時計の針が右回りなのはなぜ? 「日時計の影の動きが右回りだったから」では不十分なワケ

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もし未知の異星人から「あなたはどこから来ましたか?」と問われたら、どう答えますか?

「地球から」という回答は、宇宙規模の社交場では失笑を買ってしまうかもしれません。実は私たち地球人は、ある決定的な理由により、宇宙の平均レベルよりも科学の発達が遅れている可能性があるのです。

ファーストコンタクトの日に恥をかかないために必要なのは、地球の狭い常識ではなく、宇宙のどこへ行っても通用する「普遍的な教養」と「宇宙的思考法」です。

多種多様な異星人が行き交う宇宙ステーションで繰り広げられる、知的で刺激的な問いの数々。宇宙で真に求められる「本当の科学知識」とは一体どのようなものなのか、その知的な冒険の一端をぜひ覗いてみてください。

※本記事は、講談社『宇宙人と出会う前に読む本 全宇宙で共通の教養を身につけよう』(高水 裕一)の内容を抜粋・再編集したものです。

宇宙はエネルギー源に満ちている

旧ソ連の天文学者ニコライ・カルダシェフは1964年に、宇宙に存在する文明を発展度によって3段階に分けた「カルダシェフ・スケール」を提唱しました。これに私なりに少し補足をして、宇宙文明のレベルを区分してみます。

カルダシェフ・スケールはI、Ⅲ、Ⅶの3段階で、私の補足はその間を埋めたものです。

2020年代の地球は、いまようやくレベルⅡに入ったというところでしょう。仮に火星への移住が実現して初めて、レベルⅡとレベルⅢの中間地点というイメージです。

レベルⅢに達するには、太陽のエネルギーを逃さないようにする必要があります。たとえばアメリカの物理学者フリーマン・ダイソンが考えた、太陽を卵の殻のようなもので覆ってしまう「ダイソン球」のような技術が求められるでしょう。

レベルⅣ以上は、少なくともこれまでの宇宙飛行の技術を根本的に変革し、超光速移動や超光速通信といったアイデアを成功させないと実現は不可能です。

ペガスス座の彼の惑星のレベルは、ⅢからⅣへ移行しようとしているところかもしれません。あなたにこんなことも興奮気味に話していたからです。

「それと、調査中にほかの惑星から聞こえてきた噂では、ブラックホールの利用も始まっているそうですよ。ブラックホールは何でも吸い込むだけじゃなく、きわめて高速のジェットも出していることはご存じですよね? あれをエネルギーとして使うんです。また、ブラックホールの周囲で宇宙船を回転させて、加速させるというアイデアも検討されているそうです。もしもそれが実現すれば、いよいよ恒星間移動が視野に入ってきます!」

実際に、銀河の中心にある巨大なブラックホールは、強烈なジェットを放っています。その速度は光速度の90%以上とすさまじく、このエネルギーをたとえばスイング・バイのようなイメージで宇宙船加速に利用できれば、宇宙飛行は劇的に変化するはずです。進歩した宇宙人にとってブラックホールは、貴重なエネルギー源となっている可能性が高いと思われます。宇宙のあちこちにあって、当分は枯渇しないのも魅力です。

もちろん、いまは想像の域でしかありませんが、発展した文明は必ず、宇宙のさまざまな天体現象をエネルギーに利用しているはずです。核融合も、恒星のエネルギー生成を真似た技術です。ブラックホールにかぎらず、利用可能な現象は宇宙にはたくさんあると思われます。

宇宙人としての教養を養うために

「ところで、あなたはエネルギーについてかなり熱心に研究されているようですが、もしかしたら惑星では、エネルギー政策に関わるようなお仕事をされているのですか?」

ほろ酔い気分も手伝って、あなたは少し踏み込んだことを聞いてみました。すると、彼はしばらく黙ったあと、微笑を浮かべてこう答えました。

「じつは私、大統領なんですよ」

「ええっ!? そ、そ、そんな偉い方だったのですか!? それはいままで、失礼しました!」

「いえいえ、そんなことありません」

「一国の大統領がみずからエネルギーを研究しに来られたんですか?」

「いえ、私たちの惑星ではしばらく前に、国家はすべて解消されて、惑星全体が一つの共同体になりました。大統領は惑星の代表者で、私はその11代目なんです。初代のころはまだ争いも絶えず大変でしたが、いまは『惑星民』という意識が一人ひとりに根づき、すっかり平和になりました。おかげでこうして留守にしても心配ありません。根が凝り性なもので、エネルギーの勉強をしていると自分でもいろいろ見てみたくなって、つい調査団に応募しちゃったんです」

