日立、ソニー、任天堂の利益を「外国人」が奪っている…日経平均10万円でも日本人が豊かにならない根本原因
本稿は、リチャード・ケイ『日本株を買う外国人 外国株を買う日本人』(星海社新書)の一部を再編集したものです。

■日本株の現状に「危機感」を覚えるワケ
1990年代半ばから30年以上にわたり日本の株式市場、上場企業(※1)と向き合い、その「中身」、すなわち、新しい技術やサービスをつくり出そうとする人たちの想いや願いを読み取り、投資すべきかを判断し続けてきたわけですが、土地や不動産に比べると、日本株の現実に向けられる「眼差し」の温度の低さに、私は危機感を覚えています。
それは、日本の上場企業のオーナーシップ(※2)が、日本人の手からじわじわと離れ外国人に向かっているという現実です。土地と上場株では流動性に大きな違いがあるとはいえ、土地を買い取られることには不安を感じ、声を上げる人々が、自国の未来をつくり、暮らしを担う企業の株式が外国人の手元へと買い集められていることには、なぜこれほどまで無関心なのでしょうか。
外国人投資家の株式保有比率が高まると、企業の意思決定に大きな影響を与えます。たとえば、配当などの株主への還元策はもちろん、経営者の人事、さらには企業買収にも影響します。企業買収によって、日本企業が培ってきた知的財産や技術だけではなく、『非財務資産』(※3)が外国人投資家の手元にわたる可能性もあり得ます。
私自身、一人の外国人投資家としてこの市場に参加していますが、外国人投資家が旺盛な買いを入れることで株価が大きく上昇している、そして、その買いに国内投資家が応じている、今の状況を果たして日本のみなさまが手放しで喜ぶべきなのか。
■日立の「株主の過半」は外国人
私は一人の投資家として、そして日本を愛する一人として、立ち止まって考えるべきだと言わざるを得ません。なんだか江戸幕府末期の攘夷論に似たことを申し上げているように思われるかもしれませんが、外国人投資家を締め出せ、出て行け、という当時の極端な思想ではありません。もはや、日本の株式市場において外国人投資家を抜きにすることは現実的ではありませんから。
私がこの文脈で問いかけたい相手は、外国人投資家ではありません。日本で暮らすみなさまなのです。当時の攘夷論との大きな違いは、日本人の考え方、構えです。当時は血気盛んな若い志士たちが攘夷論を訴えていましたが、現代の若者たちの多くは外国人投資家が日本株を大きく買い越している事実にはほとんど無関心な一方、米国株、全世界株で構成された投資信託の積立投資に勤しんでいるようです。
日立製作所は、この20年で大きな改革を成し遂げて株式市場からの評価を取り戻し、2026年4月末では株式時価総額(※4)20兆円を超える、日本株を代表する企業です。
その日立製作所の外国人投資家比率は2005年3月期末では36.4%だったのが、2025年3月期末には51.4%と半数を超えています。つまり、日立製作所が事業を通じてつくり上げた価値から生まれる各年の利益、そして積み上げてきた株主資本の半分は外国人投資家のモノだということです。そして、このような状況を生み出しているのは、日本の投資家、機関投資家(※5)と個人投資家の双方の投資行動に原因があるのです。
※1 上場企業:発行している株式が株式市場(証券取引所)で売買可能な企業のことを指します。
※2 オーナーシップ:企業の所有権のことを指します。企業の株式を保有すると、その企業の一部を所有する権利(オーナー、株主としての権利)を持つこととなります。その保有比率に応じて、企業の利益(配当)を受け取ったり、株主総会で経営に意見を反映させたりすることができます。
※3 非財務資産:決算書などで示される「業績」や「財務データ」には直接表れない、数値化することが難しい資産。
※4 株式時価総額:上場企業の株価に発行済株式数を掛けた数値。その企業自身の所有権100パーセントの時価を示しています。「その企業を丸ごと買い取るにはいくら必要か」の目安となり、企業の経済的な影響力を表しています。
※5 機関投資家:巨額の資金(年金や保険金、投資信託の資金など)を預かり、株式市場等で運用するプロの投資家のことを指します。銀行、生命保険会社、資産運用会社などがこれに該当します。
■東証全体の3分の1に迫る海外勢力
日本の株式市場の私の見方のご説明に入る前に図表1をご覧ください。

この図表は、2025年末時点での日本の株式時価総額上位20社の外国人投資家比率、その推移を示しています。ハイライトしたのは50%超です。
日立製作所のほか、ソニーグループ、任天堂において、2025年3月末時点で外国人投資家が50%超の株式を所有しています。上位20社の株式時価総額を合計すると、約373兆円。東証プライム(※6)に上場する銘柄すべての株式時価総額を合計すると1150兆円ですから、この20社でその3割強を占めていますが、20社それぞれの外国人投資家比率分を合計すると約140兆円を超えます。
株式はその企業が生み出した利益や資産を受け取る権利ですから、ソニーグループの利益の半分以上が外国人投資家に帰属することになります。現実には考えられませんが、任天堂が仮に今解散した(その可能性はほぼゼロですが)場合、現金化された資産の半分以上が海外投資家の手元に届くことになります。
トヨタ自動車のように、2005年3月末時点から比率が減少している企業もありますが保有していた株式を外国人投資家に売り渡してきたわけです。
ここまでは日本を代表する個々の企業で見てきましたが、東証全体を対象にして、もう少し長い時間軸で見てみましょう。
日本での金融ビッグバン以前は1割程度だった外国人投資家の比率は2005年には25%を超え、2024年にはさらに増加、3分の1に迫っています。

