に修正手術をお願いしよう」と思い至った。麻生氏はSNSでも積極的に情報発信している医師だ。

細田さんは2024年9月に麻生氏のアクアフィリング除去と修正手術を受けた。麻生氏に細田さんのアクアフィリング除去の様子を聞いた。

「生理食塩水などで簡単に除去できると謳われていたアクアフィリングですが、実際には容易に完全除去できるものではありません。体が注入物を異物と認識して過剰な免疫反応を起こし、硬いシコリを作りますし、周囲に炎症や組織障害を起こし、脂肪組織や乳腺組織を傷めることがあります。

さらにジェル状の物質が被膜を作らずに周囲の組織へ浸み込むため、重力や圧迫によってお腹や背中、脇の下に移動してしまうこともあります。細田さんの左下にはすでにその体内移動が起きていました」

細田さんの手術は約2時間ほどかかった。

「アクアフィリングはジェル状の製剤で、被膜を作らずに乳房内で流動性を持って広がるため、正常な乳腺組織や筋肉との境界線が分かりにくく、完全除去が難しいのです。

細田さんは左右それぞれ追加分も含め200㎖のアクアフィリングを入れたそうですが、除去しただけでは乳房がシワクチャになってしまいます。修正にあたり『モティバ』というシリコンインプラントを380cc入れました」

修正手術から約2年が経った現在、細田さんは胸の痛みに悩まされることなく日常生活を過ごしている。

「術後は感染リスクがかなり高い状態だと言われたので、ほぼ1週間ほど抗生物質の点滴を受けに行きました。それでも感染症など起こしたら抜去する必要があるとも言われたのですが、なんとかそれを乗り越えました。

麻生先生には胸の不調を取っていただけたので感謝しています。でも『乳腺が傷んでいて、将来、授乳ができない可能性がある』と説明された時はさすがにショックでした」

「アクアフィリング豊胸で重篤な状況に陥る方も」

細田さんは現在、結婚の予定はないというが、出産願望はある。

「今の時点ですぐに結婚する予定もありませんけど、子供は欲しいと思っています。授乳ができない可能性があると聞いたのはやっぱりショックです。

夫にだって『豊胸のせいで授乳ができない』と説明するのも嫌です。病気でもないのに自ら望んで体にメスを入れて50万円以上も支払ってやった手術でこんなことになるなんて思いもしなかった」

細田さんは術前の2024年8月から弁護士に依頼し、アクアフィリング注入に関する損害賠償を請求できないか相談中だという。しかし担当弁護士はこの問題の困難さをこう説明する

「今回の手術において過失はなく、アクアフィリングを使ったこと自体が悪いという状態です。しかし今現在、アクアフィリングの使用は法律上で禁止もされておらず、当時は扱っているクリニックも多かったことから、アクアフィリングを使ったことを過失と捉えて損害賠償を請求することは困難なのです」

また、どこを相手に損害賠償請求をするのかという点でも課題があるという。

「クリニックを相手取るのか、アクアフィリングのメーカーを相手取るのか、どちらが良いのかという問題もあります。今現在は、アクアフィリング豊胸で悩まされている女性の方を集めて集団で請求することも検討していますが、誰を相手にするのかという大きな課題が残されます」

麻生氏によれば「アクアフィリング豊胸は元々、韓国で普及し日本でも広まった」と話す。

「アクアフィリングを製造したのはチェコの企業です。海外で使用が広がった後、日本でも2015年前後から豊胸目的で使われるようになりました。日本ではその後、2019年に日本美容外科学会などが『実施すべきではない』とする共同声明を発表しました。

一方で、現在もアクアフィリング注入後のトラブルで除去を希望する患者はいて、今年に入っても数十件のアクアフィリング除去と修正手術を行いました」

麻生氏によれば「アクアフィリング豊胸は直ちに命に関わるケースばかりではないものの、感染などによって重篤な状況に陥る方もいる」と言う。

「時間経過などで体内で細菌感染を起こし、皮膚の薄い箇所や過去の傷口から皮膚を突き破り、ジェル状の液体がドボドボと膿と共に漏れ出す方もいました」

ドラマの中でも登場人物が「病気でもないのになぜ体にメスを入れるのか」「命の危機に関わるかもしれない美容整形をなぜするのか」などのセリフが出てくる。

美容整形は個人の価値観が大きく左右するもので、コンプレックスの解消でQOLが上がるものとも言える。だからこそ、美容業界や美容医師たちには十分な説明と適切な施術、そしてアフターフォローが大事なのではないか。

文/河合桃子