「500万円、どこにいった?」〈年金月26万円〉74歳夫、老後資金の「消失」に絶句…72歳妻が40歳娘にお金を渡し続けていたワケ
物価高が続くなか、年金で暮らす高齢者にとっても家計管理は切実な問題です。総務省「家計調査」によると、2025年の65歳以上の夫婦のみの無職世帯では、可処分所得が月22万1,544円だったのに対し、消費支出は26万3,979円でした。毎月年金が入っていても、支出が収入を上回れば老後資金は少しずつ減っていきます。70代のある夫婦は、預貯金を確認したことをきっかけに、夫が知らなかった「500万円」の使い道をめぐって揉めることになりました。
「こんなに減ってたか?」夫からの一言
東京都内に暮らすヒロコさん(72歳・仮名)は、74歳の夫・ノブオさん(仮名)と2人暮らし。夫婦ともにすでに仕事を退き、年金収入は合わせて月26万円ほどです。住宅ローンは完済済み。退職時には、退職金を含めて3,000万円近い金融資産がありました。
「贅沢さえしなければ、老後はなんとかなるだろう」
夫婦とも、そう考えていたといいます。ところが最近は、スーパーに行けば食品が高くなり、電気代などの負担も気になるようになりました。
実際、総務省「消費者物価指数」によると、2025年平均の総合指数は前年比3.2%上昇。なかでも食料は6.8%上昇しています。そこでノブオさんは、これを機に老後資金をあらためて確認しておこうと、預貯金や保険などを整理することにしました。通帳を見比べていたノブオさんは、預貯金の残高を見て首をかしげました。
「こんなに減ってたか?」
車の買い替えや自宅の修繕、夫婦で出かけた旅行など、まとまった支出には心当たりがあります。それでも、ノブオさんが考えていた以上に預貯金が減っていました。過去の入出金を確認していくと、ヒロコさんが何度もまとまったお金を引き出していることに気づきます。
「このお金、何に使った?」
そう聞かれたヒロコさんは、ようやくその使い道を明かしました。
40歳の娘に渡し続けていたお金
お金の行き先は、40歳になる一人娘・マナミさん(仮名)でした。マナミさんは会社員の夫と小学生の子ども2人を育てる共働き家庭。世帯年収は約800万円です。決して収入の低い家庭ではありません。しかし、住宅ローンに加え、子どもの教育費や習い事など、何かと出費の多い時期でもあります。
最初の大きな援助は、マナミさん夫婦が住宅を購入したときでした。ヒロコさんは「少しでもローンを減らしたほうが楽でしょう」と200万円を渡しました。その後も、2人目の孫が生まれたときに50万円。車を買い替えることになったと聞けば100万円。
それだけではありません。
物価高で生活が大変だという話を聞くと、5万円、10万円と渡すようになり、ここ数年は「子どもたちに何か買ってあげて」と数万円を振り込むこともありました。
一つ一つは、ヒロコさんにとって「娘を助けるためのお金」でした。ところが改めて計算してみると、こうした援助は数年間で500万円近くに膨らんでいました。そして、その多くをノブオさんは知りませんでした。
「どうせ最後は娘に残すお金だから」
ノブオさんが驚いたのは、娘が結婚して家庭を持ったあとも、これほど多額の援助を続けていたことでした。一方、ヒロコさんにはヒロコさんなりの理由がありました。
娘一家は住宅ローンを抱え、孫2人にはこれからますます教育費がかかります。食料品をはじめ、さまざまなものの価格が上がっていることも、自分自身が日々実感しています。それに対して自分たちには持ち家があり、住宅ローンもありません。毎月、年金も入ってきます。
「私たちはもう大きなお金を使うこともないし、あの子たちはこれからお金がかかるから」
そう考えていたといいます。さらに、ヒロコさんにはもう一つの思いがありました。
「どうせ私たちが死んだら、あの子に残すお金でしょう。それなら必要なときに渡したほうがいいと思っていたんです」
しかし、ノブオさんの考えは違いました。夫婦はすでに70代。この先、病気になるかもしれません。介護が必要になる可能性もあります。築年数が経った自宅には、再びまとまった修繕費がかかるかもしれません。毎月年金が振り込まれているからといって、老後資金を取り崩し続けても問題がないとは限りません。まして、夫婦で築いてきた資産から500万円近いお金を、自分にほとんど相談せず娘に渡していたことに、ノブオさんは納得できませんでした。
娘も「余裕がある」と思っていた
では、マナミさんは母親にお金を要求し続けていたのでしょうか。必ずしもそうではなかったといいます。
住宅購入時などには、ヒロコさんのほうから援助を申し出ていました。一方で、家計が厳しいと母親にこぼした際、「じゃあ少し出してあげる」と言われ、その好意に甘えたこともありました。
ヒロコさんは、娘の前ではいつも「私たちは大丈夫」と話していました。そのためマナミさんも、両親には十分な老後資金があり、自分たちに援助しても問題はないと思っていたようです。
今回、夫婦の老後資金について娘にも事情を話すと、マナミさんは援助が累計500万円近くになっていたことに驚いたといいます。話し合った結果、今後は日常的な家計の補填を目的とした援助は受け取らないことになりました。
年金が入ってきても、老後資金が減らないとは限らない
総務省が2026年2月に公表した「家計調査」の2025年平均結果によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯では、1か月の実収入は25万4,395円。このうち社会保障給付は22万8,614円でした。一方、税金や社会保険料などを差し引いた可処分所得は22万1,544円、消費支出は26万3,979円。その差は月4万2,434円となります。単純計算すると年間約51万円です。
もちろん、これはあくまで平均値であり、すべての高齢世帯が同じだけ資産を取り崩しているという意味ではありません。しかし、年金を中心とした収入が毎月入っていても、それだけで生活費のすべてを賄えるとは限らないことはわかります。まして、子どもへの援助は通常の生活費とは別の支出です。住宅購入、出産、孫の教育など、子どもがお金を必要とするタイミングで「助けてあげたい」と考える親は少なくないでしょう。一方、親自身も年齢を重ねれば、医療や介護、住宅修繕などでまとまったお金が必要になる可能性があります。
「どうせ最後は子どもに残すお金だから」と、生前に援助すること自体が問題なのではありません。ただし、援助をするのであれば、まず自分たちの今後の生活にどの程度のお金が必要なのかを確認し、夫婦間でも認識を共有しておく必要があります。自分たちの老後資金が不足すれば、結果として子どもに経済的な負担を求めることにもなりかねません。
ヒロコさん夫婦は今回を機に、娘への日常的な援助をやめることにしました。
子どもにお金を渡すことだけが、親から子への経済的な支援とは限りません。親自身が老後の生活を維持できるだけの資産を確保しておくことも、将来、子どもに負担をかけないための備えといえるでしょう。

