【大貫 佑介】1クール60本×制作費3.5億円、どう回収する?現役プロデューサー「アニメ単体で儲ける気はない」製作委員会ビジネスの実態
「なぜ異世界転生ものばかりなのか」「なぜおもしろい作品でもアニメ化されないのか」--その答えは、作品の中ではなく業界の構造のほうにある。
いまのアニメは海外配信、SNS、音楽ビジネス、商品化といった要素が絡み合うなかで企画され、とりわけ深夜アニメの収益は海外市場が大きく支えている。アニメプロデューサーとして数多くの作品に携わってきた株式会社ブシロードムーブ代表取締役社長・大貫佑介氏の『アニメビジネス 漫画・小説・アニメが100倍おもしろくなるアニメの教養』(総合法令出版)より、複雑化する現代のアニメビジネスの現状を解説する。
第3回『なぜ「異世界転生」「なろう系」ばかり量産される?プロが明かす、海外で“高値がつく”アニメの裏側』より続く。
製作委員会という「アニメビジネスの心臓」
アニメ業界に関わりたいのであれば、絶対に理解しなければならない仕組みがあります。それが、「製作委員会」です。少し専門的な話にはなりますが、ここを理解できるかどうかで、アニメ業界に対する解像度は変わります。
逆にいえば、製作委員会を理解せずにアニメ業界を語ることはできません。一緒に整理しながら見ていきましょう。
まず大前提として、現在の深夜アニメは、とにかくお金がかかります。12~13話のアニメを制作するだけでも、宣伝費などを含めれば平均で約3億5000万円規模のコストがかかります。
1クールで60~80本ものアニメが制作・放送されていますが、そのすべてに対して1社が単独で数億円を投資し、リスクを背負うことは現実的ではありません。
また、どれだけ綿密に企画を練ろうとも、最終的にどのアニメがヒットするかは正確には予測できません。『鬼滅の刃』のような大ヒット作品も、放送開始時点で「絶対に売れる」と全員が確信していたわけではありませんでした。
原作人気が高くても外れる作品はありますし、有名監督を起用しても失敗することもあります。逆に、ノーマークだった作品が突然世界的ヒットになることもあります。
つまりアニメビジネスは、非常にハイリスクな世界だといえます。そこで生まれたのが、「みんなでお金を出し合って、リスクを分散しよう」という考え方です。これが、「製作委員会」です。製作委員会は「アニメ◯◯製作委員会」「◯◯製作応援団」など、作品名を冠した名前で呼ばれます。
製作委員会とは、複数の企業が共同で出資し、アニメを制作・運営するための共同事業体であり、日本独自の任意組合形式で法的な法人格をもちません。参加企業が共同でリスクを負いながら、共同で権利をもつ仕組みになっています。
製作委員会の3つの役割
この製作委員会には、大きく3つの役割があります。
① リスクを分散する
もし1社だけで数億円を投資してアニメを製作し、大失敗した場合、その会社は大赤字になります。場合によっては倒産リスクすらあります。しかし、10社で出資すれば、リスクは10分の1になります。製作委員会とは、「1社では背負いきれない巨大リスクを、みんなで分ける仕組み」です。
② たくさん打席に立つ
アニメ業界では、「なにが当たるか」は最後までわかりません。だから企業側は、「1本に全部賭ける」のではなく、「複数作品に少しずつ出資する」という戦略を取ります。たとえば1社あたりの出資額を下げれば、年間10本、20本と複数作品に参加できます。そのなかで1~2本が大ヒットすれば、全体として利益が成立します。これは投資の世界でいう「ポートフォリオ」に近い考え方です。製作委員会とは、「ヒットを当てる確率を上げるための分散投資モデル」でもあるのです。
③ 本業へ利益を戻す
多くの人は、「アニメがヒットしたら、アニメそのものが儲かる」と考えています。しかし実際の製作委員会は、少し違います。製作委員会の本質は、「アニメ単体で利益を出すこと」ではありません。参加企業が、自社の本業で利益を出すための仕組みなのです。たとえば、カード会社ならカードを売る、音楽会社ならアーティストを売る、配信会社なら会員数を増やす、玩具会社ならおもちゃを売るなどといった本業のための巨大広告・販促装置として、アニメを利用しているのです。「各企業の本業を伸ばすための販促メディア」でもあるといえます。
製作委員会では、海外配信権や国内配信権、商品化権、音楽権、イベント化権、興行化権、ゲーム化権など、さまざまな権利が細かく分配されます。製作委員会は、各企業が自社に必要な権利を取り合いながら組まれる、権利分配システムなのです。
アニメプロデューサーは何をしているのか?
