本田技術研究所デザインセンターオートモービルデザイン開発室プロダクトデザインスタジオデザイナーの中島英一さん

写真拡大 (全3枚)

「よっしゃ!面白いことが始まるな」

 ホンダ「N-ONE e:」をベースにした「Super-ONE(スーパーワン)」は、往年の名車「シティターボII」をオマージュしたデザインをまとっていますが、独自のこだわりもたくさんあります。

 そこでエクステリアデザイナーに話を聞いてみました。

【画像】超カッコイイ! これが名車「シティターボII」と「新型スーパーワン」です!(84枚)

 まずは“スーパーワン”という名称について聞いてみましょう。

 エクステリアデザインを担当した中島英一さんによると、「英語でOnly One、One & Only、唯一無二というところからONEとしました。いまの市場にスーパーワンと同じようなクルマはありませんので、唯一無二なポジション。ホンダだけでなく、世界中の他メーカーも含めて存在感がある、かなり尖った価値観で開発しています」とのことです。

 そんなクルマのエクステリアデザインを担当することが決まった中島さんは最初、どう思ったのでしょうか。

「“よっしゃ!面白いことが始まるな”と思いましたね。創業者である本田宗一郎の数々の逸話や、『CR-X』のような自分が生まれる前のホンダのプロダクトはすごく生き生きしていており、面白いなと思って憧れてホンダに入社したんです。ですから素直にこういうのをやりたいと思っていましたので、最初から最後までとてもモチベーションが高かったんです」と笑顔で教えてくれました。

「シティターボII」がオマージュになったわけ

 その時にはもうシティターボIIのオマージュは決まっていたのでしょうか。

 中島さんは「いえ」と否定します。

 ただし、「個人的な思いとしてですが、N-ONE e:がスタートでしたので、最初に描いた絵はシティターボIIでした。他がベースであればそうはならなかったでしょうね」といいます。

 その上で、「シティターボIIはホンダの楽しいクルマの象徴ですから、それを描いて、そのままなぞろうとしていたんです」と明かします。

 しかし、開発責任者などから「確かに面白いクルマを作るんだけれど、このクルマは電気自動車なので、これまでのファンだけでなく将来のホンダファンも獲得していきたい。新しい人たちもホンダが好きだと思ってもらえるような商品を作りたいという話が出まして、そこで昔の価値観だけを追わないで、昔の世代だけではなく、新しい世代の人たちが喜ぶようなものを作りたい。そうするとシティターボIIそのままじゃダメだとなりまして、いろんな方向性を模索しました」と当時を振り返ります。

 一方で、「若い人たちも昔のものが好きだということが、色々調べてわかってきました。また、いろんな世代がシティターボIIみたいな元気なクルマが好きだ、ピュアな世界観が好きだということから、シティターボIIをオマージュにして新しいものを取り入れながらやっていこうという決心につながりました」と述べます。

 つまり、「最初の火が点いたのはシティターボIIのイメージで、そこから色々模索して寄り道して、やっぱりシティターボIIに戻ってきたストーリーです」とのことでした。

張り出しスタンスにこだわって

 さて、中島さんがスーパーワンのエクステリアで最もこだわったのは、「張り出しスタンスです」とのこと。

 それを実現するために、「あえてブリスターフェンダーを採用して、クルマを目一杯大きく見せようとしています」といいます。

 ブリスターフェンダーは四角い形状ですので、決められた寸法で一番容積を確保できることから、片側約50mmずつ出したそうです。

 結果として、「寸法以上の迫力を出せました」と中島さん。

ブリスターフェンダーの採用でワイド感が際立つ

 また、ブリスターフェンダーの肩口(上部)は若干スラントさせています。

 この理由について中島さんは、「そのまま箱形状でボッと付けてしまうと後付け感が出てしまいますので、元からこのフェンダーが付いているクルマなんですよという一体感を意識して作りました」と説明します。

 さらにクルマを横から見るとこの斜めになった部分は、「光が当たった時の面積が目立つような角度になっています。そのバランス取りを何度もして、この角度と面積がベストにしています。横から見ると天地(上下の長さ)があることですごく出て見えますし、ブリスターフェンダーという存在感も含めてバランスが取れました」とその仕上がりに自信を見せました。

理に適ったインテーク

 もうひとつこだわりのポイントがあります。それはフェンダーが出たところに開けられたエアインテークです。

「単にスペースができたので開けたわけではありません」と中島さん。

 それだけだと、「その穴から泥が出てきてしまうとか、部品が増えてしまうので難しい。でもこれは穴を開けたことで空力に効果を生んでいます」。

 実はこの設計においては、スーパーGTやF1などの空力を見ているエンジニアも一緒にディスカッションしながら作り上げたそうです。

 具体的にフロント両サイドにあけられたインテークから入った空気はタイヤに当たり、通常はタイヤ周りで発生する乱気流を抑える効果を生んでいます。

 フロントタイヤの後ろ側にあるのはエアブリーザーで、フロントフェンダー内の乱れた気流を綺麗にボディに沿わせてゆっくり出す役目をしています。

 そしてリアフェンダーにあるリアブリーザーの効果についても語ってくれました。

 リアバンパー内部や、リアフェンダーの中に空気が溜まってしまうと、「パラシュート現象(リアフェンダー内で空気が膨らんで抵抗になる)が起こってリアタイヤの接地が悪くなってしまいフラついてしまうことがあるのです。このリアブリーザーはそれを抑えてくれて、かなりどっしりとしたコーナリングを実現できています」と。

「見た目も格好良いし、理に適った形になっています」とその効果を十分に発揮していることを強調しました。

「シティターボII」が格好良いわけ

 その一方で、スタンスの良さを強調するために、若干空力を犠牲にしたところもあります。

 それはタイヤの見せ方です。中島さんによると、「トレッドを広げて、タイヤも横浜ゴムのアドバン・フレバV701を採用していますので、タイヤも含めてスタンスを良く見せたいんです」。

 そこで、真後ろから見てリアバンパーの後端部分を少しだけ内側に入れています。

 当然真正面から見たときのフロントバンパーも少しだけ内側に巻き込み、タイヤが見えるようにしたのです。

 そうするとタイヤに風があたり抵抗が生まれてしまいますが、「タイヤでクルマが踏ん張っている姿、それこそシティターボIIがなぜ屋根が高いのに踏ん張り感があって格好良いのか、じつはこういう工夫があったので、取り入れました」と説明しました。

名車「シティターボII」を彷彿させるホンダ「新型スーパーワン」

 そのほかにも、フロントでは片側にだけエアインテークが備わっています。

「80年代90年代くらいのボーイズレーサーのホットハッチみたいですよね。インタークーラーターボが備わっているような印象ですが、今回はEVなのに、なぜ開けたかというと、バッテリー冷却に効果があるからなんです」と機能に基づいていることを強調しました。

 このように、新型スーパーワンのデザイン開発において、ホンダの楽しいクルマの代表として選ばれたのがシティターボIIでした。

 ただし冒頭で中島さんが話したように、あくまでもベースがN-ONE e:だったからであり、他のクルマがベースであれば違ったかもしれません。

 それでも、ブリスターフェンダーなどを上手く現代風にアレンジしただけでなく、水平基調のデザインはシティターボIIを彷彿させます。

 さらに中島さんが実験車に乗った時に、ロールせずスムーズに旋回するなどの印象から生まれたものとのことだったので、その印象を素直に表現されてもいるのです。

 こういったクルマの特徴がありのままに表現されているデザインには好感が持てますし、そこがスーパーワンが多くの人の共感を得ていることに繋がっているのでしょう。