【放置はNG】自覚症状なしで失明も!? 糖尿病網膜症のレーザー治療費と公的制度

「レーザー治療にどれくらいお金がかかるのか不安」「注射はいつまで続けるものなのか」といった不安を感じている方は少なくないのではないでしょうか。糖尿病網膜症は自覚症状のないまま進行することが多く、レーザー治療や抗VEGF注射による治療が長期にわたることが多いため、月々どれくらいの費用がかかるのかを早めに知っておくことは、治療を続けていくうえでも、家計管理のうえでもとても重要です。この記事では、レーザー治療と注射治療にかかる費用の目安、費用を抑える工夫、使える公的制度について解説します。


監修医師:
柿崎 寛子(医師)

三重大学医学部卒業 / 現在はVISTA medical center shenzhen 勤務 / 専門は眼科


医療法人社団シンシアエージェンシー事務長
T.K

2015年臨床検査会社入社
2023年より医療法人社団シンシアエージェンシー入職

糖尿病網膜症とは|なぜレーザー治療や注射が必要になるのか

糖尿病網膜症は、血糖値が高い状態が続くことで、目の奥にある網膜(もうまく)の細い血管が傷つき、出血やむくみが生じる病気です。進行の程度により「単純網膜症」「増殖前網膜症」「増殖網膜症」の3つの段階に分けられ、単純網膜症の段階では自覚症状がほとんどありません。血管の詰まりが進んで増殖前網膜症、増殖網膜症へと進むと、視力に大きく関わる治療が必要になります。

増殖前網膜症以降は、血流が滞った網膜に酸素や栄養が届かなくなるため、網膜の一部(血流が滞っている場所)を焼き固めることにより、その部分に、さらに糖尿病網膜症を悪化させる新生血管(異常な血管)の発生を防ぐ「網膜光凝固術」が行われます。また、経過中に目の中心部「黄斑(おうはん)」がむくむ「糖尿病黄斑浮腫」が起こることがあり、この場合は薬剤を目に直接注入する「抗VEGF治療(硝子体注射)」が中心です。レーザー治療と注射治療は、病状に応じて組み合わせて行われることもあります。

レーザー治療(網膜光凝固術)にかかる費用

網膜光凝固術の費用は治療の範囲によって点数が変わります。2026年6月時点の診療報酬では、網膜の一部にレーザーを当てる「通常のもの」は10,020点(3割負担で約30,060円)、増殖網膜症に網膜全体へ行う「汎網膜光凝固術(はんもうまくこうぎょうこじゅつ)」を含む「その他特殊なもの」は15,960点(3割負担で約47,880円)です。いずれも「一連につき」の点数で、複数回に分けて治療しても原則1回のみの算定となります。これに再診料や眼底検査などの費用が別途加わります。

■ 再診料+外来・在宅物価対応料
・点数:78点
・3割負担の目安:約230円
■ 網膜光凝固術(通常のもの・一連につき)
・点数:10,020点
・3割負担の目安:約30,060円
■ 網膜光凝固術(汎網膜光凝固術・一連につき)
・点数:15,960点
・3割負担の目安:約47,880円
■ 蛍光眼底造影検査
・点数:400点
・3割負担の目安:約1,200円
■ 眼底三次元画像解析(OCT検査)
・点数:190点
・3割負担の目安:約570円

※上記はあくまで目安です。受診する医療機関や検査内容・投薬内容により異なります。

抗VEGF注射(糖尿病黄斑浮腫)にかかる費用

糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF治療は、加齢黄斑変性と同じ薬剤が使われることが多く、費用の構成も共通しています。硝子体内注射の手技料は600点(3割負担で約1,800円)で、これに薬剤費、再診料、OCT検査などが加わります。薬剤費が費用の大半を占め、種類によって自己負担額は数倍異なります。

治療は「導入期」に4~6週ごとのペースで数回注射を行い、むくみを抑え込んだ後、「維持期」として間隔を空けながら経過を見ていきます。薬剤の種類により、導入期の回数や維持期の間隔は異なります。2026年に入り、代表的な抗VEGF薬アイリーアと同じ有効成分のバイオ後続品が発売され、同等の効果を保ちながら薬剤費を3~4割ほど抑えられる選択肢が増えました。ただし糖尿病黄斑浮腫に使えるかどうかは製品によって異なるため、選べるかどうかは主治医への確認が必要です。以下は3割負担の場合の1回あたりの費用と、投与間隔の目安です。

