この記事をまとめると

■かつてガソリンには「有鉛ガソリン」と「無鉛ガソリン」があった

■鉛を含んでいたのはエンジン内部の保護が目的だった

■公害問題に発展したために鉛を使わないガソリンになった

ガソリンに「鉛」を入れていた理由とは

 かつてのガソリンは「有鉛ガソリン」と呼ばれる鉛成分が含まれるガソリンだった。それが、排出ガス清浄化のため、有鉛ガソリンから無鉛ガソリンに切り替えられる段階で、それまでのガソリンが鉛を含んでいたことから「有鉛」の名称が使われるようになり、そのあとに登場した無鉛ガソリンと区別されるようになった。

 ガソリンに含まれる鉛成分が、排出ガスとなって大気中に放出され、排気ガス公害という大きな社会問題として注目されたのが、1970年に発覚した新宿牛込柳町の鉛中毒事件だった。牛込柳町交差点付近に排気ガスが滞留。付近の住民の血中から高濃度の鉛成分が検出され、健康を害する公害として大きく問題視された。これを受け、ガソリンに含まれる鉛成分の除去が実施されることになった。

 では、なぜガソリンに鉛成分が含まれているのか。ガソリンは炭素(C)と水素(H)の化合物で、鉛(Pb)は含まれていない。本来ガソリン成分ではない鉛成分(正確には四アルキル鉛)がガソリンに含まれる理由はふたつあり、ひとつはガソリンのアンチノック剤として、もうひとつはバルブとバルブシート間の潤滑(固体潤滑)剤として使われていたためだ。

 問題は、バルブとバルブシート間の潤滑で、バルブシートはバルブの密着状態を保つため柔らかい材質で作られていたが、その摩耗を防ぐための潤滑剤として鉛をガソリンに含ませていたのだ。しかし、そのバルブシートをモリブデン鋼主体とする素材の焼結方法に工夫を加えることで、鉛成分がなくても摩耗しないバルブシートの製造が可能となった。

 ところで、当時のハイオクタンガソリンはオクタン価95以上、レギュラーガソリンはオクタン価88以上の規格でともに有鉛ガソリンだったが、ハイオクタンガソリンのオクタン価を確保するには鉛成分が必要不可欠だったのである。ちなみに現代の無鉛ハイオクタンは98前後、無鉛レギュラーは90前後のオクタン価で市販されている。

 さて、こうした事情により、1975年2月にレギュラーガソリンは全無鉛化されたが、ハイオクタンガソリンの無鉛化は技術的に間に合わず、ハイオクタンガソリンのみ有鉛のかたちで残されることになった。ちなみに、無鉛ハイオクタンガソリンとなったのは1987年と、10年以上を経てからのことである。

 残るは、有鉛ハイオクタンガソリン仕様のエンジンで無鉛ハイオクタンガソリンを使うにはどうしたらよいか、という話だが、これはバルブシートの打ち替えで対応できる。要するに、無鉛ガソリン仕様の材質で作られたバルブシートに交換すればよいということだ。簡単な作業ではないし費用もそれなりにかかるが、お気に入りの旧車を安心して走らせるためには必要な手順だと理解しておきたい。現代は、鉛を必要としない無鉛ガソリンの時代となった。