口頭弁論期日を終えた直後の原告・松村幸裕子氏(中央左)、倉持尚氏(中央右)と代理人弁護士ら(9月17日 東京都千代田区/一般社団法人LEDGE提供)

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個人事業主である弁護士らが国を相手取り、保育園等の保育料を所得税の事業所得等の計算において「必要経費」と認めるよう求めている訴訟で、9月17日、第7回口頭弁論が東京地裁で開かれた。

本訴訟は、原告らが2023年分の確定申告について、保育料を必要経費として認めなかった税務署の処分は違法であるとして、その取り消しを求めて2025年2月25日に提訴したものである。

今回の口頭弁論期日では原告2人に対する本人尋問が行われた。原告らは保育園の利用が事業を継続するためにいかに不可欠であったか、それぞれ具体的な実情を語った。

従来の課税実務では、保育料は事業と無関係な「家事費」(所得税法45条1項1号)と扱われ、必要経費(同法37条1項)への算入が否定されてきた。これに対し原告側は、保育料は「子どもの親が働く時間を確保するための対価」であり、事業を行う上で不可欠な支出だと主張し争っている。

尋問の焦点は「原告個人の具体的な実情」

前回(第6回)口頭弁論までの審理では、所得税法における「必要経費」の要件として事業との「直接関連性」が必要か否かや、国の法制度において保育所がどのように位置づけられているかといった、法律の解釈に関する抽象的な議論が中心となっていた。

被告である国側は、「保育料は育児のための支出であり、業務と直接関連性がない」という理由を示し、必要経費ではなく個人的な支出である「家事費」としている。

これに対し、今回の原告への本人尋問では、保育料の支出が事業を行ううえでいかに必要不可欠であったかを立証することに主眼が置かれた。

原告側は、尋問を通じて、保育料支出の目的や、その支出が収入の維持・増加にもたらした効果といった具体的事情を明らかにし、反論を試みた形だ。

原告・松村幸裕子さん「キャリア中断はありえなかった」

NPO法人など非営利市民活動のコンサルタントとしてフリーランスで活動する原告の松村幸裕子(さゆこ)さんは、自身のキャリア形成の経緯から供述を行った。

松村さんは、中学生時代のボランティア活動をきっかけに社会問題に関心を持ち、大学院で発達心理学などを学んだ後、NPOに就職。非営利組織の経営支援に携わる中で専門性を高め、個人事業主として独立するに至った。

本訴訟で保育料の必要経費算入の是非が問題となっている2023年当時は、NPO支援の会社に勤務する傍ら、個人事業主として自治体やNPOを対象としたワークショップの企画・実施や講演などの業務に力を入れていたという。

保育園の利用申請は会社員として行っていたが、平日の日中に個人事業の業務を行っていたことを、実際の報告書などの証拠を示しながら具体的に語った。

また、当時3歳の長男は、常に松村さんから離れられない状態であり、「長男をそばに置いたまま、講演やオンライン会議、報告書の作成といった集中を要する業務を行うことは不可能だった」と述べた。

「保育園を利用しなければ、そもそも仕事を受けること自体が難しく、納期も間に合わず失注し、次の仕事がなくなる。保育園の利用は不可欠だった」と述べた。

さらに、松村さんは同年に第二子を出産している。「子どもが生まれたからといって、築き上げてきたキャリアを中断させるという考えは全くあり得なかった」とし、仕事を続ける強い意志があったと語った。

その上で、保育所を利用した目的について、明確に「自分が事業を続けて、収入を得るための時間を確保するためだった」と述べた。

原告・倉持尚さん「弁護士業務に保育所は不可欠」

もう一人の原告である弁護士の倉持尚(ひさし)さんは、弁護士という職業の性質を踏まえ、保育所利用の必要性を訴えた。

法廷への出廷や、非常に集中力を要する重厚な書面の作成など、弁護士の業務は、子育てをしながらやり遂げられるものではないと指摘。業務の性質上、保育所の利用は不可欠であったと証言した。

原告側は今回の本人尋問で、抽象的な法解釈の議論にとどまらず、働く親が直面する具体的な現実から、保育料が事業を行うための「必要経費」であると主張した。裁判所がこれらの実情をどう評価するかが、今後の訴訟の行方に影響を与える可能性がある。

本訴訟の代理人である戸田善恭(よしたか)弁護士は、そもそも「必要経費」の意義について判例・学説が固まっているとはいえないと指摘。「本訴訟は、個別の事案に対する判断にとどまらず、裁判所に統一的な見解を求めるという側面も持っている」と話した。