新幹線を緊急停止させた“乗り遅れ”親子に怒りの声…それでもJRが「損害賠償」を“請求できない”事情【弁護士解説】
7月、相生駅(兵庫県)で山陽新幹線の「こだま」が発車した直後、乗り遅れた親子が車両に接近したため、列車が緊急停止する事態が発生した。
報道によると、親子は駅で写真を撮影していて、新幹線に乗り遅れたとみられる。
発車後も親子は新幹線を追いかけ、駅員が「列車から離れてください」と繰り返し呼びかけたものの、乗せてほしいと訴えるような行動を取った。
新幹線は緊急停止したものの、結局、親子を乗せることはなく、そのまま再び発車した。
このときの様子を撮影した動画がSNSで拡散されると、「新幹線止めて乗せてもらおうとしたことは妨害行為だよ」「自分たちの身勝手な行動のせいで他の乗客が迷惑してる」といった批判の声が上がった。
また、「JRは損害賠償を請求したらいい」「今後は動き出した新幹線を止めたら、高額な罰金でもいいと思う」などと、法的責任を問うべきだとする声も多くみられた。
今年のシルバーウィークは9月19日(土)から23日(水)までの5連休だ。新幹線を利用する人が増える時期だけに、乗り遅れた乗客をめぐって同様の事態が発生することもあるかもしれない。
しかし、民法に詳しい杉山大介弁護士は「実際に損害賠償を請求するには法律上の論理を組み立てる必要があり、簡単なことではない」と指摘する。
鉄道会社にとっては賠償を請求する方がコストになる?電車の進行を不当に止める行為は、民法上の不法行為(709条)として損害賠償の対象になる場合がある。実際に、線路への立ち入りや非常停止ベルのいたずら使用などに対して損害賠償請求が行われたケースもある。
ただし、鉄道会社が賠償を請求するためには、実際に発生した「損害」がどれほどのものかを具体的に立証する必要があるという。
「振替運送が必要になった、当初の運行が明確に不可能になったなど、一定の実害が出ていないと、民事上の請求にはなり得ません」(杉山弁護士)
今回に限らず、列車の運行を遅延させるような行為がSNSで話題になると、「鉄道会社は損害賠償を請求するべきだ」との声が上がる場合が多い。
杉山弁護士は「『こういった行為は迷惑だ』という気持ちの発露はわかります」としつつ、以下のように述べた。
「電車を止められる側としては迷惑でしかないですから、鉄道会社には抑止になるようなことをしてほしい、という思いがあるのでしょう。
しかし、法律上の手続を取るためには、上記のとおり論理の組み立てが必要であり、簡単なことではありません。
実際には、生じた実害以上のコストを、鉄道会社が負うことになります。そのため、『損害賠償を請求するべきだ』というのは、他人事だからこそ言える言葉だとも思います」(杉山弁護士)
刑事責任は問えない一方で、線路に立ち入るなどして電車の進行を止める行為が、犯罪となるケースもある。しかし、往来妨害(刑法124条)など鉄道特有の犯罪が成立するためには、線路そのものに影響を与えるなど、一定程度の行為が必要になる。
「親子が新幹線を追いかけたら列車が停止したという、本件に関して犯罪の成立が検討されるなら、鉄道特有のものではなく威力業務妨害罪などの一般的な犯罪になるかと思います。
しかし、本件については、列車を運転する側がホームで追いかけてくる親子の行為を見て、『危ない』と判断して予防的に止まった、という状況に思われます。
このような場合には、『刑事上の犯罪にあたるような行為が行われていた』と、当然に評価できるわけではありません。
そもそも本件が民事・刑事の法的責任を問うような話なのかについては、若干距離があると考えた方がよいと思います」(杉山弁護士)