■「伊藤レポート」が世界に示したこと
この数字を「市場の国際化」という言葉だけで片づけてしまってよいのでしょうか。私には、日本の富の源泉、その所有権が、国境をゆっくりと越えていく地殻変動のようにも見えてしまいます。こうした状況を生み出している背景を考える前に、もう一つ、お示ししておきたい数値があります、ROEです。
ROEとはReturn On Equity、株主資本利益率で、会計上の株主の資本がどれだけ効率的に利益を生み出しているか、という指標です。『持続的成長への競争力とインセンティブ 企業と投資家の望ましい関係構築』プロジェクトが2014年8月に最終報告書として発表した、いわゆる“伊藤レポート”以降、ROEが大きな注目を集めたのは読者のみなさまもご存じのことと思います。
伊藤レポートの発表当時の日本の上場企業のROEは5%台と試算され、欧米の上場企業(欧州は10%台、米国は20%台)とは大きな差をつけられていました。そうした状況を踏まえて、伊藤レポートは日本の上場企業のROEの目安を8%と設定、それに向けた施策が講じられました。コーポレートガバナンス・コード(※7)はその代表的な具体例ですが、これらの具体的施策を、経済産業省、金融庁や証券取引所がリードしていたところに大きな特徴がありました。
※6 東証プライム:2022年4月から導入された東京証券取引所(以下東証)の新しい市場区分です。企業の規模や「目指す方向性」に合わせて、以下の3つに再編されました。
①プライム市場(最上位市場)
一言で言うと:「世界で戦う超一流企業」が集まる市場。
②スタンダード市場(中堅・定番市場)
一言で言うと:「国や地域を支える、伝統的な優良企業」が集まる市場。
③グロース市場(新興・成長市場)
一言で言うと:「将来性が期待される若くて熱い成長企業」が集まる市場。
※7 コーポレートガバナンス・コード:上場企業が持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために守るべき「企業統治(ガバナンス)の指針・ガイドライン」のこと。東京証券取引所などが定めています。
■「株主資本主義」を正式に受け入れた
さらに極めて興味深いのは、グラフの通り、伊藤レポートが発表されたタイミングでもすでに外国人投資家が日本企業の株式の3割程度を保有していたという事実です。これらの施策が外国人投資家の日本株買いをさらに促した面はあるかもしれませんが、この事実は見過ごせません。というのは、この事実から、伊藤レポートをきっかけとした様々な改革は、日本企業の大株主である外国人投資家に対するアピール、つまり、日本企業は資本効率を高めようとしています、ここで我々を見切って売らないでね、というメッセージだったという見方もできるからです。
したがって、伊藤レポートは、日本がグローバルな「株主資本主義」を正式に受け入れることを世界に宣言した、象徴的な出来事と位置付けることも可能でしょう。それまで「会社は誰のものか」という問いを前にして「日本には日本のやり方がある」と、資本の規律を遠ざけてきた経営陣が、ついに白旗を揚げ、共通言語としてのROEという株主目線の指標を使い始めざるを得なくなった、ということです。
しかし、30年以上のキャリアを持つ私の目には、その受諾の仕方に横並び意識が感じられ、いかにも日本的であったようにも見えました。
■上場企業が多すぎることの弊害
昨今では、東証に上場する企業全体で見るとROEは10%程度にまで改善しています。
伊藤レポートをきっかけに講じられた施策が成果につながっている面もあるものの、ここでも見逃せない事実があります。

二極化です。すなわち、経営の規律を高め、成長のための投資等を通じて収益性、資本効率性を高めている企業と、そうではない企業の二極化です。前者に該当する企業は数多く存在します。これらの企業はROEで見ても、欧米の一流企業と見劣りすることのない、魅力ある投資対象です。しかし、他方で、後者の企業、つまり、依然として変わろうとする意識に乏しい上場企業も少なくありません。言わば、意識高く行動する企業が平均値を引き上げる一方で、意識の低い企業が足を引っ張っているのです。
このような二極化の根本の原因は、そもそも東証に上場する企業が多すぎることにある、というのが私の考えです。上場企業が多すぎる、と同時に、株式時価総額が小さすぎる企業が多数存在しています。こうした企業は、国内外の主要な機関投資家の調査・投資対象から外れてしまいます。その結果、経営陣は市場からのプレッシャー(資本効率改善への要求)に向き合わなくても済む、変わろうとする意識が低いまま温存されてしまう。これも二極化につながる一因です。
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リチャード・ケイコムジェスト アナリスト兼ポートフォリオ・マネジャー
2009年にアナリスト兼ポートフォリオ・マネジャーとしてコムジェスト(パリに本社を置く資産運用会社)入社。日本株式について豊富な経験を持つ。1994年日本興業銀行にてハイテク株のアナリストとしてキャリアをスタート。メリルリンチ証券を経て、2005年ウエリントン・マネジメント・カンパニー(米国・ボストン)で日本株ファンドのポートフォリオ・マネジャー。オックスフォード大学を卒業。東洋学を専攻。
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(コムジェスト アナリスト兼ポートフォリオ・マネジャー リチャード・ケイ)
