農村部の公衆トイレ(筆者撮影)

写真拡大

以前にもお伝えしたが、中国ではAIやロボットなどの最新技術が盛んに報道される一方で、メンツのための見栄え優先事業や、形式主義的に行われている箱モノ事業も数多く存在する。

今回は、中国の国営メディアである中央広播電視総台(CMG)が報じた、各地で放置・形骸化している農村部の汚水処理事業の実態について紹介する。

中国デジタル行政の失敗 アプリ開発もユーザー1日60人で4670万元が「水の泡」に

中国は2022年から農村の汚染対策を急速に進めている。これには近年までの経済発展において都市部の下水道整備が進められたが、農村部のインフラ整備は長年後回しにされていたという実情がある。

そのため、多くの農村では台所や、洗濯、風呂などの生活排水を側溝や近くの河川・ため池へそのまま流しており、地下水汚染や水源の悪化を招いていた。こうした背景もあり中央政府は2025年までに農村の汚水処理率を40%に引き上げる方針を打ち出していた。

しかし本来なら恩恵をもたらすはずの公共事業が、かえって住民の生活を脅かす事態となっているのだ。

空転する汚水処理設備

最初に紹介するのは汚水が存在しないのに設置された汚水処理場の実例だ。

江蘇省・徐州市のある農村には30世帯ほどしか住んでおらず、日常の水使用量や汚水の発生量は少なかった。実際に処理場から100メートルほど離れた排出口からは、水がわずかに出ている程度だった。

汚水処理は各地域の人口や汚水発生量に合わせて施策を分けることが義務付けられており、画一的な建設や規格統一は厳格に禁じられている。

しかし、この農村の汚水処理場は長期間にわたり処理すべき汚水がないにもかかわらず、設備保護のためタンク内の残水をひたすら循環させ稼働させていた。ここ数年、設備が空転する状態が続いていたのである。

試算では、処理場が正常に稼働した場合の1日の消費電力は約5kWhだが、空転状態では1日10kWhに達し、これだけで年間3600kWh以上の電力が無駄に捨てられている計算になる。

こうした荒唐無稽な状況はこの農村だけに限らない。同市の複数の村を調査したところ、いずれの汚水処理場でも処理すべき汚水が存在しないという事態が共通して見られた。

コスト削減や手抜き工事により汚水管が満杯に

別の農村では「無駄に空転している」村々とは異なり、汚水処理設備は汚水を処理できないばかりか、頻繁にあふれ出て逆流し、住民を苦しめる事態が発生していた。

本来、汚水処理には雨水と汚水を別々に流す「分流式」が求められる。しかしコスト削減や手抜き工事により雨水対策を怠ったため、降雨時に大量の雨水が汚水管へ一気に流入。小規模な処理場の許容量を即座に突破し、システム全体がまひしたのだ。

その結果、汚水管は処理しきれない水で満杯になり、水位が各家庭の排水口よりも高くなったことで、下流から上流へ押し戻す強い圧力が発生した。この圧力により、自分の家の排水が流れないだけでなく、他人の家の汚水までが自宅のトイレや排水口から噴き出す逆流現象を引き起こした。

その結果、村民は仕方なく自ら配管を変え、生活汚水をそのまま近隣の溝や側溝へ垂れ流すようになった。この村において、汚水を集中的に処理するという当初の目的は完全に破綻している。

住民は一日も使っていないのに利用料を徴収

さらに不条理なのは、設備が機能していないにもかかわらず、水道料金に「汚水処理費」が上乗せされるようになった点だ。

舞台となった農村では、汚水対策事業として約191万元(約4200万円)の予算が投じられた。当初の計画では、各家庭のトイレや浴室、台所、洗濯などの生活排水を集めて浄化する予定だった。

上述の通り汚水処理は破綻しているが、この農村の料金基準には生活用水1トンあたり0.35元を徴収することが明記されており、住民の請求履歴を見ると2025年3月からこの項目が新たに追加されていた。

その一方で住民によると、事業者は表向きだけ設備が正常稼働しているように装っているのだという。事業者は監査機関の検査をパスするため、タンクローリーで運河から水をくみ上げ、下水管やマンホールに注ぎ込んで「毎日処理すべき汚水が存在している」状況を演出しているのだ。

前回紹介した雲南省の事例が「デジタルの箱モノ」であったとするならば、今回の農村汚水処理は「環境インフラの箱モノ」と言える。扱う対象がソフトウェアかコンクリートかの違いにすぎず、需要を無視した画一的な設計、運用の不在、形骸化した検査という失敗の本質は驚くほどうり二つだ。

中国の急速な発展の裏側では、華やかな成果の陰で、こうした形式を満たすためだけのプロジェクトが今なお各地で公金を浪費し続けているのである。

文/下川英馬 内外タイムス