肝臓を守るために避けるべきアルコール飲料は何か。肝臓外科医の尾形哲さんは「急性アルコール性肝障害による入院患者のほとんどが、多量に摂取していたアルコール飲料がある。肝臓をいたわりたい方は決して手を出してはならない」という--。

※本稿は、尾形哲『ダイエットも健康も 肝臓こそすべて』(新星出版社)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/Pranithan Chorruangsak
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Pranithan Chorruangsak

■酒は少量でも肝臓にとっては毒

「酒は百薬の長」とは、適量の酒はどんな良薬より健康によい、という飲酒を賛美したことわざです。

しかし、最初にお伝えしておきましょう。酒は、肝臓にとっては少量でも毒です。脂肪肝・脂肪肝炎を短期間で改善したいのならば、断酒が最も効果が高いのです。

アルコール性肝障害の初期症状は脂肪肝です。過剰飲酒者(1日のアルコール摂取量がエタノール換算で60g以上の方)の90%以上に脂肪肝が認められます。

まず、「なぜアルコールを飲むと肝細胞内に脂肪が溜まっていくか」を理解しておきましょう。

アルコール摂取で、肝細胞内に脂肪が蓄積されるメカニズムは次の4つです。

1 糖新生(脂肪や筋肉からブドウ糖を生成すること)が抑制される
2 脂肪酸β酸化(脂肪酸からエネルギーを生成すること)が低下する
3 肝細胞内での中性脂肪合成を高める
4 皮下脂肪・内臓脂肪から遊離脂肪酸を動員する

すなわち、アルコールは、脂肪をエネルギー源として使う機能を低下させて、脂肪を溜めこむ機能を高めてしまうのです。

アルコールを毎日飲みながら、肝臓の脂肪を落とす試みは、まるで下りのエレベーターを逆走して上がろうとするようなもの。非常に効率の悪い努力です。

肝臓に溜まっていく脂肪の由来は、食べ物からはわずか15%で、皮下脂肪や内臓脂肪が溶けて血液で流れてくるのが60%、糖を中性脂肪に変換するのが25%です。

アルコールは、肝臓に溜まる脂肪の85%分をさらに増加させる方向に進ませてしまうのです。

酒のつまみに肉や脂、飲酒後の締めにラーメンなど炭水化物をとる習慣が加われば、脂肪肝は悪化の一途をたどってしまうことでしょう。

出所=『ダイエットも健康も 肝臓こそすべて』(新星出版社)

■酒のカロリーは脂肪に匹敵する

それだけではありません。意外と知られていないのが、アルコール自体が、脂肪と同等のエネルギーを持っていることです。

アルコールは、1gが約7キロカロリーのエネルギーを持っています。脂肪は1g=9キロカロリー、糖・タンパク質は1g=4キロカロリーですから、単位重量当たりのエネルギーは脂肪に匹敵しますよね。

焼酎やブランデーなどの蒸留酒は、糖が入っていないから太らないという俗説がありますが、間違いなのです。

たとえばアルコール度数30%の焼酎は、100mLでアルコール由来約168キロカロリー、1合(180mL)では約302キロカロリーあります。

おにぎり1個分のカロリーです。同様に糖質ゼロ、アルコール5%のビールなら、500ml缶1本につき、アルコール分だけで140キロカロリー補給していることになります。

よく誤解されている言葉に「アルコールはエンプティカロリー」があります。

アルコールはカロリーが空っぽ(エンプティ)という意味ではなく、生きるために必要な栄養素が含まれていないという意味なのです。

生きるために必要な栄養素とは、糖質、タンパク質、脂肪、ビタミン、ミネラルのことを指します。

出所=『ダイエットも健康も 肝臓こそすべて』(新星出版社)

■アルコール性肝障害に至る人の今と昔の体型

アルコールを1日60g(5%ビール500ml3本分)とっている方は、それだけで約420kcalのエネルギーをとっています。カラダに必要な栄養素をきちんととりながら、さらにこの量の飲酒をすると過剰栄養で太ってしまいます。

