Galaxyは27万円弱…「36万超折りたたみiPhone」で勝負するアップル新CEOの船出にITライターが感じた暗雲の正体
■折りたたみスマホはとっくに製品化済み
毎度、事前リークでだいたいのことがネタバレしているものの、多くのアップルファン(アップルアンチも?)が毎年楽しみにしている9月恒例の新製品発表イベント。今年、2026年は、以前より水面下での開発がウワサされていたアップル初の折りたたみスマホ『iPhone Duo』が初めて披露されるということで特に注目を集めていた。
「折りたたみスマホ」とは、紙のように折りたためる特殊なディスプレイパネルを用いて、7~10インチ前後の大画面(インナーディスプレイ)をコンパクトに持ち運べるようにしたスマホのこと。大画面を活かしたタブレットライクな利用のほか、画面を左右に分割して複数アプリを同時に動かすといったことができる。YouTubeでライブ配信を観ながらXにポストしたり、PDFリーダーで書類を見ながらメールに返信したり、プライベートからビジネスまで、さまざまな使い方が可能だ。
また、折りたたみ時に外側になる面にもディスプレイ(アウターディスプレイ)を搭載しているため、閉じた状態でも普通のスマホのように利用できる。持ち運びしやすさと大画面を両立したまさに「夢の次世代スマホ」と言えるだろう。

■韓国企業サムスンが皮肉な歓迎表明を
……とぶち上げてみたが、実はAndroid陣営では8年も前の2018年から商用化が始まっており、現在ではサムスン、ファーウェイ、Google、モトローラなど、多くのメーカーから、横折り、縦折り、3つ折りなど、さまざまな製品が発売されている。それだけにAndroid陣営からしてみたら「アップルは今頃のこのこ参入か」という気分なのではないだろうか。

特に最初期からこの市場の盟主と言っても過言ではない韓国・サムスンは、既に8世代目を数えるほど折りたたみスマホに注力してきた。それだけに『iPhone Duo』発表直後にはSNSでアップル参入を歓迎(揶揄?)するような動画をアップしたり、前CEOティム・クックがサムスンの折りたたみスマホ『Galaxy Z Fold8』に乗り換えたというプロモーションを行ったり(実際は同姓同名の別人というジョーク)、早くもバチバチにケンカ腰。歴代モデルを並べた画像を作成し、自社製折りたたみスマホの薄さ、軽さの進化をアピールするといったことまでおこなっている。

■折りたたみスマホの決定版になる?
たしかに薄さ約11.3mm、重量約254gの『iPhone Duo』に対し、よく似たスタイルの『Galaxy Z Fold8』は薄さ約9.7mm、重量約201gとスリムかつ軽量だ(兄弟モデルの『Galaxy Z Fold8 Ultra』は約8.9mmとさらに薄い)。Android陣営の折りたたみスマホはどれも薄型化・軽量化を実現しており、それらと比べて『iPhone Duo』がずっしり、ぼってりとした製品であることは否めない。
何より、既に8年も前からあるジャンルに、まるで自分たちが新発明したかのような顔をして参入してくるいつものアップルスタイルにダサさを感じた、あるいはイラ立ちを覚えてしまった人も多いことだろう。

しかし、アップルの「イノベーション」(新開発)は、実のところいつもこうだ。デジタル音楽プレイヤーも、スマホも、タブレットも、スマートウォッチもアップルが「発明」したものではない。すでに先行して製品化されていた原形を、誰もが使いたくなる形に「完成」させることこそ、アップルのすごさ。
そして、折りたたみスマホ市場は、Android陣営が8年かけて育ててきたにもかかわらずいまだ未成熟だ。形状の試行錯誤は続いているし、市場規模もグローバルで1.4%程度と極めて小さく、保守的な国内市場では約1.1%とさらに低迷している(MM総研調べ)。
このありようは、まさにいつものアップルの勝ちパターンのように見える。かつてiPodがマニア向けのガジェットに過ぎなかったデジタル音楽プレイヤーを一般化したように、iPhoneがガラケーを駆逐したように、アップルが、折りたたみスマホを誰もが欲しがる、これからのスマホの大本命にしてしまうのだろうか?