■ アフリベルセプトのバイオ後続品
・薬剤費の目安(3割負担):約20,400円
・注射当日の総額目安:約23,000円
・投与間隔の目安(導入期→維持期):1ヶ月ごと5回→2ヶ月に1回程度
■ ラニビズマブ系(先発・バイオ後続品)
・薬剤費の目安(3割負担):約21,600~27,800円
・注射当日の総額目安:約24,200~30,400円
・投与間隔の目安(導入期→維持期):視力安定まで毎月→症状に応じて調整
■ アイリーア2mg(先発)
・薬剤費の目安(3割負担):約29,900~34,200円
・注射当日の総額目安:約32,500~36,800円
・投与間隔の目安(導入期→維持期):1ヶ月ごと5回→2ヶ月に1回程度
■ ベオビュ
・薬剤費の目安(3割負担):約30,900円
・注射当日の総額目安:約33,600円
・投与間隔の目安(導入期→維持期):6週ごと5回→3ヶ月に1回程度
■ バビースモ
・薬剤費の目安(3割負担):約42,500円
・注射当日の総額目安:約45,100円
・投与間隔の目安(導入期→維持期):4週ごと4回→最大4ヶ月に1回程度
■ アイリーア8mg(高用量)
・薬剤費の目安(3割負担):約43,900円
・注射当日の総額目安:約46,500円
・投与間隔の目安(導入期→維持期):4週ごと3回→4ヶ月に1回程度

※上記はあくまで目安です。受診する医療機関や検査内容・投薬内容により異なります。

導入期はどの薬剤でも4~6週ごとに3~5回の注射が必要なため、治療開始から数ヶ月は費用がまとまってかかります。たとえばアイリーア2mgを選んだ場合、導入期の5回だけで薬剤費の自己負担が15万~17万円程度に達する計算です。維持期に入ってからは、通院間隔が延びる薬剤ほど年間の通院回数と総費用が抑えられる傾向があります。

なお、糖尿病網膜症は両眼に起こることが多く、両眼を治療する場合の費用は片眼のおよそ2倍になります。硝子体内注射は片眼ごとに手技料と薬剤費がかかり、レーザー治療も左右それぞれに費用が生じるためです。両眼を同じ月にまとめて治療すると自己負担はその分大きくなりますが、後述する高額療養費制度の上限額には達しやすくなります。

費用を抑えるためにできること

費用を抑えるためにできることを3つ紹介します。

■ バイオ後続品への切り替えを相談する

先発品のアフリベルセプト(アイリーア)には、2026年に国内発売されたバイオ後続品があります。製造ラインが先発品と同じ「バイオセーム」と、別会社が製造する「バイオシミラー」の2種類があり、いずれも効果や安全性は確認されています。ただし特許に関する取り決めにより、製品によっては糖尿病黄斑浮腫に使えるようになるのが2026年11月からとなります。切り替えを希望する場合は、いま使える製品があるかを主治医に確認しましょう。

■ 高額療養費の限度額適用認定証を早めに準備する

レーザー治療や抗VEGF注射は1回あたりの医療費が高額になりやすいため、高額療養費制度を使う場合は事前に「限度額適用認定証」を取得しておくと、窓口での支払いを自己負担限度額までに抑えられます。マイナ保険証を利用できる医療機関であれば、認定証がなくても窓口での支払いが自動的に上限額までとなり、事前の申請も、あとからの払い戻し申請も不要です。加入している健康保険の窓口で確認しておくと安心です。

■ 通院間隔や検査の頻度について主治医と相談する

抗VEGF治療では、薬剤費は高くても投与間隔を延ばせる薬剤を選ぶことで、年間の通院回数や交通費を含めた総負担が軽くなる場合があります。また、症状が落ち着いている時期は精密検査の頻度を必要なタイミングに絞ることで、検査費用を抑えられることもあります。通院の負担が大きい方は、薬剤や検査の選択肢も含めて主治医に相談してみることをおすすめします。

知っておきたい公的制度

長期治療になりやすい糖尿病網膜症の治療では、公的制度の活用で負担を抑えられることがあります。代表的な3つの制度を紹介します。

■ 高額療養費制度(こうがくりょうようひせいど)

