「違約金500万円を支払ってください」…“ローンが通らなければ白紙になる”はずが、マンションを5,000万円で購入した50代男性が誤解していた〈住宅ローン特約〉の適用ルール【弁護士の助言】
マイホーム購入時に「ローンが通らなければ契約を白紙に戻せる」と誤解されがちな住宅ローン特約。買主を守る安心の制度として知られているが、「融資が否決されれば無条件で自動解除できる」と思い込んでいると、思わぬ違約金トラブルに巻き込まれる危険も……。本記事では、陽なた法律事務所代表弁護士の松井竜介氏が、住宅ローン特約の仕組みと、不動産売買契約で見落とされがちな注意点を解説する。※個人情報保護の観点から、登場人物の情報を一部変更している。
「ローンが通らなかったら契約は白紙です」といわれたのに…
「住宅ローンが通らなければ契約はなかったことになりますから、大丈夫ですよ」
会社を経営するAさん(50代男性)は、自宅として5,000万円の新築マンションを購入することを決めた。
売主は不動産会社で、売買契約書に設けられていた住宅ローン特約。営業担当者からも、「万一融資が承認されなければ契約は解除できます」と説明を受けていたことから、Aさんは安心して契約書に署名した。
ところが、契約後に金融機関の融資審査を受けた結果、住宅ローンは否決されてしまう。
Aさんは、「住宅ローン特約があるのだから契約は当然解除になる」と考え、不動産会社へ連絡した。しかし、返ってきた言葉は予想もしないものだった。
突然突き付けられた請求…「解除するなら違約金500万円です」
担当者は淡々とこう告げた。
「住宅ローン特約は使えません。契約を解除するなら違約金500万円を支払ってください」
違約金は売買代金の1割にあたる500万円。さらに、契約はすでに手付解除のできる期限も過ぎており、手付金を放棄して契約を解消することもできないという。
Aさんは困惑した。
「ローンが通らなかったのに、なぜ500万円も支払わなければならないのか」
住宅ローン特約は「融資否決=自動的に解除」ではない
住宅ローン特約は、住宅ローンの利用を前提として不動産を購入する人を保護するための制度である。もっとも、「融資が否決された」という結果だけで当然に契約を解除できるわけではない。
住宅ローン特約が適用されるためには、契約書で定められた条件を満たしていることが前提となる。実務では、融資が通らなかった原因や契約締結後の経緯によっては、住宅ローン特約による解除が認められず、違約金が問題となるケースも少なくない。
重要なのは、「融資が通らなかった」という結果ではなく、「なぜ融資が通らなかったのか」という点なのだ。
実は少なくない「住宅ローン特約が使えないケース」
実際には、次のような場合には住宅ローン特約の適用が争われることがある。
1.契約書で指定された金融機関へ申し込んでいなかった場合
住宅ローン特約では、利用する金融機関や借入条件が契約書で定められていることが多い。そのため、指定された金融機関へ申し込まず、別の金融機関だけで審査を受けた結果、融資が否決された場合には、住宅ローン特約が適用されない可能性がある。
2.融資申込みや必要書類の提出が期限に間に合わなかった場合
住宅ローン特約には、融資申込みや承認取得について期限が設けられていることが一般的だ。買主自身の都合で申込みが遅れたり、必要書類を提出しなかったりした結果、融資審査が進まなかった場合には、解除が認められないことがある。
3.買主の責任で融資が否決された場合
勤務先や年収、借入状況について事実と異なる申告をした場合や、自ら融資条件を満たさなくなるような事情を生じさせた場合には、住宅ローン特約による保護を受けられない可能性がある。
4.自己都合でローン申込みを取りやめた場合
契約後に「やはり購入をやめたい」と考え、融資申込みを取りやめたり、金融機関から求められた資料を提出しなかったりした場合にも、住宅ローン特約の適用は難しくなる。
このように、住宅ローン特約は万能ではない。「契約どおりに適切な手続きを行っていたかどうか」が重要なポイントとなる。
Aさんを救った「メールの文面」
弁護士事務所でのアドバイスで、Aさんは契約書だけでなく、契約締結前からのやりとりを詳しく確認することに。すると、営業担当者とのメールには、下記のような説明が残されていた。
「この条件であれば住宅ローン特約は問題なく利用できます」
「融資が通らなかった場合には契約は解除できます」
さらに、Aさんは担当者の指示どおりに住宅ローンの申込みを行い、必要書類も期限内に提出している。
つまり、融資が否決されたことについて、「Aさんに責任がある」とはいえない状況だったのだ。
Aさんは弁護士に依頼のうえで、契約書だけでなく、これらのメールを含めた一連の経緯を整理したうえで不動産会社と交渉。その結果、不動産会社は違約金500万円の請求を撤回し、契約は住宅ローン特約による解除として処理されることで合意した。
Aさんは違約金を支払うことなく、契約を終了させることができたのである。
重要なのは契約書だけではない
住宅ローン特約をめぐるトラブルでは、契約書の文言だけが問題になるとは限らない。
・契約締結までにどのような説明を受けたのか。
・担当者はどのような案内をしていたのか。
・買主はその説明に従って行動していたのか。
こうした事情は、メールやLINE、書面などの記録によって明らかになることが少なくない。今回の事例でも、営業担当者とのメールが残っていたことが、Aさんに帰責性がないことを裏付ける重要な証拠となった。
「住宅ローン特約があるから安心」ではなく、「どのような条件で使えるのか」を確認する
住宅ローン特約は、不動産購入者にとって非常に重要な制度である。しかし、「ローンが通らなければ自動的に契約は白紙になる」と考えていると、Aさんのように思わぬトラブルに巻き込まれることも。住宅ローン特約が適用されるためには、契約書で定められた金融機関や借入条件、申込み期限などを守る必要があり、買主自身に責任がある場合には、違約金が問題となることもある。
一方で、不動産会社から受けた説明内容や、その説明どおりに買主が行動していたことを示す証拠が残っていれば、結論が変わる可能性もある。
不動産売買では、「住宅ローン特約が付いている」という安心感だけでは十分ではない。契約書の内容を確認するとともに、営業担当者とのやりとりもできる限り記録として残しておくこと。それが、数百万円もの違約金をめぐるトラブルから自らを守る、大きな備えになるだろう。
松井 竜介
陽なた法律事務所 代表弁護士

