新たな「PS」が示した、ピュアスポーツの現在地|マツダ・ロードスター
今回の改良でもうひとつ重要なのが、車外騒音規制への対応である。新しい規制に合わせ、吸気系、排気系、タイヤなど広範囲に手が入った。スポーツカーにとって音量規制は、ともすれば魅力を削ぐ方向へ働く。しかしマツダは、それを逆に音質を整理する機会として利用した。排気系ではサイレンサー容量を見直し、吸気系にも対策を施した。そのうえでソフトトップの1.5リッター車にはインダクションサウンドエンハンサーを採用。単純に音を大きくするのではなく、不要な成分を抑えながら、アクセル操作に呼応するエンジン音を自然にドライバーへ届ける方向に仕立てている。実際、音量そのものは抑えられているにもかかわらず、エンジンの存在感が薄れた印象はない。むしろ回転上昇に伴う音がすっきりと整理され、アクセル操作とサウンドとの関係が分かりやすくなった。規制対応を単なる「消音」で終わらせなかった点は、この車らしい。
またATの走りの良さにもあらためて驚かされた。スポーツモードを選べば、ワインディングでもドライバーの意図をかなり正確に読み取り、必要なギアを選択する。無闇に低いギアを保持するのではなく、加速、減速、コーナーへの進入といった状況に応じてシフトが決まり、自分で頻繁に操作しなくてもリズムを崩さない。ロードスターといえばMTという先入観を持つ人ほど、一度試してみる価値がある。
カラーリングの選択こそが愉しみ
PSを象徴するもうひとつの存在が、新色のジンクグリーンメタリックである。歴代ロードスターにはさまざまなグリーンが存在したが、今回は単純な復刻ではない。航空機のプライマーから着想を得たという色で、従来のブリティッシュレーシンググリーン的な世界観とは異なる、少し乾いた現代的な表情を持っている。ブラックのRAYSホイールとシルバーのブレンボとの組み合わせもPSによく似合う。このボディカラーはPSだけではなく他のグレードでも選ぶことができる。たとえばS Leather Package V Selectionにスポーツタン色のナッパ-レザーを合わせれば、より上質なグランツーリスモのような雰囲気を味わうこともできる。
37年間作り続けてきたロードスターに、今さらどれほど進化の余地が残されているのか。今回のPSに乗ると、その問いへの答えが見えてくる。
単にパワーだけを増やす必要もなければ、派手な電子制御を加える必要もない。足元を軽くし、バネとダンパーの仕事を整理し、ステアリングを自然にし、音を整える。その小さな改善を積み重ねることで、ロードスターはまだ軽く、まだしなやかに、そしてまだ楽しくなる。
PSという名前が示す「Pure Sport」とは、速さのためのスポーツではない。余計なものを削ぎ落とし、車を動かすことそのものを楽しむ。その意味では、今回のPSはロードスターが37年間追い続けてきたものを、いま一度鮮明にしたモデルなのである。
文:堀江史朗(オクタン日本版) 写真:尾形和美
Words: Shiro HORIE Photography: Kazumi OGATA

