橘玲『エロス資本論』週刊SPA!で連載中!<イラスト>leionarts

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-[橘玲『エロス資本論』]-

「性的魅力は、資本になる」ーー。’00年代初頭、イギリスの社会学者キャサリン・ハキムが提唱した「エロス資本」という概念がある。若い女性の性的魅力は経済的価値を持つ「資本」であり、それをマネタイズすることには経済合理性がある、という考え方だ。
キャバクラ嬢、コンカフェ嬢、アイドル、立ちんぼ……。本連載では、作家・橘玲がエロス資本の視点から、彼女たちの行動と動機を深く掘り下げていく。

(※本記事は週刊SPA!連載「エロス資本論」Vol.2を元に構成しました)

◆歌舞伎町「地下経済」の食物連鎖

路上に立っている女性たちは、「通い組」と「家出組」に分類される。「通い組」は、週末だけ歌舞伎町にやってきて副業感覚で稼ぎ、平日は郊外の実家や自宅へ帰っていく、いわばライト層。彼女たちは、比較的容易に軌道修正ができる余地を残している。

深刻なのは、歌舞伎町やトー横界隈を拠点にして、ホテル生活を続けているディープな「家出組」の少女たち。身分証確認が厳しく宿泊費の高いビジネスホテルは利用できないため、身分証不要のラブホテルを根城にし、1つの部屋に数人で雑魚寝するような共同生活を送ることもある。

現在の立ちんぼ市場には、「合理的に稼ぐための売春」と「生きるための売春」が混在している。

かつて性産業は、生活困窮者が最後に流れ着く場所だと考えられていた。しかし路上に立つ彼女たちの家庭環境を聞いてみると、そこにあるのは単純な「経済的貧困」だけではない。

ひとり親家庭や外国籍の親を持つ子供が多いのは事実だが、一方で「お金はあるけれど心理的に満たされていない子」が数多く交ざり合っている。

中流のなに不自由ない家庭に育ちながら、過度な「教育虐待」や親の過干渉、高すぎる期待に精神をすり減らし、家を飛び出してきた少女たち。親に買ってもらったブランド物の服を身にまといながら、その袖をまくると腕には無数の自傷(リストカット)の傷痕が刻まれている。

一見すると普通の家庭に見える機能不全家族から逃れてきた彼女たちにとって、路上は「生活費を稼ぐ場所」であると同時に、過酷な現実から一時的にドロップアウトするための〝シェルター〟としても機能しているのだ。

こうした背景を持つ彼女たちの場合、保護して家庭に戻せば問題が解決するわけではない。窮屈な児童相談所よりも「家のほうがマシ」と戻る子もいるが、「児童相談所のほうが安心できる」と保護を求める子もいる。