だから微妙な麺の茹で加減を新人も完コピできる…ラーメンチェーン店が使うマニュアルを凌ぐ"最強ツール"
※本稿は、沢渡あまね『定時で成果 残業ゼロでも目標を達成するチームづくりの教科書』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。

■初見の仕事はどこから手をつけるか
一見(初見で)、未知であると思われる仕事や事象も、よく見てみると既知の部分が含まれていることはよくあります。そして、この「既知の部分」を早く見つけられるかどうかが、仕事の初動スピードと残業時間に直結します。
● 既知の部分から着手して、仕事を少しでも前に進める
● 既知の部分から類推して、未知の部分を含む仕事の全体像を明らかにする
● 既知の部分は自分が担当し、未知の部分を知見や経験のある他者に頼る
未知のなかに既知を見つけ、そこから一点突破または全面展開できる人やチームは強いです。その突破力は、決して気合・根性論の上に成り立っているものではありません(もちろん、ときには気合・根性が有効に機能する場合もありますけれども)。
何より、「どこから手をつければいいかわからない」という暗中模索の時間こそが、最も無駄な残業を生みやすい状態です。既知の部分を足がかりにすることで、その時間を大幅に短縮できます。

■細かく分解すれば体験したことがある部分が出てくる
「分解」せずに諦めていないか?
未知のなかの既知を発見し、突破していくために最も大事な行動とはなんでしょう。
それはズバリ、「分解」です。
分解は業務改善の基本であり、それどころか未知のものごとを正しく怖がり、正しく安心し、正しく向き合っていくためにも必須の基本動作といえます。どんなに未知な仕事や事象であっても、細かく分解していけば必ず既知またはいままでに体験したものごととの類似の部分がどこかしらに見つかるものです。なお、既知の種類の例は図表1に示す通りです。
私はバスケットボールが好きで、漫画「スラムダンク」を見て育った一人なのですが、スラムダンクでもキャプテンやプレイヤーが「まず1本決めよう!」と不利な状況のチームを鼓舞するシーンがたびたび描かれています。
まず、確実にシュートを1本決めて、チームに手ごたえをもたらす。それは、未知なものごと、困難なものごとに向き合うあらゆる営みにあてはまります。
分解して既知の部分が見つかれば、そこから着手して効率化・時短へ。残った未知の部分は「成長のための学習時間や投資時間」として向き合う。
そのメリハリをつける判断基準を、管理職は持っておきたいです。
■「抜け」「漏れ」「手戻り」を無くす
「仕事の5つの要素」を意識できているか?
一見未知と思われる仕事や事象を分解するうえで役立つフレームワーク(枠組み)を1つ紹介します。
「仕事の5つの要素」と呼ばれるもので、未知であるか既知であるかにかかわらず、仕事を誰かに任せるまたは引き受けるときに「抜け」「漏れ」「手戻り」がないよう両者で擦りあわせるための共通言語として私が普及・推進をしている考え方です。
使い方は極めてシンプル。対象となる仕事や事象を、以下に示す5つの要素に、図を描きながら(またはメールやチャットなどで箇条書きにしながら)分解および定義するのみ。
そうして、相手と自分との認識を言葉にしてズレがないかを確認していきます。
① 目的:その仕事を、何のために行うのか
② インプット:必要な原材料、要求事項、データ、参考情報、ツールなど
③ 成果物:完成物または完了状態
④ 関係者:直接または間接的に関係する人や組織
⑤ 効率(または進め方):目標・実績の所要時間、コスト、歩留まりなど。または、仕事の進め方(手順、プロセス、場所などの環境)そのもの

■効率化できる部分を見極める
このようなシンプルな絵を描きながら対話するだけでも、既知として効率よく進められる部分、他者を頼ったほうがいい部分、正しく時間をかけて悩むべき部分が見えてきます。言い換えれば、「どこを効率化して時間を生み出し、どこに時間をかけるべきか」の地図が描けるということです。このような共通の地図なき状態でいきあたりばったり、手当たり次第で仕事を進めると、無駄な手戻りや残業がどんどんと増えていきます。
「仕事の5つの要素」の詳しい解説と、ビジネスシーンに応じた具体例は書籍『任され型』(三笠書房)をご参照ください。新入社員研修や新任リーダーの育成のための教材としても重宝します。
■マニュアル化できないカンとコツ
「既視感」を醸成できているか?
既知と同様におさえておきたい考え方があります。
それは「既視」です。既に見たことがあるような感覚、それを「既視感」ともいいます。既視感は、既知を引き出すうえで大きな威力を発揮します。
チームに既視感が蓄積されているほど、同じような仕事やトラブルに素早く対応できるようになり、無駄な残業を防ぐ力にもなります。
「そういえば、どこかで見たことがある……」
「あれ……似たようなトラブル、昔経験したことがあるぞ!」
「あの人、どこかで会ったことがある気がする……」
「このテーマ、詳しい人がどこかにいた気がする……」
そこから知識や経験や人的ネットワークをたどり、引き出して目先のものごとを解決した。皆さんも多かれ少なかれ、そのような経験があるのではないでしょうか。
そこまで大げさな話でなくても、たとえば名前も住所も覚えていないけれども、「国道1号線と県道が交わる交差点の、西にあるあのお店」など、景色や情景で覚えている名店などがあるかもしれません。何度も通っているうちに、場所のイメージだけでそのお店を記憶している。しかし、いまだにお店の名前はすぐに出てこない。
これは既視感でもって知識を記憶し、運用している状態ととらえることができます。