高額療養費制度とは、1ヶ月(1日~末日)の医療費の自己負担額が、年齢や所得に応じた上限額を超えた場合に、超えた分が払い戻される制度です。上限額は2026年8月の診療分から引き上げられ、年収約370万~770万円の方の場合、月の上限は「85,800円+(医療費総額-286,000円)×1%」になりました。たとえば医療費総額が100万円かかった月なら、上限は約93,000円です。あわせて年間(8月~翌年7月)の上限が53万円に設けられ、直近12ヶ月のうち4回目以降にあたる月の上限は44,400円に据え置かれています。ただし、片眼にレーザー治療や注射を1回受けた月は自己負担が3万~5万円程度にとどまり、上限額に届かず払い戻しが生じないことも少なくありません。両眼を同じ月に治療した場合や、レーザー治療と注射が重なった月など、医療費がまとまってかかった月に効いてくる制度と考えておくとよいでしょう。申請窓口は、加入している健康保険組合や協会けんぽ、市区町村の国民健康保険課、後期高齢者医療制度なら都道府県の後期高齢者医療広域連合です。

■ 医療費控除(いりょうひこうじょ)

1年間(1月~12月)に支払った医療費が一定額を超えた場合、確定申告をすると所得税や住民税の負担を軽くできる制度です。生計を一にする家族の分をまとめて申告でき、同居していなくても仕送りなどで生活を支えていれば対象になります。通院にかかった公共交通機関の交通費も含められます。抗VEGF注射を続けると年間の自己負担が数十万円になることもあるため、領収書や通院記録は保管しておきましょう。申告はe-Taxでも行えます。

■ 身体障害者手帳・障害者総合支援法(しんたいしょうがいしゃてちょう)

糖尿病網膜症の進行により視力や視野に一定の障害が残った場合、身体障害者手帳(視覚障害)の交付を受けられることがあります。手帳を取得すると医療費助成や税の優遇、公共交通機関の割引などの支援が受けられます。等級は視力や視野の程度に応じて1級から6級に分かれます。申請窓口はお住まいの市区町村の障害福祉担当窓口です。

治療を自己判断で中断するとどうなるか

糖尿病網膜症は自覚症状が乏しいまま進行することが多く、費用の負担から通院や注射の間隔が空いたり自己判断で中断したりすると、抑えられていた新生血管の活動が再び進み、硝子体出血や網膜剥離を起こして視力が急激に低下するおそれがあります。一度失われた視力は元に戻らないことが多いため、自己判断せず決められた間隔で通院を続けることがとても重要です。

以下のような症状に気づいたときは、次回の予約を待たずに早めに眼科を受診してください。

■ 急な視力低下
・具体的な症状:数日~数週間で急に見えづらくなる
■ 飛蚊症の急な悪化
・具体的な症状:黒い点や糸くずのようなものが急に増える
■ 視野の一部が欠ける
・具体的な症状:見える範囲の一部が黒っぽく欠けて見える
■ 物がゆがんで見える
・具体的な症状:直線が波打って見える、格子が曲がって見える

編集部まとめ

糖尿病網膜症のレーザー治療は1回(一連)あたり3割負担で約3万~5万円、抗VEGF注射は薬剤の種類によって1回あたり2万円台から4万円台の自己負担幅があり、いずれも長期的な通院が必要になる治療です。費用の見通しを立てるうえでのポイントを整理します。

レーザー治療(網膜光凝固術)は範囲により10,020点または15,960点で、いずれも一連の治療につき1回の算定となる

抗VEGF注射は薬剤費・手技料・検査料・診察料で構成され、薬剤の種類で自己負担額が大きく変わる

導入期は4~6週ごとに3~5回、維持期は薬剤により1~4ヶ月に1回が投与間隔の目安

高額療養費制度や医療費控除、身体障害者手帳などの公的制度を活用することで、経済的な負担を抑えられることがある

費用面の不安は、医療ソーシャルワーカーへの相談で解決できることが多い

糖尿病網膜症と診断されたら、費用のことで治療をためらう前に、主治医や医療ソーシャルワーカーに一度相談してみることをおすすめします。使える制度や薬剤・治療法の選択肢を整理してもらうだけでも、費用の見通しが立ちやすくなり、治療を続けやすくなります。遠慮なく聞いて問題ありません。

※本記事の情報は2026年8月時点のものです。

参考文献

糖尿病網膜症診療ガイドライン(第1版)|日本糖尿病眼学会診療ガイドライン委員会

令和8年度診療報酬改定について|厚生労働省

高額療養費制度を利用される皆さまへ|厚生労働省

眼科用VEGF阻害剤アイリーア8mg 日本における製造販売承認取得|参天製薬

医療用医薬品の薬価基準収載品目リスト及び後発医薬品に関する事項について|厚生労働省

No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)|国税庁