昭和から平成にかけて、川崎市には湾岸の川崎区から内陸の多摩区まで、立ち食いそば屋が点在していた。特に川崎区は多いエリアだった。それが近年、閉店が続出した。

【画像】元祖そばギャルがつくる絶品のつゆ、軽やかな自家製天ぷら…川崎市藤崎の新しい立ち食いそば屋《よっちゃん》の写真を一気に見る


川崎の立ち食いそば(一部閉店を含む)

 駅前本町にあった「越後そば」は2009年8月頃に閉店。追分にあった「追分そば」は2013年12月に閉店。貝塚にあった「高田うどん店」は2021年8月に静かに閉店。ここのうどんは美味かった。

 川中島にあった「立喰そば 大和」は2024年8月頃に再開店したもののその後閉店。伊勢町にあった山一製麺直営の「めん処 山一」は2026年1月に製麺所とともに閉店した。

閉店ラッシュのなか「よっちゃん」が2026年5月オープン

 そんな閉店ラッシュを食い止めるべく、1店の立ち食いそば屋が2026年5月、川崎区藤崎にオープンした。「よっちゃん」である。しかも店の評判がすこぶる良いという。さっそく、食べに行ってみることにした。

 東京エリアでは異常な長雨が続いている。そんな小雨が降る9月の第二土曜日、久しぶりに川崎駅に降り立った。21系統のバスに乗り約10分。池藤橋で下車。停留所を降りると道の反対側に「よっちゃん」の外観がすぐに目に入った。

 店の軒先テントはオレンジとクリーム色のストライプでちょっと華やかな雰囲気だ。店を通り過ぎる小学生達が、メニュー書きや店の中をのぞいている。入店すると、「いらっしゃいませ」と華やかな声が返ってきた。お店は店主54歳と奥様の夫婦で経営されている。

 入店時に先客はいなかったが、少し前に少年野球の子供達がたくさん来て大賑わいだったそうだ。店は右側に6席のL字カウンター、左側は立ち食いコーナーになっている。

メニューはワンコイン前後と破格の安さ

 メニューをみて驚いた。「かけそば・うどん」350円、「きつねそば・うどん」「たぬきそば・うどん」「月見そば・うどん」「わかめそば・うどん」400円と破格の安さだ。

 これらに「コロッケ」「かき揚げ」100円、「春菊」150円、「ちくわ」「生たまご」「のり」「ねぎ増し」50円などのトッピングをのせて頼むようだ。

 しかし驚くのはまだ早い。定食はさらに破格の安さだ。そば、うどんに小ライス・納豆・生たまごがついた「納豆定食」500円、小カレーがついた「カレーセット」600円、小かつ丼がついた「かつ丼セット」650円などお得感満載だ。

 私は「カレーセット+春菊」を注文することにした。

 そば、うどんは大師銀座にある「株式会社松原製麺工場」の茹で麺を使用している。近所の製麺所である。

絶品の自家製つゆにふわっとした自家製春菊天

 2~3分後、大きなトレイにのって注文品が登場した。たっぷりのつゆにそばが泳いでいる。春菊天は立体的な揚げ姿。ねぎの盛り付けもきれいだ。カレーは小といいながらそこそこの量がある。

 さっそくつゆをひとくち。おおっ! これはうまい。つゆはアツアツかつ上品、出汁はよく利いて返しの塩梅も絶妙だ。出汁は鰹節、鯖節をはじめかなりの節系が入っているそうだ。吸い込まれるようなうまさ。これはヤバい。

 つゆは朝は出汁は強めで返しは控えめ、昼はセット定食を食べる方が多いので、返しをやや強めに調整しているという。とにかくうまいつゆだ。

 そばを啜ろうとしたら、店主が「こちらのそばはそば粉の配合が多くて香りがいいんです。そば、うどんも量が多めです」と教えてくれた。食べてみると麺はやや硬めでコシがあり、確かにそばの香りがよい。

 春菊天はカラッと揚がっていて、箸ですぐにほぐれていく。食べると香りが沸き立つ。地元製麺所のそばと自家製つゆと自家製天ぷらがよく調和していてスルスルと食べ進める。カレーはにんじんや玉ねぎ、鶏むね肉がたっぷり。ご飯は小まめに炊いているようだ。つゆまで全て飲んでこれで750円は超お得だ。