■画面比の正解は「横ワイド」?
では、ここからはアップル初の折りたたみスマホとなる『iPhone Duo』について、その詳細を確認・評価していこう。
まず、目玉の折りたたみディスプレイは開いた状態で7.6インチとなる。iPad miniの画面サイズが8.3インチなので、それに近い大きさと考えるとイメージしやすいだろう。ポイントはそのアスペクト比(画面の縦横比)が、1.4:1=4.2:3であること。これは、iPadが伝統的に採用してきた4:3のアスペクト比に近く、iPadのために用意されたさまざまなアプリやサービスをほんの少し手直しするだけで利用できることを意味する。IMAXフィルムフォーマットの映画もほぼそのままの画面比で再生できる。

実はAndroid陣営の折りたたみスマホのアスペクト比は正方形に近いものがほとんど。これだと閉じた状態での使い勝手が既存スマホに近くなる反面、肝心の開いた状態での使い勝手が縦長画面の中途半端なものになってしまう問題があった。そのため、ここに来てサムスンやファーウェイらがアスペクト比4:3(通称「横ワイド」)の製品を相次いで発表している。アップルの選択もあり、今後の折りたたみスマホはこの横ワイドが主流となっていきそうだ。

■折りたたんだ状態でも使いやすい新発想UI
ただし、横ワイドなディスプレイを搭載した折りたたみスマホは、閉じた時に縦方向の情報量が少なくなる弱点がある。これまでに発売されてきた横ワイドな製品もその辺りがネックとなっていたのだが、『iPhone Duo』は画面の右端にボタンなどのコントロール領域を寄せることでこの問題を解決してみせた。

見せられると誰でも思いつきそうなアイデアだが、実はこれをAndroid陣営が実現するのはなかなか難しい。自社でハードウェアもOSも開発し、(批判も多いが)アプリメーカーに対応を半ば強制できるアップルなればこそ実現できた解決策といえよう。
なお、本体を折りたたんだ際のアウターディスプレイの縦横比も内部ディスプレイと同じ1.4:1。これによりインナーディスプレイを折りたたんでアウターディスプレイに表示が切り替わった時に感じる違和感を抑えられるとのこと。もちろん、こんなことをやっているのはアップルだけ。「体験」に対する異様なまでのこだわりを感じるところだ。
加えて、画面を開いたり、閉じたりする際のエフェクトのセンスも素晴らしい。表示しているコンテンツはそのままにフレームのサイズだけが変わる様子を見事なアニメーションで見せてくれる。これはぜひ、店頭で確認してみてほしい。つい、パカパカしたくなりそうだ。
■ディスプレイの折り目は見えるのか?
さて、折りたたみスマホと言えば、気になるのは、ディスプレイの折り目が見えるのか、見えないのか、だ。結論を言うと、『iPhone Duo』の折り目はほとんど目立たない。サムスンやファーウェイら、すでに多くのノウハウを蓄積している先行メーカーと比べても勝るとも劣らないフラットさを実現している。
ポイントは大きく2つ。まずは徹底的に作り込んだ(コストもたっぷりかけた)特製ヒンジで折り目の見えない構造を実現していること。アップル曰く、ヒンジには100以上の精密部品が使われており、それぞれの部品の公差(部品ごとのごくごくわずかな個体差)をレーザーで正確にスキャンし、AIで最もフィットする組み合わせを選んで組み上げているのだとか。この極めて緻密に組み上げられたヒンジがインナーディスプレイ中央部をしっかりと支え、ディスプレイパネルを高強度ガラスで挟み込むといった、他の細かな工夫と合わせ、段付きを極限まで抑え込んでくれる。

さらにインナーディスプレイの表面処理に映り込みを抑えるアップル独自のアンチグレア技術「Nano-texture(ナノテクスチャー)」を採用したことも、見えない折り目に貢献。外光の映り込みによって折り目が浮き彫りになることを防いでいる。
ただし、折り目問題にはもう1つ、耐久性というチェック項目がある。こればかりは実際に使い込まれてみないと分からない。すぐに折り目が見えるようになってしまうのか、あるいはずっと美しいまま使い続けられるのか、長期的な検証が必要だ。