そして、その企業の組み合わせを設計するのが、幹事プロデューサーの重要な仕事になります。どの会社を誘うのか、誰にどの権利を渡すのか、どこにアニメ制作を頼むのか、どこに何%出資してもらうのかといった内容次第で、作品の方向性も利益構造も宣伝戦略も変わります。
これによって、ときには20社近くが参加する大型委員会もありますし、逆に3~5社程度の少数で組まれる作品もあります。また、出資比率にも差があります。5%程度の小規模出資社もいれば、30~40%を握る「主幹事会社」が存在する場合もあります。1社だけで作る場合ももちろんあります。
この「幹事会社」とは、製作委員会を実質的に取りまとめる中心企業のことです。作品方針の最終判断、他社との調整、委員会会議の進行などを担い、作品全体の責任を負う立場になります。当然、出資比率が高いほど利益の取り分も増えますが、そのぶん赤字リスクも大きくなります。
この仕組みを支えているのが、「幹事プロデューサー」や「商品化担当プロデューサー」といった専門プロデューサーです。幹事プロデューサーは、作品に関わる権利を管理する仕事です。海外展開、契約、コラボ、使用範囲などを整理し、「誰が、どこまで、なにを、使えるのか」を調整します。
一方、商品化担当プロデューサーは、グッズ、フィギュア、アクリルスタンド、コラボカフェ、イベントなどを企画し、「作品を体験できる形」に変えていく仕事です。
ほかにも配信、音楽、ゲーム、宣伝、音響などそれぞれの出資社や役割に応じて担当プロデューサーが存在します。
現在のアニメ業界は、アニメーターや監督だけで動いているわけではありません。多くの専門職が複雑に連携することで、はじめて1つのアニメビジネスが成立しているのです。
アニメビジネスにおける「儲けのからくり」
製作委員会に参加する企業は、同じアニメに出資していても、「まったく違う儲け方」をしています。そして実は、「誰が高額出資社になるか」も、そのアニメがなにで儲ける設計かによって変わります。
たとえばグッズで稼ぐ設計のアニメであれば商品化権をもつ会社が、音楽で稼ぐ設計のアニメであれば音楽会社が、それぞれ大型出資社になることもあります。仮にいまアニメの収益構造の主流が円盤に戻れば、円盤会社が大型出資社になるでしょう。
ここでは、もっとも多いパターンである「海外配信で儲ける設計のアニメ」を例に、制作費3億5000万円のアニメで具体的に数字を見ていきましょう。
このパターンでは、海外配信権をもつ会社が、海外に配信権を販売する手数料で稼ぎます。制作費3億5000万円のうち30%、つまり約1億円以上を出資したとします。当然、かなり大きなリスクです。しかし、その代わりに「海外配信権」をもっています。
その結果、海外プラットフォームへ作品を販売する際、窓口手数料、通称「窓手」と呼ばれる販売手数料を得ることができます。海外販売総額が2億7000万円だった場合、その30%を販売手数料として受け取れば、それだけで数千万円規模の利益になります。
ちなみに、もっと細かく言うとスタジオに支払われることが多い制作印税、幹事手数料、原作印税etc細かい印税があり委員会にお金が入ってくる前に先に各社に分配されていきます。
さらに、残った利益が製作委員会から出資比率に応じて分配されるため、海外販売の手数料と出資配当の二重取りができる仕組みになっています。つまり「アニメ単体の利益」よりも、販売権を握っていることで利益を出せるのです。
次に多いのが、ABEMA、U-NEXT、dアニメストアなどの国内配信会社の中額出資社です(製作委員会全体のおよそ7~15%を出資するケースが多くなります)。
たとえば1話300万円のMGを支払えば、12~13話で3600~3900万円規模の支出になります。お金を払う側であると同時に、製作委員会のメンバーでもあるのです。
こうすることで自社で配信権を利用する際にも、権利処理や配信契約、販売管理などの名目で手数料を回収できるのです。自社で配信する20%相当の手数料が経費として相殺される計算になります。結果的に大きな損をしにくい仕組みといえます。
少額出資社の稼ぎ方
その次に、グッズ・ゲーム・トレカ会社などが少額出資社として参加するケースが多くなります(ただし、商品化権で稼ぐ設計のアニメではこの位置の会社が大型出資社になることもあります)。
バンダイ、タカラトミー、ホビージャパン、ブシロードの各社など、いわゆる「商品化権」や「グッズ販売権」を取得する会社の多くは、委員会の出資配分金(リターン)をはじめからアテにしていません。
3500万円を出資して作品に参加した場合、もし委員会からの分配金が少なかったとしても、フィギュアやアクリルスタンド、コラボカフェ・限定グッズ、トレカなどがヒットして、本業売上が数億円伸びれば、十分すぎるほど黒字になります。少額出資社にとってアニメは、「作品そのもの」で利益を出すというより、自社商品を売るための巨大な広告であり本業の販促なのです。
そして、もっとも独特なのが音楽出資社です。音楽出版社、レコード会社がこれに当てはまります。アニメへの出資を「広告宣伝費」として考えています。
アーティストの新曲リリースに2000万円のプロモーション費を投じる予算が組まれていた場合、それをそのまま広告枠の購入に使うのではなく、アニメに2000万円出資して音楽権(オープニング権+エンディング権)を取得し、自社アーティストの楽曲を主題歌として送り込むことに使うのです。
アニメは世界中で放送・配信されるため、自分たちでお金を払って広告枠を買う以上に、強力かつ広範囲な宣伝効果が得られます。
楽曲が配信で再生されればアーティスト本人にも分配金が入り、音楽出版社にはJASRACやNexTone経由の出版権収入が入ってきます。海外でのライブ展開につながれば、ライブ収益も巨額になり得ます。
ちなみにこのあたりの出版権の収入は日本アニメの海外売上の調査データの出典を見る限り、日本アニメの海外売上としてカウントされていないようです。音楽以外にもカウントされていないものが多数あります。日本アニメが海外で稼いでいる数字は調査よりはるかに多くなるわけです。
このように、同じ製作委員会に参加していても、
・配信権で稼ぐ会社
・制作をすることで稼ぐ会社
・グッズで稼ぐ会社
・音楽で稼ぐ会社
と、利益の回収方法はまったく異なるのです。
ですので、製作委員会とは、「みんなでお金を出し合う組織」と簡単には言い表せません。「それぞれの会社が、自社の本業へどう利益を回すか」を前提に組まれた、巨大なビジネス連合体なのです。
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【第1回から読む】最近のアニメ、なぜ「異世界転生もの」ばかり?深夜アニメ収益は海外中心…“「日本で人気」だけではアニメ化されにくい”現実
【はじめから読む】最近のアニメ、なぜ「異世界転生もの」ばかり?深夜アニメ収益は海外中心…”「日本で人気」だけではアニメ化されにくい”現実
