《代々木一等地のゴミ屋敷》「乾かせば菌は死ぬから、茶碗は洗わない」体重40キロ78歳の“納豆仙人”が語る独自の生活哲学
「乾かせば菌は死ぬから、洗ったことないですよ」──。差し出された茶碗は、一目見てわかるほど黒ずんでいた。2年前に道で拾ったものだといい、毎日洗いもせずに使い続けているという。
【写真を見る】屋内は服や靴が散乱しゴミ屋敷のよう。炊飯器のフタを開けると、中身はおかゆのようにドロドロに
東京・代々木。江戸時代には大名や旗本の屋敷が構えられた由緒あるエリアであり、現代でも都心有数の高級住宅街として知られる。JR代々木駅から歩いてほどない閑静な一角に、その家はある。100メートル手前からもわかるほど伸び放題の木々が道路へ大きくせり出し、剪定されぬまま電線にまで絡みついている。
家主は、前田良久さん(78)。過去に「家、ついて行ってイイですか?」(テレビ東京系)に、その常人離れした暮らしぶりから"納豆仙人"と呼ばれてきた人物だ。
敷地はおよそ60坪。周辺の地価に照らせば、単純計算で3億円前後にのぼる資産価値を持つ土地だ。だが、そこに暮らす前田さんの夕食は、納豆3パックと一袋31円のもやし。エアコンもガスもなく、布団は25年間も押し入れに仕舞われたままだという。
都心の一等地に建つ異空間で、いったいどんな生活を送っているのか──。本人を直撃した。【前後編の前編】
「そこは玄関じゃないよ」
記者の前に姿を見せた前田さんは、170センチで体重は40キロほど。しかし背筋はまっすぐ伸び、足取りにも迷いがない。
「図書館に行ってました。今日は日曜日だから18時閉館でね。それから夕飯の食材を買ってきたから、19時を過ぎちゃった」
敷地に入ろうにも、敷地の入り口は伸び切った草木で完全に覆われている。茂みをかきわけるように足を踏み入れると、ようやく玄関らしき引き戸が現れた。ところが前田さんは、そこには目もくれずに奥へと進んでいく。
「そこは玄関じゃないよ。草を分けて進んだ先に居間があってね、現在はそこを出入り口として使っているんです」
この家では、玄関はとうに機能を失っているようだ。室内に入ると、靴をきちんと脱いで上がる前田さん。だが、足元に広がるのは足の踏み場もない"ゴミの島"だった。
── ご自宅の間取りは?
「カッコよく言って3LDKかな。でも、奥の部屋は壊れちゃっているからね……」
見ると、奥の部屋へと続く床が完全に崩落しており、足を踏み入れることすらできない。部屋の一角には、空になった納豆のパックが前田さんの背丈をゆうに超える高さで積み上げられていた。床を埋め尽くしているのは、街で拾い集めてきた靴や衣類だ。
「今履いているズボンは蒲田のリサイクルショップで100円、トレーナーはもらい物。このロングジャケットも近所に捨ててあったやつですね」
「おかゆだから保存が効くんだよ」
この日買ってきたという夕食の食材は、納豆3パックともやし一袋。
「最近、玉ねぎが高くなったから一袋31円のもやしにしたんですよ。これを湯がいて、納豆3パックとご飯を合わせるのが夕飯です」
炊飯器のフタを開けると、中身はおかゆのようにドロドロになっていた。
「これは最後の方だから、もうおかゆ状態になっているんですよ。普通のご飯だとどんどん固くなっちゃうけど、おかゆにしておけば保存が効くからね」
── お腹を壊したりはしないのですか。
「まったくないですよ。1回に5合炊いて、6回に分けて食べているんです」
冒頭の黒ずんだ茶碗についても尋ねてみた。
「いや、洗わないですよ。乾かしているから。乾かせば菌は死ぬから、洗ったことないです。これを毎日使っています」
一般的な衛生観念からはかけ離れた主張だが、本人に不快感はない。電子レンジが計3台鎮座するが、うち1台には自治体の粗大ゴミシールが貼られたままだ。
「使えるのは1台だけですよ。マンションの前に捨ててあったのをもらってきたんです。まあ、本当は駄目だけどね……捨てるくらいなら誰かが使った方がいいでしょう」
残る2台のうち1台は稼働するレンジの土台として、もう1台は時計代わりに置かれている。ただし、そのデジタル表示は40分ほど遅れていた。
「ビショビショで寝る」エアコンなしの猛暑対策
室内にはエアコンも扇風機もない。記録的な酷暑が続く近年の夏を、どうやって乗り切っているのだろうか。
「今年は雨も多いでしょ。それにうちは木に覆われているし、周りが土だから熱がこもらないんですよ。だから意外と涼しいんです。今は大体24度か25度くらいじゃないかな……28度を超えるとさすがにヤバいけどね」
実際、室内に汗ばむような暑さは感じられない。伸び放題の木々は、天然の断熱材でもあるようだ。では、さすがに「ヤバい暑さの日」はどうするのか。
「お湯は出ないけど水は出るからさ、シャワーを浴びて、そのまま体を拭かずに寝ちゃうんです。乾かすから暑くなるんであって、ビショビショのままで寝る。これが一番涼しいんですよ。もっと暑い時は湯船に水を張って入りますね」
ガスは通っていない。トイレの水も流れないため、用を足す際は風呂の水を汲んで流しているという。
寝床は、一枚の座布団
では、前田さんは普段どこで体を休めているのだろうか。指差したのは、ゴミの山に囲まれた一角にぽつんと置かれた一枚の座布団だった。
「布団は敷かないよ。このまま地べたで寝る。押し入れに布団はあるにはあるけど、もう25年は使っていないかな」
押し入れを開けてみると、カビと、見慣れない虫が顔を覗かせた。都心の一等地にこれほどの土地を持ちながら、なぜこのような生活を続けるのか。そもそも働いたことがほとんどなく年金も受給していない前田さんは、どうやって日々の暮らしを成り立たせているのか──。
後編では、78歳の前田さんが明かした驚きの収入源と、40年間病院に行っていないという身体の秘密、そして意外な逮捕歴に迫る。
(後編につづく)