■カメラはProに遠く及ばず、顔認証非搭載
ここまではかなりベタぼめに近い評価をした『iPhone Duo』だが、ここからは残念だった点についても解説していきたい。実はけっこうある。
まず、本機は性能面で同時発表されたハイエンドモデル『iPhone 18 Pro』に及ばない点が多い。具体的にどう違うのか、表形式でまとめてみた。

画面サイズ以外の多くの点でProモデルに及ばないことが分かる。特にカメラの違いは大きい。望遠レンズなど、カメラ性能を重視する人にはProモデルの方がおすすめだ。なお、ビデオ会議や自撮りに使うフロントカメラについては、『iPhone Duo』で、iPhone初のUDC(画面下カメラ)を採用。カメラを使っていない時は画面上のパンチホールが消えて見えなくなる。よく見るとカメラの跡が見えるのだが日常利用においてはほとんど気にならないはず。目障りなパンチホールがないのはなかなかに快適で、ぜひ他モデルにも採用してほしいと感じた。
ただし、その反面、iPhoneの売りの1つであったFace ID(顔認証)には非対応となり、過去モデルで採用されていたTouch ID(指紋認証)が復活した。本体サイドボタンに指紋センサーが組み込まれている。筆者はFace IDが気に入っているのでとても残念だが、Touch IDファンも多いと聞くので、ここは好みの分かれるところだろう。

■驚きの36万4800円、この価格が命取りに?
そして何より残念なのがiPhone史上最高額となる価格設定だ。『iPhone Duo』の価格は、最も安価な256GBモデルでも36万4800円(税込)。これに故障時の修理費用補助や盗難・紛失時の交換品提供などをしてくれるアップルCare+の料金(年間2万9800円)を足すと40万円近くにもなってしまう(アップルCare+への加入は任意だが、高額かつ故障する可能性が低くない製品だけに、筆者としては強く加入をおすすめしたい)。
構造の複雑さや、かねてからの半導体価格暴騰などもあり、仕方のないことなのは理解できるが、これでは気軽に使えない。ジーンズの尻ポケットに入れて移動なんてもってのほかだろう。正直、スマホに許される価格設定ではないと思っている。
■1ドル165円で換算されてしまった
また、もう1つの高価格化要因である円安についても今年は厳しい。昨年は1ドル150円前後で計算されていた国内価格が、今年は1ドル165円前後で計算されているのだ。記事執筆時点(9月11日)での為替レートは1ドル153円強なので、正直、もうちょっとなんとかならないのかと思ってしまう。昨年同様1ドル150円のレートであれば、32万9800円(税込)だっただけに残念でならない(それでも十分高いのだが)。

ちなみにライバル機と目されているサムスンの「横ワイド」折りたたみスマホ『Galaxy Z Fold8』は記事執筆時点でSIMフリーモデルが26万9800円だった。このくらいが適正価格なのではないか。
■低価格化を実現できなければ…
さて、『iPhone Duo』の初代モデルとは思えない完成度の高さと、よほどのファンでも購入をためらう強気な価格設定から思い起こされるのが、アップルが2024年6月に59万9800円で国内発売したMR(複合現実)ヘッドセット『アップル Vision Pro』だ。圧倒的なスペックと、それがもたらす体験が高く評価されたものの、ライバル製品が10万円台という中で苦戦が続き、今ではシリーズ存続の危機とまで言われている(恥ずかしながら筆者も勢い任せで購入したのだが、ここ1年は全く使っていない)。

