10年前は年収300万円台でも成婚したのに…最新調査でわかった「いま日本で結婚できる"普通"の人」の世帯年収額

■「800万円の普通の年収でいいです」
女性が結婚相手の男性に求める条件といえば、「経済力(年収)」というのが定説でした。
国の基幹調査である出生動向基本調査(独身者調査)でも、女性が「結婚相手の条件で重視・考慮する点」として「男の経済力」の割合は、1992年88.7%から2025年90.3%にかけて9割前後で終始一貫しています。一方で、男性が「女の経済力」を求める割合は1992年時点ではわずか26.7%に過ぎず、「結婚相手の経済力を求めるのは女性」というのは事実でもありました。
だからこそ、ネット系の婚活記事では常に「結婚相手の男に求める年収条件」が取りざたされ、そのたびに話題になります。
2019年にテレビ番組でも報道されて大きな話題になったのが「高望みはしません。年収500万円くらいの普通の男でいいです」発言です。これが物議を呼んだのは、当時でも年収500万円以上の25~34歳独身男性は3割にも満たず、「普通」どころか「上位3割に該当し、十分「高望み」だったからです。
しかし、その後も「男の年収条件」はインフレし続け、600万、700万と上昇し、ついに2026年には「800万円の普通の年収でいいです」発言になってきています。年収額はあがっても常に枕詞で「普通」がつくのですが、800万円は到底「普通」ではない。もはや数%しか存在しません。当然、マッチングするはずがありません。
そんな中で、男側の意識も近年大きく変わりつつあります。
26.7%に過ぎなかった男性の「女の経済力」を求める割合が、2025年の調査では55.6%にまで増加しました。1992年対比で、実に倍以上になっています。いまだ男女差はあるとはいえ、もはや男の過半数が「女の経済力」を求めるようになったことは大きな変化でしょう。
■世帯年収中央値は15年で「+300万円」
これを、男女平等意識や共働き意識の高まりなどと価値観軸で処理するのはあまりに呑気すぎます。この背景には、もはや夫の一馬力ではとても家族を運営できなくなったという経済環境の構造変化があるからです。
同じく出生動向基本調査では、25~34歳を対象として、独身男女、夫と妻、世帯のそれぞれの年収分布も公開されています。その分布からそれぞれの年収中央値を計算して2010年からの推移で比べたものが以下のグラフです(図表1)。