奥様は元祖そばギャルだった

 食べ終わって質問が湧き出てきた。まず店名「よっちゃん」の由来である。

 質問するとすぐに奥様が教えてくれた。「料理がうまくていつも自分を可愛がってくれた祖母の名前を拝借した」そうである。「おいしい料理を提供できますように」との願いとのことだ。

 続けて店を立ち上げた経緯を聞いてみたのだが、これがまた凄くユニーク。それはどうも奥様の生い立ちから今日までの歴史を知ると理解できる。

 奥様は実は筋金入りの元祖そばギャルだったのである。生まれてからすごく偏食気味だった奥様。どうもそばうどんは好んで食べたので、2~3歳の時には立ち食いそば屋デビューしていたという。デビュー歴は40年以上。私と変わらないオタクぶりだ。取り分け用のお茶碗をもらってフォークでチュルチュル食べていたそうだ。大袈裟にいえば「離乳食はそば、うどん」。川崎駅東口にあった名もない小さな立ち食いそば屋がお気に入りだったという。

 中高生になっても駅そばが大好きで、ルーズソックスをはいて駅そばがあればいつも突撃して、「ここはうまい、あそこはたぬきがうまい」と記憶に留めていたそうだ。つまり元祖そばギャルである。

元祖そばギャルからそばジェンヌへ…そして一念発起

 そして、時を経て、奥様はいつしかそばジェンヌに成長。外食業界などの経験も積んだ。そして何よりも祖母の味を再現したかったという。

 一方、店主も立ち食いそばが大好きなサラリーマンだった。地元の貝塚にあった「高田うどん店」が好きだったとか。そんな矢先、店主は転勤などを機に早期退職。

 何やる? となった時、地元に貢献できること。それなら飲食店。それで飲食店なら何やる?となった時、そばジェンヌの奥様は即決「立ち食いそばやろう!」という具合に話が進んでいったという。

 店主は外食業界での経験がなかったことから、さっそく奥様の指導のもと猛勉強。天ぷら製作に没頭。独学で今の味を完成させたというから凄い。

 「よっちゃん」のコンセプトには

・地元に貢献できるよう地元の製麺所「株式会社松原製麺工場」に製麺を依頼
・できるだけワンコインで食べることができる店
・家族連れも入りやすい店
・カラダにいいものを提供
・とにかく地元の人達に還元したい

 という想いを込めた。そんなことを試行錯誤して2026年5月に店をオープンしたという次第だ。

「たぬきうどん」と「本日のおにぎり(ゴボウとかしわ)」を追加注文

 そばジェンヌの奥様がうどんもおいしいというので、「たぬきうどん」と「本日のおにぎり(ゴボウとかしわ)」を追加注文することにした。こちらも550円とほぼワンコイン。

 待つこと3分。まずうどんをひと啜り。ああっ、この丸いうどんが絶品のつゆをまとってスルスル食が進む。たぬきも自家製。

 ゴボウとかしわのおにぎりは大きくて出汁と返しの利いた茶飯風の味がたまらない。

 2杯ともつゆまで飲んでごちそうさまでした。

 食べ終わって放心していると、年配の方達が1人また1人と来店してくる。年配の夫婦も。時には小学生2人が千円札を握りしめて食べにくるし、そばギャル3人が並んで食べにきたりすることもあるとか。

 近所の病院や支援施設の職員さんやヘルパーさんも利用してくれるようになってきたという。店主夫婦とお客さんとの会話も弾んでいるようだ。

 そばジェンヌの奥様にオープンから4カ月経った感想を聞くと、「お客様が色んなことを教えてくれるのですごくためになる。そして、地元の方に少しずつ浸透してきているのがとっても嬉しい」とのことである。

 今年出会えた茹で麺使用のオールドスタイルの立ち食いそば屋の中ではダントツのうまさだった。また来よう。次は一年中食べることができる「冷やしかき揚げそば」にしよう。そばジェンヌの奥様自信作の冷やしのつゆが絶品だとか。あさりとしょうがのおにぎりも相当うまいらしい。

 店を後にして、懐かしい川崎の街並みを見ながら帰路に就いた。元祖そばギャル(現そばジェンヌ)に会える店ってなんか楽しいぞ。

INFORMATIONアイコン

よっちゃん
住所 川崎市川崎区藤崎4-33-9
営業時間 6:00~14:00
定休日 不定休
https://www.instagram.com/yo.chan_official/

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(坂崎 仁紀)