先に現在の『iPhone Duo』のおかれた状況が「いつものアップルの勝ちパターンのようにも見える」と評したが、同時に、『Apple Vision Pro』がハマった負けパターンに陥っているようにも見える。いや、率直に言うと、この価格では後者のルートまっしぐらだろう。そして『iPhone Duo』の失敗は、アップル参入による市場規模拡大を期待していた折りたたみスマホ市場全体をぶち壊すことにもなりかねない。
では、10年後に「折りたたみスマホ? ああ、そういうのあったね~」とならないためにはどうすればいいか。正解はシンプル、とにかく低価格化だ。せめてライバル同等の20万円台後半、できれば20万円台中盤を実現してほしい。対応アプリやサービスをしっかり作っていかねばならない『Apple Vision Pro』と異なり、『iPhone Duo』には、iPhone/iPad向けの既存アプリやサービス群をそのまま使える強みがある。価格の問題さえクリアできれば、より画面の大きなiPhoneが欲しいという層からの支持を受けられるはずだ。

■20万円台が適正価格ではないか
『iPhone Duo』の目標は、3年以内にiPhone全体で10%以上のシェアを獲得すること。現在の折りたたみスマホのシェアを考えるとかなり高いハードルだが、かつて一部ファンに熱望されたコンパクト路線の『iPhone 12 mini』がシェア5%程度と低迷した結果、シリーズごと消滅してしまったことを考えるとせめて2ケタは取っておきたい。
一方、スマホの低価格化は今、かなり難しい状況にある。メモリーなどの半導体価格がこれまで聞いたこともないような速度で値上がりしており、しかも2028年ごろまで解消される見込みがないと言われている。率直に言って、このままでは値下げどころか値上がりする可能性が高い。
しかし、低価格化なくして『iPhone Duo』の成功はあり得ない。アップルがこの逆境を乗り越え、『iPhone Duo』を普及させることができるのだろうか? 正直なところ、その不安は大きい。
■新CEOジョン・ターナスはアップル生え抜き
なお、今回の発表は、51歳の若き新任CEOジョン・ターナスの初仕事となった。ターナスは、iPod発売直前の2001年にアップルに入社し、以降、長らくハードウェアエンジニアとして製品開発に従事。アップル40年の歴史において、入社以来アップル一筋という生え抜き(プロパー)社員がトップの座に就くのは初めてのことだ(創業者スティーブ・ジョブズすら、一度、社を離れてからCEOに就任している)。代々、経営の専門家たちに委ねられてきたアップルの舵取りがハードウェアエンジニアに託されることになった。

先代CEO、ティム・クックは財務とサプライチェーンの専門家としてアップルの事業を何倍にも拡大した(株価はなんと約28倍にも)。ジョブズ時代のアップルへの思い入れが強い人の中には「クック時代のアップル製品はつまらない」という人も少なくないが、クックがCEOに就任して以降の約15年でアップルが驚くほど“強靱な”企業に成長したのを否定することはできないはずだ。
■ジョブズやクックを超えられるか?
元アップル日本法人代表の前刀(さきとう)禎明(よしあき)氏は、とあるインタビューでスティーブ・ジョブズを「イマジネーション(未来)重視のビジョン型」、ティム・クックを「リアリティー(現実)重視のオペレーション型」経営者だと評した。ジョン・ターナスがどのような経営者なのか、そのスタイルはまだ明らかになっていないが、その経歴からものづくりを大切にする経営者であることは間違いないだろう。実際、クック時代に立ち上がったプロジェクトではあるが、初の折りたたみ型『iPhone Duo』の完成度は驚くほど高く、感心させられた。
しかし、ここまで説明してきたように、今回の勝負は製品の善し悪しで決まりそうにない。どんなに良いものを作っても高すぎて売れない、そんな時代になってしまっているからだ。今後しばらくは、ノートPC『MacBook Neo』(11万9800円から)のような低価格プロダクトが市場の主役となっていくだろう。そんな身もふたもない状況下で、ターナスの「ものづくり力」を活かすことはできるのか? 『iPhone Duo』をヒットさせることができるのか? まさに「嵐の船出」となってしまったが、その旅路を見守りたい。
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山下 達也(やました・たつや)
ITライター
1975年東京都生まれ。AIやVRなどの最新のITや、PC、スマートフォン、デジタルカメラ、AV機器など、幅広くデジタル機器を愛好。一般誌から専門誌、企業オウンドメディアまで幅広く解説記事を執筆する。
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(ITライター 山下 達也)