いたずらっ子のように彼は笑い、あなたは深い感銘を受けました。この頼もしくもチャーミングなリーダーにも、そういう人を選ぶ惑星の文明の成熟ぶりにも。

「うちの惑星でも石油が出ないか、徹底した調査が必要だな。あるいは技術的に生成できないものか……。いずれにしても収穫はあったので、部下たちには叱られずにすみそうです」

おそらく彼の惑星なら、もし石油が実用化されても、CO2が問題になるようなことはないでしょう。そんなことを思いながら、彼がしている腕時計をなにげなく見ていたあなたは、あることに気づきました。秒針が左回りになっているのです。

「あれ、時計が逆回りになっていませんか?」

「え? 私たちの惑星ではこれが普通ですよ」

時計の針が回転する方向は、少なくとも地球では、日時計の名残をとどめています。かつて使われていた日時計は、太陽の光を受けてできる影が回転することで時間を表していました。その回転方向と同じ方向に針が回転するように、地球の時計はつくられたのです。

しかし、「時計の針が右回りなのは、日時計の影が右回りだった名残」と説明するのは大問題です。理由はわかりますよね。そう、これは北半球での話で、南半球では日時計の影は逆に左回りになるからです。こんな説明をすると南半球の人から猛クレームを受けそうです。地球の時計が「右回りしかない」のは、時計を最初につくったのが北半球の文明だったからです。

「ということは、地球の時計の針が右回りなのは、地球では比較的、北半球の文明が先に発達したことの間接的な証拠とも言えるのかもしれませんね。そんなこと、気づかなかったなあ」

「たしかに私の惑星では、文明の発達は南半球が先行していましたね。なるほど、面白い」

調査団では団員たちの時計は秒まで合わせられています。彼とあなたの時計を交互に見ていると、秒針がそれぞれ反対方向からやってきて、いちばん上でめでたく出会っているようにも見えてきます。二人はどちらからともなく、私たちのようですねと言って笑いました。

最後のエピソードは、ちょっと無理があるかもしれません。ほかの惑星でも同じしくみの腕時計が使われている可能性は、あまり高くないかもしれないからです。それでも最後にこの話を入れたのは、腕時計の針の動きひとつにも、宇宙的な感覚を養うチャンスは隠れているということを言いたかったからです。たとえば、天王星のように自転軸が横倒しになっている惑星とか、あるいは金星のように自転の向きが公転とは反対の惑星では、日時計の影や腕時計の針はどうなるか? などなど、そこからさらに問いは広がります。

結局、宇宙人としての教養をどれだけ高められるかは、なにげない日常のなかで普遍的なものと、そうでないものをどれだけ見極められるかにかかっているのではないかと思います。地球人にとっては必要でも、宇宙人にとっては無意味なものも少なくないはずです。ぜひ身の回りのものを、宇宙人的視点で見つめなおしてみてください。そのときあなたは地球にいながらにして、名実ともに立派な宇宙人となっていることでしょう。

冒険を終え、すっかりたくましくなったあなたに、この言葉を贈りたいと思います。量子力学の創始者の一人で、プランク定数にその名を残すマックス・プランクのものです。

科学は自然の神秘を解き明かすことではない。

なぜなら私たち自身が自然の一部であり、解き明かそうとする神秘の一部なのだから。

じつに深い真理だと思います。ダークエネルギーや宇宙人原理などは、文明が発達した宇宙人にとっても「神秘」のはずです。つまるところ宇宙を解明していけば必ず、私たち自身の存在や起源についての問いに突きあたるのです。私たち自身も「神秘の一部」とは、まさにそのことを端的に表していて、私はこの言葉にとても魅力を感じるのです。

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