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神戸・三宮の美食家が集うフランス料理店が、月に2日だけ設ける特別な営業日があります。それは、病気や年齢によって「食べる力」が弱くなった人とその家族が、同じテーブルで食事を楽しむための場所。

【画像で見る】高山英紀シェフが作る食べやすく見た目にも美しい一皿

世界的なコンクールでも活躍した高山英紀シェフが、末期がんで闘病していた父をきっかけに提供するのは、見た目の美しさと食べやすさを両立したオーダーメイドのフランス料理店です。

生きる力に直結する“食の感動”を届ける「幸せのレストラン」に密着しました。

3か月先まで予約で満席のフランス料理店

神戸・三宮。ここに全国から美食家が集うフランス料理店「アントル・ヌー」があります。

日本の食材にこだわり作られた料理は、どれも美しくそして繊細です。

(客)「味もおいしいけど見た感じも楽しくて幸せな気持ちにさせていただける」
(客)「シェフの料理は他の店と全然違う。ものすごく幸せになる。来てよかったなって毎回です」

お客さんの反応に笑みを浮かべるのは、店のオーナー・高山英紀シェフです。

高校を卒業後、18歳でフランス料理の世界に飛び込んだ高山シェフ。2015年には“美食のワールドカップ”とも称される「ボキューズ・ドール国際料理コンクール」で世界5位の成績をおさめ、2022年、アントル・ヌーをオープンしました。

いまや3か月先まで予約で満席、でも月に2日だけは“特別な営業日”を設けています。

体に麻痺が残り食欲が落ちている87歳男性 リクエストは「ステーキ」

息子らと来店した87歳の男性。1年前に脳梗塞を患って、体に麻痺が残り食欲が落ちてきているといいます。

高山シェフは年齢や病気などで、噛む力や飲み込む力が弱くなった人も一緒に料理が楽しめるよう、この日だけはオーダーメイドのコース料理を提供しているのです。

その名も「幸せのレストラン」。

この日、男性がリクエストしたのは大好物のステーキ。分厚い肉は噛み切れないため、アレンジを加えます。

牛肉を粗目のミンチ状にして、ステーキと同じように焼き上げます。

(アントル・ヌー 高山英紀シェフ)「これは一応噛んだ状態になっています。噛み砕いた状態なので歯茎で食べられる」

家族「自分で自然に食べる動作ができるっていうのがすごい」

普段は介助する人が口まで運ばないと食べないといいますが、高山シェフの料理を前にすると…

(息子)「こういう(自分で食べる)のがなかなか難しいんです、普段はね。でも自分で自然に食べる動作ができるっていうのがすごい」
(男性)「おいしい」

(高山英紀シェフ)「『おいしい』って。ああいう声を聞くと本当にやってよかったなって思いますね。ほんとうに幸せを感じます」

きっかけは「末期がんで闘病していた父親」

幸せのレストランをはじめたきっかけは、末期がんで闘病していた父親のために作ったスープでした。

(高山英紀シェフ)「父が抗がん剤をやるうえで(血液検査などの)数値が良くならなかった。食欲がないときに自分が何か食でやりたいなというところでやって、それで食べられて、数値が良くなって、『食』ってすごいなということを感じて」

食べる喜びは“生きる力”になる。誰もが諦めずに“食の感動”を共有できる場所をつくろうと考えました。

(高山英紀シェフ)「あそこに来たら幸せだ、うれしかった、あしたまた元気がでるっていうのが、一番の自分のやりたいことかもしれないですね。全員平等なので」

食事介助が必要な18歳息子 外食先でブレンダー使用を断られることも

奈良県に住む西川珠宇さん(18)。生後3か月のときに治療が難しいてんかんの一種と診断されました。

話をしたり、体を自由に動かしたりすることが難しく、食べ物をうまくかみ砕けないため、ブレンダーにかけたり細かく刻んだりする必要があります。

この日の昼食は焼きそば。食事の介助は父・泰永さんの担当です。

(父 泰永さん)「こうやって口をたくさん動かして早くちょうだいちょうだいっていうのが伝わってくる。食べるの好きなんやなって」

家族で外食や旅行に出かける際は、できるだけみんな同じものを味わいたいとブレンダーを持ち歩きますが、使うのを断られることも少なくないといいます。

(母 千晴さん)「(ブレンダーを)回す音が迷惑なんだとか、(回したら)おいしくないよっていうのを言われてまでそこで食べさせるのも気がひけるというか。すごく落ち込みますね、さみしい気持ちになります」

そんな時に、「幸せのレストラン」の噂を聞きつけ、すぐに足を運びました。

(母 千晴さん)「同じタイミングで食べておいしいって言えたことがすごくうれしくて。共有できるっていうんですかね」

家族で“おいしい”を共有

食べられるものは違っても家族で“おいしさ”を分かち合える「幸せのレストラン」。

珠宇さん、家族で4回目の来店です。

(高山英紀シェフ)「今回は出始めのトウモロコシのスープ。温度帯、濃度も若干違いますので(珠宇さんのは)濃度をつけています」

一皿目はトウモロコシのスープ。珠宇さんのものは誤嚥しないようとろみをつけ、温度も低めに調整しました。冷ます必要がないのでみんな同じタイミングで味わえます。

(母 千晴さん)「おいしい?味わってるね」
(父 泰永さん)「ほんまや。(濃度が)若干違うわ」
(母 千晴さん)「おいしいなあ!」

自家製のパンは、牛乳で煮込んだものをミキサーにかけメレンゲとあわせてもう一度焼き上げました。

毛ガニのソフトクリームに、初夏の野菜の炊き合わせ、食べやすく見た目にも美しい一皿が続きます。

肉料理はステーキは食べられないため、同じソースを使った煮込みにしました。

高山シェフ「生きる中でその人たちの人生の1ページに入れてほしい」

家族で“おいしさ”を分かち合った2時間。7品のコース料理をほぼ完食しました。

(父 泰永さん)「僕らみたいにいろんなところに行けない、娯楽って限られてくるじゃないですか。レストランっていうのは、そのひとつなんですよね。それをすごく大事にしているな」
(母 千晴さん)「きょうなんか(ブレンダーで)形状変えないからめちゃめちゃゆっくり食べていますから。ゆっくりコース食べにきたみたいな感じ」
(高山英紀シェフ)「それを目指しているので」

「幸せのレストラン」ここを訪れる人たちの人生がより豊かになるよう、高山シェフは腕を振るい続けます。

(高山英紀シェフ)「生きる中でその人たちの人生の1ページに入れてほしいんですよね。大切なレストランになれるように、僕らもしっかりと努力して取り組みたいなと思います」

(2026年8月25日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」内『特集』より)