アメリカの医師らが発表した研究で、ジェットコースターに乗ることで、小さい尿路結石なら尿路を通ることが報告された。ディズニーワールドで実証研究した結果、理想的なのは、スペースマウンテンやロックンローラーコースターではなくて、決まった特徴があるジェットコースターだったという。サイエンスライターの五十嵐杏南さんが書いた『ヘンな科学』(三笠書房)より、紹介する--。(第1回)
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■ジェットコースターで尿路結石が通る

読者のみなさん、「楽しい」「子どもが喜ぶ」「本当は苦手だけど、デート中に見栄を張りたい」以外にも、ジェットコースターに乗る理由が見つかりました。

2018年に イグノーベル賞の医学賞を受賞した研究ではアメリカの医師らが、決まった特徴を持つジェットコースターに乗ることで、小さい尿路結石なら尿路を通ることがあると報告した。彼らは、尿路結石を持つ人は定期的に遊園地に行くといいだろう、と提言している。

研究を行ったのはデイビッド・ワーティンガー医師とマーク・ミッチェル医師。きっかけはワーティンガー医師が担当する患者の春休み旅行だった。

患者がフロリダ州にある遊園地のディズニーワールドから帰ってくるなり、「先生! ビッグサンダーマウンテン(ディズニーワールドにあるジェットコースターの1つ)に乗ったら石のうちの1つが通ったよ!」とワーティンガー医師に報告してきたのだ。

ディズニー公式サイトによると、ビッグサンダーマウンテンは「鉱山列車が、荒野を急旋回する」ことがテーマのライド。とても人気がある。

慎重派のこの患者、石が通ったのはただの偶然の可能性もあると考え、何回かビッグサンダーマウンテンに乗ってみた。すると、毎回新たに石が通ったのである。

興味津々のワーティンガー医師は、実際に試してみることにした。3Dプリンターで尿路のシリコン模型を作り、大きさの異なる3つの石や尿も含め、ある尿路結石患者の腎臓系を忠実に再現した。

■前方座席より後方座席に座るほうがより良い

その模型をリュックに入れ、腎臓のある辺りの位置で抱え、医師自身で20回、ひたすらジェットコースターに揺られた。

本当は、ウシかブタの腎臓を遊園地に持って行って試したかったものの、「ファミリーフレンドリーな遊園地で、そのようなものを周囲の目に入れるのは不適切である」としてやめたようだ。

ディズニーワールド側には事前に許諾を取った。論文の謝辞では「この研究を敷地内で行う許可を与えてくれたディズニーワールドに感謝する」と述べている。

患者の言っていたことは本当だった。腎臓模型の中で確かに石が通ったのだ。

ワーティンガー医師は、ジェットコースター後方の席に座った時のほうが、前方の席に座った時よりも、腎臓から尿路へ結石が移りやすいことを確認した。

石の大きさに関わらず、前方座席では17%の確率で通った一方で、後方座席では64%の確率で通った。後方座席のほうが揺れが激しいから、と推測している。

■時速160キロメートルでは速すぎる

また、論文では、「理想的なのは、速く、荒く、ある程度ひねりや回転があるが、逆さまになったりしないものだ」と綴(つづ)っている。スペースマウンテンやロックンローラーコースターなど、ディズニーワールドで比較的「怖い」とされるジェットコースターにも乗って試してみたが、効果は見られなかったからだ。

ビッグサンダーマウンテンはライドのテーマからもガタガタ動くように設計されており、乗客は横に細かい振動で揺さぶられる。

一方、スペースマウンテンなどは速度が速すぎて、加減速のたびにかかる重力により、反対に石が固定されてしまう、とワーティンガー医師は推測している。時速65キロメートル以上であればいいが、時速160キロメートルでは速すぎるらしい。

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医師たちは、一度石が通った後も定期的にジェットコースターに乗ることで、大きな石の発生の予防にもつながるだろう、と結論付けた。

■6ミリメートル以下の石なら試す価値あり

ジェットコースターに乗ることで直径6ミリメートル以上の石が通る確率は1%程度なので、6ミリメートル以下の石なら試す価値あり、とのことだ。

五十嵐杏南『ヘンな科学』(三笠書房)

カルシウムや尿酸が尿路に蓄積してできる結石。原因は不明な場合が多いが、動物性タンパク質の過剰摂取はリスクを上げるとされている。日本では男性で7人に1人、女性で15人に1人が一生のうちに一度は尿路結石ができるとされている。

すぐに生死に関わる病気ではないが、石が尿管に移動すると、とても痛いらしい。小さい石は自然に通るのを待つことが多いが、石を取り除くために手術が必要な時もある。

また、手術とまではいかなくとも、衝撃波を使って大きな石を砕く方法もある。この場合は石の残骸が腎臓に残り、結局また石を形成してしまう可能性があるそうだ。

ということで、石が大きくなる前に行ってみましょうか、遊園地。

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五十嵐 杏南(いからし・あんな)
サイエンスライター
1991年愛知県生まれ。日英両言語でものを書くサイエンスライター。時にはシリアスに、時には肩の力を抜いたテイストで、科学誌やオンラインメディアを中心に記事を執筆している。著書に『世界のヘンな研究 世界のトンデモ学問19選』(中央公論新社)、『生き物たちよ、なんでそうなった⁉ ふしぎな生存戦略の謎を解く』(笠間書院)、『生物の推しポイントをマネしてみた!』(東京書店)など。
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(サイエンスライター 五十嵐 杏南)