庶民が一緒に暮らせたヒーロー オースチン・ミニ・クーパー / フォード・エスコート 1300GT(1) 2台が与えたささやかな興奮
平均的な労働者が一緒に暮らせたヒーロー
1960年代末、英国の街角はラリー・イベントのサービスパークのようだった、というのは大げさかもしれない。だが、オリジナルのミニ・クーパーが甲高い唸りで角を曲がったかと思えば、初代フォード・エスコートは吸排気音を響かせて通りを駆け抜けた。
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シェルビー・マスタングや三菱ランサー・エボリューションも、遥かに高価なマシンを凌駕した庶民のヒーローと呼べる。しかし、簡単に手が届く価格だったわけではない。

手前からオースチン・ミニ・クーパー MkIIと、フォード・エスコート MkI 1300GT マックス・エドレストン(Max Edleston)
ところが今回の2台、オースチン・ミニ・クーパー MkIIとフォード・エスコート1300 GTは、普通のクルマ好きが現実的な予算で買うことができた。平均的な労働者へささやかな興奮を与えた、一緒に暮らせるヒーロー的存在といえた。
能力を高めたレシピは、2台とも似ている。ラインナップ最大級のエンジンをボンネットに押し込み、相応にシャシーへ手を加え、ボディにもスパイスが効かされた。先行したのは、オースチンを擁するBMCの方だったが。
通常のミニより約2割高いだけだったクーパー
オリジナルのミニ MkIへ、専用エンジンのクーパーが加わったのは1961年。ツインキャブレターを載せた、ロングストロークの997cc Aシリーズ・ユニットが与えられ、最高出力は55psが主張された。インテリアは差別化され、ブレーキは前がディスクだった。
1967年にMkIIへアップデートされると、上級モデルのウーズレー・ホーネットなどを前提に開発された、スクエア型の998cc Aシリーズ・ユニットへ変更。最高出力は同じ55psでも、滑らかに回り、より低い回転数から発揮された。

オースチン・ミニ・クーパー MkII(1967~1969年/英国仕様) マックス・エドレストン(Max Edleston)
他モデルとのエンジン共有でコストダウンされ、通常のミニより2割ちょっと高い価格での販売が可能となった。実用性はそのまま、パートナーへ後ろめたさを感じることなく、「クーパー」を注文できたといえる。
他方、高回転型の1275ccエンジンを搭載した、さらに特別なミニ・クーパーSも登場。こちらのお値段は通常の2倍と憧れの対象だったが、オースチンのステーションワゴン、A60 カントリーマンと同等ではあった。
レジェンドとなった専用エンジンのツインカム
フォードが、BMCと似たアイデアへ着手したのは、1960年代後半。他社が先行する展開を見極めつつ、綿密に練ったモデルを市場へ投入するという「2番手」的な戦略が、常套手段となっていた。
1967年にリリースされたフォード・エスコート Mk1は、当初から多様なトリムグレードが設定された。その中で、クーパー Sのような訴求力を放ったのが、エスコート・ツインカム。後にラリーで大成功を収め、レジェンドとなった。

フォード・エスコート MkI 1300GT(1967~1971年/英国仕様) マックス・エドレストン(Max Edleston)
これには専用エンジンが与えられ、お値段はベースグレードの約2倍。数年後に後継仕様として投入されるエスコート RSと同様に、生産工場まで異なった。
割高感は殆どなかったエスコート 1300GT
他方、通常のミニ・クーパーに並ぶ存在といえたのが、エスコート 1300GT。標準のエンジンは1.1Lだったが、1.3Lで価格は25%高いだけだった。装備が充実していたため、むしろ割高感は殆どなかったといえる。
エンジンは、エスコート・スーパー用のオプション、1298ccユニットがベース。ハイカムシャフトとツインチョーク・ウェーバーキャブレター、4分岐の排気マニフォールドが与えられ、最高出力は65psに達した。

フォード・エスコート MkI 1300GT(1967~1971年/英国仕様) マックス・エドレストン(Max Edleston)
今回ご登場願った1970年式では、エンジン自体も改良され73psへ向上。幅4.5Jのスチールホイールとフロントのディスクブレーキ、ラジアルタイヤが標準で組まれている。
1960年代後半らしいスポーティな雰囲気
ドアを開いて車内へ収まると、1960年代後半らしいスポーティな雰囲気がうれしい。エスコート・ツインカムと同じダッシュボードは、6連メーターが誇らしい。内装トリムは当初シルバーだったが、改良でフェイクウッドへ変更されている。
メーターリングのクロームが鈍く輝くが、それ以外はブラック。今でも本気度の高い、機能的なコクピットに映る。半世紀前は、一層シリアスに思えたはず。四角いヘッドライトから続くフェンダーの峰が、フロントガラス越しに見える。

フォード・エスコート MkI 1300GT(1967~1971年/英国仕様) マックス・エドレストン(Max Edleston)
シートを包むビニールレザーには、細かなパンチング加工が施され、汗ばむのを多少は防いでくれる。人間工学にうるさいフォードだが、リムを握る手がダッシュボードに触れがちなため、ステアリングホイールはオーナーの好みで交換されている。
シフトレバーは滑らかに倒せ、曖昧にグラつくことはない。ペダル配置も望ましく、直感的に傾けられ、ステアリングも重すぎない。新車時、ディーラーからの短時間の試乗でも、多くの人が納得できたはず。
この続きは、オースチン・ミニ・クーパー / フォード・エスコート 1300GT(2)にて。

