(※画像はイメージです/PIXTA)

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遺産分割が完了したあとに、亡き親の「隠し子」が発覚した場合、すでに終わった相続はどうなるのでしょうか。裁判を経て死後認知された子どもは、他の相続人に対して自分の取り分を金銭で支払うよう求める権利があります。本記事では、5年前に実家を相続した54歳長男の事例をもとに、突然現れた「隠し子」から現金を請求され、実家を手放す危機に追い込まれたケースとその注意点について、弁護士法人山村法律事務所の代表弁護士・山村暢彦氏が解説します。

実家と2,000万円を相続した54歳長男。平穏な日々に届いた「一通の内容証明」

都内のメーカーに勤めるヨシヒコさん(仮名・54歳)は、妻と大学生の子どもと平穏な日々を送っていました。5年前に父親を見送った際、一人息子だったヨシヒコさんは、都内の一等地にある実家と預貯金2,000万円を相続し、家族で実家に移り住んでいました。

ヨシヒコさんの実家は、先代から続く地主の家系です。父親が遺した土地は都心の駅前という好立地にあり、当時の評価額でも約8,000万円に上る資産価値の高いものでした。

相続手続きも無事に終わり、父親の七回忌を来年に控えていたある日のこと。ヨシヒコさんの自宅に、見知らぬ法律事務所から一通の封筒が届きました。

不思議に思いながら内容証明郵便を開いたヨシヒコさんは、そこに書かれていた文面に目を疑いました。なんと、父親がかつて交際していた女性との間に、30代になる子どもがいるというのです。

封筒の差出人は、その「父親の隠し子」にあたる女性の代理人弁護士でした。

遺産分割のやり直しは不可でも…死後認知された子が持つ「恐ろしい権利」

通知書には、その女性が父親の死後に「死後認知」の訴えを起こし、鑑定などの結果、法律上の親子関係が認められたと記されていました。

「親父に隠し子がいたなんて……」

ヨシヒコさんは動揺しました。しかし、本当に恐ろしかったのはそのあとに続く要求です。

すでに遺産分割が終わっている場合、あとから認知された子どもは、遺産そのものの再分割を求めることはできません。その代わり、自分の法定相続分に相当する金額を支払うよう、他の相続人に請求する権利(価額支払請求権)が法律で認められています。

女性側は、自分にも2分の1の相続権があるとして、ヨシヒコさんに対して金銭の支払いを求めてきたのです。

「8,500万円払え」…実家売却を迫られる理不尽な現実

さらにヨシヒコさんを絶望させたのは、請求された金額の大きさでした。

遺産分割時の実家の評価額は8,000万円でしたが、この数年で周辺の再開発が進み、土地の価格が急激に高騰。現在の時価は約1億5,000万円に跳ね上がっていました。価額支払請求において基準となるのは、「相続開始時」ではなく「現在(請求時)」の時価です。

預貯金2,000万円と現在の実家の価値1億5,000万円を合わせた1億7,000万円の半分として、相手側はヨシヒコさんに「8,500万円」の支払いを要求してきたのです。

「8,500万円なんて、いくらなんでも払えるわけない……」

ヨシヒコさんの手元にある現金は、父親が残した預貯金と自身の貯えを合わせても3,000万円に満ちません。相手側の要求に応じるためには、家族で暮らしている実家を売却し、現金化するしか道は残されていませんでした。

父親の過去の裏切りが突然露見しただけでなく、高騰した地価が牙をむき、現在の穏やかな生活まで奪われようとしています。ヨシヒコさんは今、愛着のある家を手放さざるを得ない理不尽な現実に直面しています。

果たして、遺産分割から数年も経ってからのこのような高額な請求は、法的に有効なのでしょうか。

弁護士が解説】相続後に認知された子が持つ「価額支払請求権」

本件のように、相続開始後の裁判によって認知された子も、法律上は被相続人の子として相続権を取得します。ただし、すでに他の相続人による遺産分割や処分が終わっている場合には、その手続きをすべてやり直すのではなく、民法910条により、自分の相続分に相当する「価額」の支払いを請求することになります。

第910条(相続の開始後に認知された者の価額の支払請求権)
相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人がすでにその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する。

特に注意が必要なのが、不動産の評価時点です。最高裁は、価額支払請求における遺産の評価について、遺産分割時ではなく、価額の支払いを請求した時点を基準としています。そのため、相続後に土地価格が大きく上昇していれば、想定以上の高額請求につながることがあります。

これはあとから認知された子の相続権を保護する制度ですが、相続手続きを終えて生活も落ち着いた数年後に、突然数千万円規模の支払いを求められることは、残された家族にとって金銭的にも精神的にも大きな負担です。

婚外子の存在などは伝えにくい事情ではありますが、死後に突然発覚すれば、自宅売却や相続人間の紛争にも発展しかねません。

本件のような「不測の支払い」を避けるためにも、生前に身辺関係と財産承継を整理しておくことが重要だといえるでしょう。

山村 暢彦
弁護士法人山村法律事務所
代表弁護士