【宮本 建一】キティちゃん、ゴジラ投入で売上は倍増したが…それでもパソナの「淡路島」事業が赤字から抜け出せないワケ
2022年5月期に220億円あった営業利益が、2026年5月期には11億円の赤字に--。「ニジゲンノモリ」や「HELLO KITTY SMILE」が立ち並ぶ淡路島プロジェクト、そして本社機能の一部移転でも大きな話題を呼んだ、パソナグループ(以下、パソナ)。いま、その決算が波乱を迎えています。
ただし、主力事業が不振なわけではありません。人材派遣・BPOは直近期も約100億円の営業利益を稼ぎ、キャリアソリューションも約42億円を確保しています。それでも連結では、2期連続の営業赤字に陥っています。
しかもパソナは2024年、稼ぎ頭だった連結子会社「ベネフィット・ワン」を第一生命ホールディングスに売却し、約1120億円もの株式売却益を計上しました。手元資金は潤沢です。それでも、赤字なのです。
なぜ、利益を稼ぐ子会社を手放したのか。得た1100億円はどこへ向かうのか。そして、各事業が稼いだ利益は、どこで消えているのか?
本稿では、複雑に絡み合うパソナの収益構造と、ベネフィット・ワン売却の経緯、「淡路島の地方創生事業」の現在地を紐解きます。
前編記事『営業利益220億円が4年で消えた…本業の「人材派遣は黒字」なのに、なぜパソナは「2期連続赤字」に陥っているのか』より続く。
1100億円の売却益は何に使われるのか?
では、得た資金をどこへ振り向けるのでしょうか。
パソナは当初、売却資金について約60~70%を成長投資、約20~30%を経営基盤の強化、約10~20%を株主還元へ充てる方針を示しました。成長投資の具体例には、人材派遣・BPOの基幹システム刷新、地方創生事業、新規事業、M&Aなどが挙げられています。
その後に策定した「PASONA GROUP VISION 2030」では、成長投資650億円以上、経営基盤強化300億円以上、株主還元170億円以上を掲げました。
具体的には、人材事業の基幹システム刷新に約50億円、ベンチャー企業への投資・支援などにも資金を充てる方針です。また、M&Aや資本業務提携を通じ、経営支援や知的財産、GX、教育・研修といったBPO周辺分野の拡大も狙います。
成長投資に650億円もの資金を投入するパソナ。その中でも、具体的にプロジェクトとしてあげられているのは淡路島岩屋エリアホテル開発プロジェクトです。
具体的なプロジェクトを「PASONA GROUP VISION 2030」に掲載することは、地方創生事業に力点を置くことを意味しているものと考えられます。
以下では、地方創生事業と今後のパソナの課題について見ていきます。
売上倍増でも赤字…淡路島は“金の卵”か“底なし沼”か
地方創生・観光ソリューションにおける規模は確実に大きくなっています。売上高は2022年5月期の40億円台から、2026年5月期には80億円台まで拡大しました。
一方、利益面ではなお赤字です。2026年5月期も約15億円の営業損失を計上しています。ただし、赤字幅は以前より縮小しており、「売上が伸びず赤字が拡大している」という状況ではありません。
近年、パソナの一部の本部機能を淡路島に移転すると話題となりました。しかし、パソナと淡路島との関係は、20年近く前から観光施設開発で始まっています。
2008年、同社は農業人材の育成や独立就農を支援する「パソナチャレンジファームin淡路」を開始しています。その後、地方に雇用や新たな産業を生み出すという考えのもと、事業領域を観光や飲食、宿泊、アミューズメントなどへ広げてきています。
現在では、アニメやゲームの世界観を体験できる「ニジゲンノモリ」をはじめ、「HELLO KITTY SMILE」「HELLO KITTY SHOW BOX」、宿泊施設「GRAND CHARIOT 北斗七星135°」、禅やヨガなどを体験できる「禅坊靖寧」などを展開しています。
「禅坊 靖寧」は、淡路島の山中で瞑想やヨガ、発酵食品を中心とした「禅坊料理」を体験できる完全予約制のリトリート施設です。プリツカー賞受賞者の坂茂氏が設計した木造建築も特徴的で、料金は日帰り12000円~、宿泊52800円~と決して手頃とはいえませんが、観光というより日常から離れて心身を整えたい人向けの施設といえるでしょう。
そして2026年6月には岩屋地区に、食・運動・睡眠などを組み合わせた長期滞在型の未病リトリート施設「THE PASONA natureverse retreat」が開業しました。
専属のウェルネスコンシェルジュがクリニックと連携し、利用者ごとにヨガや運動、タラソテラピー、食事などを組み合わせたプログラムを提供します。宿泊プランでは3泊4日114万円~となっており、一般的な観光ホテルというより、健康志向の富裕層や経営者層などを意識した高付加価値型の施設といえるでしょう。
つまりパソナは、単一の観光施設を運営するのではなく、宿泊、飲食、観光を組み合わせて淡路島への滞在時間や消費額を増やす事業モデルを構築しようとしています。
これまでの地方創生・観光事業の赤字は、単純な集客不振だけが原因ではありませんでした。26年5月期の売上高は前期比17.1%増の約83億円まで伸びており、一定の集客効果は表れています。
一方で、利用客は個人旅行やマイクロツーリズム、日帰り客の比率が高く、宿泊や飲食、複数施設の利用へ十分につなぎ切れていない点が課題です。加えて、新たに参入したゲーム事業や新規宿泊施設の立ち上がりが計画より遅れたことも、利益を押し下げる要因となりました。さらに、原材料価格の上昇や人件費の増加も重荷となっています。
「THE PASONA natureverse retreat」を軌道に乗せるとともに、施設の認知度を高め、滞在時間や1人当たり消費額を引き上げられるかが、黒字化に向けた重要なポイントになりそうです。
2030年に「売上4000億円」は実現可能?
パソナは「PASONA GROUP VISION 2030」で、2030年5月期に売上高4000億円、経常利益率5%、ROE8%以上、PBR1倍超を目標に掲げています。地方創生・観光事業についても、売上高200億円、営業利益20億円を目指します。
2027年5月期については売上高3250億円、営業利益15億円と、会社側は3期ぶりの営業黒字転換を予想しています。最終損益は10億円の赤字を見込むものの、2026年5月期の33億円の最終赤字からは改善する計画です。
ただ、パソナの淡路島事業は、決算数字だけでは見えにくい部分があります。背景には、創業者・南部靖之氏が長年描いてきた地方創生の構想があるためです。同社は2008年から淡路島で農業人材の育成や地域活性化に取り組み、南部氏は「企業誘致」ではなく「人材誘致」を重視してきました。
2017年には「地方創生の本質的な問題は、地方に持続可能な産業が少ないこと」と述べ、文化、健康、教育、アニメなどを通じて「夢のある産業」を地方につくる考えを示しています。
パソナには、人材関連事業という利益を生む本業があります。そして、ベネフィット・ワン売却によって次の成長へ投じる資金も確保しました。
一方で、高収益だった子会社はすでに連結から外れ、地方創生・観光事業はなお赤字です。加えて、全社コストの重さという課題も残っています。
高収益子会社を売却して得た1100億円を、新たな利益の柱へと変えられるのか。そして、主力事業で稼いだ利益を連結利益として残せる会社へ変われるのか。
2期連続の営業赤字からパソナがどのように脱却していくのか、今後の動向が注目されます。
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