まず、夫と妻の年収についてみてみます。双方増加で、この15年間で夫は年収中央値が151万円増加、妻はそれを上回る234万円の増加です。これは2010年段階では妻の年収中央値が0円、つまり専業主婦が半数を占めていたためです。
世帯年収中央値も妻の年収増とともに増加し、2010年には506万円だった世帯年収中央値が、329万円増の835万円にも達しています。
これは、夫婦共働きが増えたということと連動しますが、決して夫婦共働き意識があがったからという悠長な話ではありません。夫の給料の増加分だけではとても足りないので、妻が働かざるを得なくなったと見るのが妥当でしょう。つまり、男性が結婚相手の女性の経済力を求めるようになったのは、もはや夫だけでは結婚および家族生活が成り立たないという経済環境の変化によるものです。
■普通の独身男女が結婚できないワケ
そして厳しいのは、独身男女です。2010年から年収中央値増加分は、女性80万円増、男性に至ってはたった64万円増です。増加率にして女性35%増、男性23%増でしかありません。その間の消費者物価指数(帰属家賃のぞく)は22%増なので、独身男性にしてみれば、ほぼ実質年収は変わっていないことになります。加えて、この間にも社会保険料などの増額があり、実質手取りはむしろ減っています。
しかし、前述した通り、女性が求める年収条件だけはどんどんインフレしており、そんな中で、特に若い独身男性が「もう金がなくて結婚なんて無理」と嘆くのは構造上当然と言えます。
もうひとつ残酷な現実として、独身男女のそれぞれの中央値を足しても650万円にしかならず、現在結婚している夫婦の世帯年収中央値835万円には遠く届かない。要するに、中央値の年収同士の男女ではとても結婚できなくなっていることです。
■女性の根強い「上方婚」志向
これは構造上の必然です。結婚において、女性の経済上方婚志向は根強く、それは実態としても夫婦の年収バランスにも表れています。
2022年の就業構造基本調査で、初婚の半分以上を占める29歳以下の妻・子ども無しの場合の夫婦の年収バランスを見ると、「夫>妻(妻の上方婚)」が7割、「夫=妻(同格婚)」が2割、「夫<妻(妻の下方婚)」は1割です。要は、結婚する女性の9割は少なくとも自分と同格かそれ以上の経済力のある相手としか結婚しないということです。
男性も「女の経済力」を求めるようになれば、男女同格婚が増えるのでは、と思うかもしれませんが、残念ながらそうはなりません。むしろ全体マッチング総数を減らします。
たとえば、かつてのような男性500万円+専業主婦という組み合わせは少なくなり、男性500万円+女性300万円で世帯年収800万円という組み合わせを求めるようになります。男性500万円+女性500万円にならないのは、500万円の女性は700万円の男性を求めるからです。とはいえ、男性で500万円以上は上位3割でしかないという前提があります。世帯年収800万円以上がデフォルト設定されてしまうと残りの7割はとてもそこに到達しません。
■「上位3割」しか結婚できない時代
かつての、世帯年収500万円程度が中央値だった時代なら、男性500万円+専業主婦でも男性300万円+女性200万円でもなんとかなっていました。しかし、世帯年収835万円が中央値となってしまうと、300万円台の中央値独身は男女とも選ばれなくなってしまいます。
つまり、男女とも経済条件を求めるようになればなるほど、中間層以下は結婚ができなくなります。そして現に今そうなっています。
夫や妻の個人年収中央値があがっている、世帯年収中央値があがっているという部分だけを見ていると見失いますが、それは年収中央値があがっているのではなく、ある一定額以上の年収がある男女しか結婚できなくなっていることを意味します。だから、世帯年収中央値があがっていても、それと反比例するように婚姻数、夫婦数は激減しています。つまり、「金がある者(上位3割層)だけが結婚できる時代」になったということです。
■「子どもの数」は年収で決まる
金の有無で決まるのは結婚だけではありません。子どもの数もそうです。
2025年の出生動向基本調査から、妻年齢45~49歳を対象として世帯年収別の子どもの数を比較すると、世帯年収600万円未満で1.61人、600万~1000万円で1.81人、1000万円以上で1.91人です。年収の多寡で子どもの数が決定されています。
「金がなければ結婚できない。金がなければ子どもを持てない」というのは決して若者の弱音や甘えではなく、大企業勤務や公務員などの経済上位層3割以外の7割の若者を取り巻く厳しい経済環境が作り上げた現実です。さらに残酷なのは、そうした経済環境に適応しようと若者たちは懸命に夫婦ともに収入を得て、世帯年収を増やそうとしました。
しかし、皮肉にも、そうすればするほどより「結婚条件年収」はあがり続け、結果上位3割のパワーカップル化と、それ以外は「結婚相手がいない」という二極化を強固にしていきます。当然それはさらなる婚姻減を加速します。
この「結婚のインフレ」が起きたのはここ直近の10年間です。なぜなら、2015年くらいまでは世帯年収400万~500万円で十分結婚できた上に子どもも持てていました。男性の年収中央値付近の300万円台で十分結婚できていたからです。
この「結婚のインフレ」の原因は、当連載でも何度も指摘してきた通り、子育て支援偏重の少子化対策の影響は大きい。子育て支援の給付や無償化は、それがあるから「もう一人産もう」という動機にはならず、むしろ「今いる子への投資選好」が高まります。つまり、企図せず一人当たりの子育てコスト意識を高騰させてしまうことになります。
■結婚も家族も「金で買う」ものに
実際、2010~2024年で比較すると、国全体の子育て支援予算(家族関係政府支出)は、倍以上に増えていますが、それと反比例して婚姻も出生も激減し、児童のいる世帯数は26%減。では、一人の母親が産む子どもの数(CPM=Children per mother)は増えたかといえば、それもたった3%しか増えていません。むしろ激増したのが無子率で43%増です。そして夫婦の世帯年収も65%もインフレしてしまった。

子育て支援偏重の少子化対策は、子育てのみならず結婚するコスト意識もインフレさせて、結果無子率をあげたというのが現実です。これは、日本に限らず、他国でも見られる現象で、「ベビーボーナス(子育て支援)政策は、かえってベビークラッシュ(出生激減)を招く」とも言われ始めています。
子育て支援そのものは否定しませんが、問題はそれしかやってこなかったことです。結果、起きたのが「結婚と家族のコスト意識の高騰」で、いわば「結婚や家族を市場化」してしまったようなものです。
「結婚や家族の市場化」が進めば、上位層しかそれを手に入れられなくなるだけではなく、結婚も家族も人間関係までも、その機能を「金で買う」ものに変えてしまう。
今の構造は、そんな未来を作りつつあります。
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荒川 和久(あらかわ・かずひさ)
コラムニスト・独身研究家
ソロ社会論及び非婚化する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。海外からも注目を集めている。著書に『「居場所がない」人たち 超ソロ社会における幸福のコミュニティ論』(小学館新書)、『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』(ぱる出版)、『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会』(PHP新書)、『結婚しない男たち』(ディスカヴァー携書)、『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(中野信子共著・ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。
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(コラムニスト・独身研究家 荒川 和久)
