◆「ヨーロッパでは普通です」と車内でおむつ替え

 休日に新幹線で旅行先に向かっていた中田由香さん(仮名・30代)は、3列シートの窓側の席に座っていた。

 通路側には赤ちゃんを抱いた女性が座っており、赤ちゃんは静かに眠っていた。しかし、乗車から30分ほど経つと、赤ちゃんが泣き始めたという。

「おむつを替えたいのかなと思っていたら、空いていた真ん中の席に赤ちゃんを寝かし始めたんです。『まさか、ここでおむつ替えをする気じゃないよね?』と思いました」

 もし本当に“おむつ替え”が始まってしまったら困ると感じた中田さんは、できるだけ角が立たないように話しかけることに……。

「すみません。おむつ替えはここではやめていただきたいのですが。多目的室があると思います」と優しく声をかけると、女性は不機嫌そうな表情を浮かべたという。

 そして「ヨーロッパでは赤ちゃんのおむつ替えはどこでもやっています。日本は不寛容で冷たい」と車内に響くような声で言い返してきたそうだ。

◆「ジョークですか?」と反論した外国人女性

 すると、後方の席に座っていた白人女性が立ち上がり、中田さんのほうへ近づいてきた。赤ちゃんを座席に寝かせようとする様子や、母親が大きな声で言い返す姿を見て状況を察したようだ。

 女性は母親に向かって、英語で「ジョークでしょ? ヨーロッパでも公共の場でおむつ替えなんてしません」と言い放ったという。

「母親には英語が通じていないようでした。ただ、『No』という言葉や女性の表情から、自分の行動を否定されていることは伝わったみたいです」

 母親は赤ちゃんを抱き、多目的室の方向へ歩いていった。

 女性は中田さんに向かって、「びっくりしたわ。私たちも公共の場では、おむつは替えないわよ」と笑顔で話しかけてくれたそうだ。

「外国では普通という言葉で、迷惑行為を正当化する人を見かけることがありますけど、実際にはその国でも非常識とされていることはあるんですよね。まさか、外国の方が声を上げてくれるとは思っていなかったので、とても印象に残っています」

 約20分後、母親は席に戻ってきたものの、わざとらしくため息をつきながら、「大変」「疲れた」と独り言を繰り返していたようだ。

 子ども連れであることを免罪符にせず、周囲も必要以上に責めない--。互いに相手の立場を思いやることが、誰もが気持ちよく新幹線を利用するために欠かせないことではないだろうか。

<取材・文/chimi86>

【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。