一方、この飲酒量のまま減量しようとすると必要な栄養素が不足してくるため、筋肉量の減少や内臓機能の低下が起こってしまうのです。

かつて、アルコール性肝障害から肝硬変に至る方は、「酒だけ」飲んでやせ型の方が多い傾向にありました。

近年は「酒を揚げ物や糖質とともに」飲む肥満を伴ったアルコール性肝障害の方が多くなっています。

肝臓は、脂肪化するだけで脂肪毒によって肝炎が起こりえます。

肥満によって脂肪化した肝臓にアルコールによる肝障害が加わると、肝障害はより重篤となり、肝線維化が急速に進行してしまうのです。

■ストロング系チューハイは「薬物」

2019年大晦日、薬物依存症の専門家、松本俊彦先生(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部・部長、薬物依存症センター・センター長)のストロング系チューハイに対するFacebook投稿が話題になりました。

以下に、その内容を引用しご紹介します。

ストロング系チューハイは「危険ドラッグ」として規制した方がよいのではないか、半ば本気でそう思うことがよくあります。私の臨床経験では、500mlを3本飲むと自分を失って暴れる人が少なくありません。

(※許可を得て一部修正。以下は著者。)

大抵の違法薬物でさえも、使用者はここまで乱れません。
結局あれは、「お酒」というよりも、単に人工甘味料を加えたエチルアルコール=薬物なのです。(以下略)

ストロング系チューハイは「薬物」、この言葉に私は強い共感を覚えました。といいますのも、新型コロナウイルスの世界的蔓延の年であった2020年は、急性アルコール性肝障害の入院が、私にとって過去最多であったからです。

急性アルコール性肝障害による入院患者のほとんどが、ストロング系チューハイの多飲によるものでした。コロナ自粛によって、休職、失職をやむなくされた方々が、入院を要するほどの、多量の飲酒をしていたのです。

写真=iStock.com/MichikoDesign
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MichikoDesign

■多飲で救急搬送された30代男性

ある30代の男性は、ストロング系チューハイ500ml缶を1日6缶、7日間飲み続けて、救急搬送されてきました。

意識は混濁(こんだく)し、顔面はパンパンに腫れ、全身は浮腫(むく)んでいました。

CTをとると、肝臓は大きく腫れて脂肪化しており、総量10l以上もの胸水と腹水が溜まっていました。正常値30U/LのAST、ALTはいずれも1000U/Lを超えていました。これは、急激に肝細胞が破壊されていることを意味します。

この方は、もともとアルコール多飲の習慣はなく、肝硬変に至っていなかったため、集中治療で一命を取りとめ、断酒により肝機能が正常になるまでに回復しました。

9%チューハイには、500mlで36gのエタノールが含まれています。

一般的な5%のビールに換算すると、毎日500mL缶約11本分を7日間飲み続けたことになります。松本先生が書かれているように「意識を失う、暴れる」のも大変なことですが、この患者さまのように、致命的な肝不全にもなりうるのです。

ストロング系チューハイは、肝臓をいたわりたい方は決して手を出してはならないアルコール飲料といえるのではないでしょうか。

■酒はやめずに減らすという考え方

アルコール依存症」とは、お酒を繰り返し多量に飲んだ結果、飲酒したいという欲求を自らコントロールすることができなくなる病気です。

アルコール依存症は、肝臓を障害し健康を損ねるだけでなく、仕事、家庭生活に大きな支障をきたします。

私は、お酒の飲み過ぎで家族関係を崩壊させていく現場を数多く見てきました。お酒は上手に付き合わなければ、人生を棒に振ってしまう可能性のある飲み物なのです。

また、アルコール性肝障害から肝硬変になっても、アルコール依存症を伴う場合は、断酒状況や再飲酒リスクなどを含め、移植施設で慎重に適応が判断されます。

依存症でないと判断された場合でも、生体肝移植の場合は半年以上、脳死移植登録には1年半以上の禁酒期間が義務付けられています(肝臓癌に対する手術を受けるためには、飲酒歴や依存症の有無を問われることはありません)。

まず大酒家ご本人、そのご家族の方に知っておいていただきたいことがあります。

それは「お酒をやめることができないのは、意志の弱さとは無関係」であり、「やめられないのが、病気の症状である」ということ。酒が切れると禁断症状のため、そのつらさに耐えることができずに飲んでしまうのです。

写真=iStock.com/kumikomini
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kumikomini

