《3億円の土地を「面倒くさいから売らない」》納豆仙人・78歳が明かした収入源と逮捕の過去「椿山荘で食い逃げした」
「年金なんて、働いていないからないですよ(笑)」
【写真を見る】木々が生い茂り森のようになった自宅や、前田さん幼少期時代の家族写真など。炊飯器は何年も洗っていない…
東京・代々木の一等地に建つ、庭木にのまれたように佇む一軒家。住人は前田良久さん(78)、ネット上で"納豆仙人"とも呼ばれる人物である。敷地はおよそ60坪で、公示地価に照らせば3億円前後。だが室内はゴミで埋まり、ガスはなく、夕食は納豆3パックと一袋31円のもやしで凌ぐ。
職歴は生涯でおよそ2年半。半世紀近く、この家で無職のまま生きてきた。何がこの破天荒な暮らしを支えているのか──。【前後編の後編。前編から読む】
毎月5万円と、年2回のボーナス
──お金はどのように工面されているのでしょうか。
「年金なんて、働いていないからないですよ。甥っ子がいてね、毎月5万円振り込んでくれるんです。あと、6月と2月にボーナスで20万円もらえるから、年間100万円以上になるかな……助かっていますよ」
月5万円と、年2回の"ボーナス"。それがいまの全収入だ。だが意外なことに、前田さんの暮らしは単に切り詰めるだけの暗いものではない。
「今年も7月中旬に大阪まで夜行バスで行って、そこから電車で広島や小倉まで行って来ましたよ。広島には行きつけの漫画喫茶があるから、そこに泊まるんです。4泊5日だったかな……楽しかったね」
── 土地を売ろうと考えたことはありませんか?
「いや、ないですよ。面倒くさいから」
何を尋ねても、返ってくるのは「面倒くさい」の一語だ。だが、この土地に留まり続ける理由は、単なる億劫さだけではない。前田さんは、この街で生まれ育っているのだ。
「昔は各家庭に生垣があって緑が多かったし、道も土だったんだよ。だからサラリーマンなんか雨が降ったらみんな長靴を履いていた。今はどこもアスファルトになったでしょ。雨が降っても水は溜まらないけど、夏は本当に暑いよね。1960年頃から段々と道路がアスファルトに変わっていったね。それまでは道が土だったから自然も多かったし、もっと田舎でしたよ」
生垣に囲まれ、緑に覆われていたかつての代々木。その面影を唯一残しているのが、道路にまで枝を伸ばしたこの家なのかもしれない。
「食い逃げでも捕まってますよ」
そんな前田さんだが、意外にも過去に逮捕された経験があるという。
「万引きで逮捕されたんです。それと、食い逃げでも捕まってます。万引きはスーパーでバナナをやったんだけど、原宿署で10日から2週間くらい留置されましたよ。確か10年前の11月下旬頃かな。結局、不起訴になったけどね。
食い逃げは、ホテル椿山荘の庭園にある蕎麦屋でやったんですよ。でもね、食い逃げは警察に行ったけど留置はなし。
2023年にも逮捕されましたけどね。名古屋で共産党のポスターを破ったんですよ。その時に捕まって5日間くらい留置されたけど、名古屋の留置場は風呂が汚かったな……」
40年間、病院に行っていない体
そんな前田さんにとって、3億円の不動産に勝るとも劣らない"財産"が、その頑健な身体だ。身長170センチ、体重40キロ。だが、身体に悪いところはひとつもないという。
「病院には昭和60年(1985年)から行っていません。実はね、昭和60年に膵臓が炎症を起こしてね……背中に激痛が走って。その頃は毎日お酒を飲んでは記憶をなくして、公園で寝ていたから。それで病院に行ったら『膵臓が炎症を起こしている』と。幸いガンではなかったから薬で治ったんだけど、それ以来、健康診断も病院も一度も行っていません」
この40年間、前田さんの健康を支えてきたのは「階段」と「散歩」だという。
「やっぱり階段の上り下りですね。新宿の図書館なんて7階まであるから、階段で上り下りしています。それで足腰が強くなったんですよ。昔はしょっちゅう転んでいましたから。あとは、調子の良い時は散歩もしますよ」
「ロシアの戦争が終われば、死んでもいいですよ」
家族はもういない。仕事もない。それでも時折、この家には彼を訪ねてくる人がいる。
「テレビや動画を見た人が、ふらっと訪ねてくるんですよ。最近も中国から来たご婦人がうちに来てね。せっかくだからって一緒に麻辣湯(マーラータン)を食べに行って、1500円ご馳走したら、申し訳なさそうに1000円返してくれて……。結局500円ご馳走しただけ。同情されちゃったのかなあ」
そう言って少し照れくさそうに笑う前田さんだが、ふとした瞬間に遠くを見つめ、静かに本音をこぼす。
「いやあ、長生きなんてしたくない。ロシアの戦争が終われば、もういつ死んでもいいですよ」
飄々とした語り口の裏に滲む、孤独と独自の死生観。前田さんは最後に「今度来るときは事前に連絡ちょうだい」と言って、玄関脇にポツンと置かれた一台の黒電話を指し示した。
教えられた番号へ電話をかけると、「チリチリチリチリーン」と懐かしいベルの音が響く。「長生きはしたくない」と呟く前田さんだが、繋がる先を、たしかに残していた。
(了。前編から読む)
