年金月13万円へ減額でも「後悔は一切ありません」…62歳男性が繰上げ受給を決めた〈ある出来事〉
内閣府の『令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査結果』によると、50代の3割以上が「同じ仕事を続けるつもり」と回答するなど、定年まで働き続けることを当然と考える人は少なくありません。しかし、アツシさん(仮名・62歳)は、65歳の定年を待たず60歳で仕事を退職し、本来受け取れる年金額が減額される「繰上げ受給」を選択しました。もともとは定年まで働き続けるつもりだったアツシさんの決断を変えた〈ある出来事〉とは、どのようなものだったのでしょうか。
老後資金6,000万円を蓄え、65歳の定年まで働く予定だった
「繰上げ受給を選択して月13万円に減りましたが、後悔はまったくありません」
都内の専門商社で管理職を務めていたアツシさん(仮名・62歳)は、60歳で会社を退職しました。かつては50代後半まで「65歳の定年まではきっちり働くものだ」と信じて疑いませんでした。
内閣府の『令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査結果』によると、50代のころの働く様子として「同じ仕事を続けるつもりでいた」と答えた人は33.7%、「リタイア後のことは全く考えていなかった」人は22.6%にのぼります。アツシさんのように「定年まで当たり前に働き続ける」と考えているシニア層は少なくないことがデータから読み取れます。
アツシさんは、共働きの妻と計画的に貯蓄や投資を続け、50代の終わりには合計6,000万円ほどの金融資産を築いていました。住宅ローンの返済も終わり、老後資金への不安はほとんどありませんでした。それでも、「人生100年時代、お金はいくらあっても困らない」と、漠然とした不安からさらに資産を増やそうと、定年まで働き続けるつもりでいました。
しかし、そんなアツシさんの価値観を覆す出来事が起きたのは、59歳の秋のことでした。
価値観を覆した大親友の急死…遺された妻が語った「痛切な後悔」
高校時代から約50年にわたって親交のあった大親友が、急病によって突然この世を去ってしまったのです。
親友の葬儀から数週間後。アツシさんは、生前から家族ぐるみの付き合いがあった親友の自宅を訪れ、仏壇に線香をあげました。そして、親友の妻と思い出話をしている際、ふと涙をこぼし、こう漏らしたのです。
「『定年したら夫婦で豪華客船のクルーズで世界一周しよう』って約束していたのに……」
結局、仕事ばかりで何も叶えられなかったと悲しみながら、アツシさんへ向けて「働くのは素晴らしいことだけど、元気なうちに、どうか奥さんと一緒に過ごす時間も大事にしてね」と、切実な思いを口にしました。その言葉に、アツシさんは衝撃を受けました。親友もアツシさんと同じように、65歳以降に第二の人生を楽しむつもりだったはずです。
「定年まで我慢していれば、楽しい老後が待っているとは限らない。元気で動ける時間は、なんの前触れもなく終わるかもしれないのか……」
親友の死を機に、人生のタイムリミットを肌で感じたアツシさんは、翌年の60歳で会社を辞め、自分の時間を生きることを決意しました。
年金「月13万円」への減額を受け入れ、60歳で手に入れた〈元気な時間〉
そして、60歳を迎えたアツシさんはあっさりと退職届を提出しました。同時に、本来なら65歳から受け取るはずだった年金の「繰上げ受給」を申請したのです。
年金の繰上げ受給とは、本来65歳から受け取る老齢年金を、60歳から64歳までの間に繰り上げて受け取ることができる制度です。ただし、早く受け取る分、1ヵ月につき0.4%減額され、60歳まで5年間早めると最大で24%減額となります。そして、この減額率は一生涯変わりません。
繰上げ受給により、アツシさんの見込み額月約18万円だった年金は24%減額され、一生涯「月約13万円」となりました。妻の年金と合わせても月の収入は限られますが、アツシさんに後悔は一切ありませんでした。
「もらえる年金は減ってしまいますが、それ以上に自分の時間を生きるほうが重要だと気づきました」
突然この世を去ってしまった親友が、お金よりも大切な「今という時間」の価値をアツシさんに教えてくれたのです。現在62歳になったアツシさんは、妻と一緒に旅行をしたり、映画や落語を観たりと、「老後の自由な時間」を噛みしめるように生きています。
『令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査結果』では、高齢者が今後の生活のために「必要だと思う金融資産額」は、夫婦など同居者がいる世帯で平均2,787万円となっています。親友の死が契機となったのはもちろんのこと、6,000万円の老後資金の準備があったことも後押しとなって、アツシさんは年金を減額してでも「元気な時間」を優先する選択を取れたのではないでしょうか。
※個人情報保護のため、登場人物の情報等は一部変更しています。