■マニュアル化より大事なこと
既視感頼みの状態は、必ずしも悪いとはいえません。ものづくりの職人が活躍している現場における「カンコツ」(勘とコツをあわせた言葉。熟練の職人が培った長年の経験や勘にもとづいて行われている作業や、そのような状態を指す)なども、既視感の積み重ねで成り立っているといえます。
言葉でうまく説明できないけれども、イメージとして脳内に焼きついた、または体が覚えている知識や技術。それを後任の人たちに引き継ぐには、マニュアル化も大事ですが、すべてをマニュアルにできるとは限りません。そもそも、長年その仕事に携わっている本人ですら、うまく言葉にできないのですから。
そのような場合、後任の人の体験または疑似体験を増やすのも現実的かつ確実といえるでしょう。
■桜木花道がシュートを決められたワケ
● 既視感の醸成(カン、コツを設計する)
● 既視感の知識化(カン、コツを組織知に変える)
この2つの考え方も、伝承しにくい技術や知識を引き継ぎ、なおかつ未知を既知化して効率よく仕事を進めていくためにもっておきたいです。既視感をいかにチームの資産にするかが、残業削減における管理職の腕の見せどころです。
再び私の大好きな漫画「スラムダンク」の話をしましょう〔させてください(笑)〕。
主人公の桜木花道(さくらぎはなみち)が、強豪チームとの試合の最終局面の「ここぞ」というタイミングで大活躍する名シーンがあります(「ネタバレ」になるといけないので、細かな記述は避けます)。それはひとえに、既視感によってもたらされた逆転劇ということができるでしょう。
バスケットボール初心者(素人)の花道は、顧問である安西先生とコーチのアヤコさんの指導のもと、文句をいいながらも地道な練習を続けて(いや、続けさせられて)きました。その練習を通じて叩き込まれた、感覚の積み重ねが功を奏して、「いまこのとき」「ここぞ」のタイミングを逸せずして、培った基礎能力と感覚を発揮して最後をキメたのです〔そのときの花道のセリフは、私の心に感動とともに何度でも蘇ります。あ、これも既視感かもしれませんね(笑)〕。
既視感は裏切らない。既視感が自身やチームのピンチを救うことがあります。強いチームに進化するためにも、メンバーも、管理職やリーダーの皆さんもさまざまな体験を獲得し、既視感を増やしていきましょう。
既視感を醸成する方法、引き出す方法については第4部で触れつつ、それだけで1冊の書籍の内容になりそうでもあり、別の機会にじっくりお話しすることとしたいです。この作品では、そっと添えるだけにとどめておきます。

■既視感を醸成する
上記で既視感の醸成の重要性をお話ししました。
「そういえば、どこかで見たことがある……」
「あれ……似たようなトラブル、昔経験したことがあるぞ!」
「あの人、どこかで会ったことがある気がする……」
「このテーマ、詳しい人がどこかにいた気がする……」
このような既視感が、ものごとの解決を早め、残業削減につながることはよくあります。つまり、無駄に悩みすぎ、余計なボールを抱えなくてすむようになる。
管理職は、メンバーが既視感を得るための場や体験もできる限りつくっていきましょう。といっても、大げさなことをする必要はありません。
■「ついで」仕事でカン・コツを伝える
一つ、好事例を紹介します。
全国に店舗を展開するあるラーメンチェーン店は、麺の茹で具合を調整する方法、湯切りのポイントなど調理のコツや事例(プラクティス)を、スタッフが動画で撮影して社内SNSで投稿し共有しあっているそうです。その結果、各店舗の店長のスタッフ育成の負荷も減り、なおかつ店舗を超えて効率よく調理のポイントを学びあえるようになったそうです。
そのような、いわば職人のカン・コツを言葉で説明するのは難しく、マニュアルをつくる時間を確保するのも現実的ではありません。それこそ残業が増えてしまいます。
とはいえ「見て覚えろ」「習うより慣れろ」では効率も悪く、新入りのスタッフもともすれば嫌気がさして辞めてしまう。

この方法は、スタッフが店舗で調理をする「ついでに」手持ちのスマートフォンやタブレットでその様子を撮影し、少々のコメントを添えて社内SNSに投稿するのみ。
「わざわざ」手順を文章にしたり、マニュアルを作成する手間は一切ありません。
「わざわざ」を「ついでに」に変えるのは業務改善の基本です。
この取り組みにより、このラーメンチェーン店のスタッフは他店舗のスタッフのやり方を参考にし、学ぶことができるようになったとともに、動画で観たイメージを脳内に焼きつけて、「いまこのタイミングで、こう手を動かせばよい」など既視感をもとに技術を再現することも可能になったそうです。
〈行動を促す一言〉
言語化、マニュアル化で疲弊
既視感を醸成しませんか?
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沢渡 あまね(さわたり・あまね)
作家/ワークスタイル&組織開発専門家
1975年生まれ。あまねキャリア株式会社CEO/株式会社NOKIOO顧問/浜松ワークスタイルLab所長/国内大手企業人事部門顧問ほか。「組織変革Lab」主宰、DX白書2023有識者委員など。日産自動車、NTTデータなどを経て現職。400以上の企業・自治体・官公庁で、働き方改革、組織変革、マネジメント変革の支援・講演および執筆・メディア出演を行う。『問題地図』シリーズ(技術評論社)をはじめ、『新時代を生き抜く越境思考』(同社)、『職場の科学』(文藝春秋)、『チームの生産性をあげる。』(ダイヤモンド社)、『仕事は職場が9割 働くことがラクになる20のヒント』(扶桑社)など著書多数。
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(作家/ワークスタイル&組織開発専門家 沢渡 あまね)