■お酒に強い人ほど依存症になりやすい

アルコール依存症には、なりやすい体質があることが判明しています。依存症になりやすいのは次のような方です。

1 飲酒後に顔が赤くならない(アセトアルデヒド分解能力が高い)人
2 飲酒後、心地よい酔いが味わえる(アルコール感受性が高い)人

すなわち、お酒に強い人のほうが、依存症になりやすいのです。この依存症へのなりやすさは、性格の問題ではなく、遺伝子で決まります。

家系に大酒家がいる方は、依存症の予防をしていくことが大切です。

毎日の飲酒をやめることができずに、肥満による脂肪肝炎とアルコール肝障害のダブルパンチで、肝障害がすすんでいく方が近年多くなってきています。

しかし、依存症と診断されても、ご本人が断酒治療を行っている専門機関での治療を拒否することが多いという問題があります。

実際、アルコール依存症の生涯経験者は国内に約107万人いると推計されていますが、専門的な治療を受けている方は、わずか5万人なのです。

■飲酒欲求を抑える薬がある

ここでは、一部の一般病院でも受けることができるアルコール依存症治療についてご紹介します。

アルコール依存症の治療は、通院や自助グループ参加などの心理・社会的治療が基本ですが、それらを補完する薬物療法があります。

肝臓の三毒には、糖・酒・薬を挙げられますが、肝臓へのダメージは、酒が最も大きいのです。そこで私たちは、肥満・脂肪肝があるけれど、アルコールが肝障害の主な原因となっている方には、食事指導に加えて、積極的に薬物療法を行っています。

現在、保険診療で処方可能な薬剤は、3種類で、4薬剤あります。

1 抗酒剤(ノックビン、シアナマイド)

アルコールを分解する酵素の働きを止める薬剤です。服用後に飲酒すると、吐き気や顔面紅潮、頭痛が起こります。ただし、飲酒欲求を抑える作用はありません。また心臓が悪い方、肝硬変のある方には使用できないという制限があります。

2 飲酒欲求軽減薬(レグテクト)

脳に働き、飲酒欲求を抑える作用がある薬剤です。服用しても、抗酒剤のような症状がでないため、肝障害のある患者さまにも使用することができます。ただし、作用は強力ではないため、心理的、社会的治療と併用してはじめて断酒効果を示す薬剤といえるでしょう。

3 飲酒量低減薬(セリンクロ)

これまで「断酒」だけが治療の目標とされてきたアルコール依存症の治療で、「ハームリダクション」という考え方が広まりつつあります。お酒をやめるのではなく、ひとまず減らすことで、飲酒による害(ハーム)を減らす(リダクション)というアプローチです。

大酒家の方は、飲み始めは「少し飲んだらやめよう」と思っていても、飲むうちに制御がきかなくなってしまいます。これは、アルコールにはモルヒネのような快楽を与える作用があるからなのです。

セリンクロは、オピオイド(モルヒネ様活性を有するペプチド)受容体に作用して飲酒の欲求を抑制することで、飲酒量を減らす効果が認められています。心理・社会的治療との併用が必須で、飲酒の1~2時間前に服用します。

尾形哲『ダイエットも健康も 肝臓こそすべて』(新星出版社)

2019年に発売され、2021年から「学会主催のアルコール依存症研修を受けた医師などの管理下」という条件付きで、一般病院でも処方可能となりました。

今後、断酒プログラムを行っている精神科医だけでなく、一般病院でも処方可能となる医師が増えてくることが予測されます。

減酒は、できるだけ早い段階で始めることをおすすめします。

肥満・脂肪肝からの脂肪肝炎に、アルコール依存による肝障害が加わっている方は、ぜひ専門医を受診して、減酒薬の内服を相談してみてください。

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尾形 哲(おがた・さとし)
肝臓外科医
長野県佐久市立国保浅間総合病院外科部長、同院「スマート外来」担当医。医学博士。一般社団法人日本NASH研究所代表理事。1995年神戸大学医学部医学科卒業、2003年医学部大学院博士課程修了。パリ、ソウルの病院で多くの肝移植手術を経験したのち、2009年から日本赤十字社医療センター肝胆膵・移植外科で生体肝移植チーフを務める。さらに東京女子医科大学消化器病センター勤務を経て、2016年より長野県に移住。2017年スタートの「スマート外来」は肥満解消と脂肪肝・糖尿病改善のための専門外来。著書に『専門医が教える 肝臓から脂肪を落とす7日間実践レシピ』『専門医が教える 1分で肝臓から脂肪が落ちる食べ方決定版』『専門医が教える肝臓から脂肪を落とす食事術【増補改訂版】』(いずれもKADOKAWA)などがある。 尾形哲監修「脂肪肝改善 無料公式LINE」
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(肝臓外科医 尾形 哲)