「太陽がひとつ」は宇宙では普通ではない…地球の常識は宇宙の非常識だった
もし未知の異星人から「あなたはどこから来ましたか?」と問われたら、どう答えますか?
「地球から」という回答は、宇宙規模の社交場では失笑を買ってしまうかもしれません。実は私たち地球人は、ある決定的な理由により、宇宙の平均レベルよりも科学の発達が遅れている可能性があるのです。
ファーストコンタクトの日に恥をかかないために必要なのは、地球の狭い常識ではなく、宇宙のどこへ行っても通用する「普遍的な教養」と「宇宙的思考法」です。
多種多様な異星人が行き交う宇宙ステーションで繰り広げられる、知的で刺激的な問いの数々。宇宙で真に求められる「本当の科学知識」とは一体どのようなものなのか、その知的な冒険の一端をぜひ覗いてみてください。
※本記事は、講談社『宇宙人と出会う前に読む本 全宇宙で共通の教養を身につけよう』(高水 裕一)の内容を抜粋・再編集したものです。
あなたたちの太陽はいくつですか?
「それはいい人に会えて、ラッキーでしたね」
ここは惑星際宇宙ステーションのゲストルームにある地球ブース。ペガスス座からの来訪者と友人になるまでのあなたの「冒険談」を聞いて、ポーキング博士は目を見開きました。わずか3歳で量子重力理論についての画期的なアイデアを発表して、「ベビーカーに乗った天才」とうたわれたポーキング博士は、それから10年後の現在までに、理論物理学者として「ノーベル賞3回分」ともいわれる功績をあげています。
「しかし電子配置図を文字として使うという発想はなかったなあ。宇宙人としてのキャリアの差を感じてしまいますね。私もお会いしてみたい」
いやいや、地球人としてのキャリアもそんなにないでしょ、とツッコミを入れたくもなりますが、きちんと三つ揃いのスーツを着込んだ博士は老成した雰囲気さえ漂わせています。あなたは恐縮しながら言いました。
「すみません、うっかりしていて名前も聞きそびれまして……」
「しかたありませんよ。ご縁があれば、また会えるでしょう。ところで」
博士はそう言って、澄んだ瞳をあなたに向けてきました。
「きょう、午後から私は惑星際シンポジウムで講演をすることになっているのですが、よかったらあなたもいらっしゃいませんか。もしかしたら、その人も来るかもしれませんよ」
奇妙なカレンダー
シンポジウムに参加することを博士に約束したあなたは、それまでどう過ごそうか、考えをめぐらせました。ステーション滞在中に一度は行きたいところは、お土産を売っているショップです。なにしろ家族や職場の仲間や友人からだけでなく、ふだんは没交渉の知人からもお土産を頼まれていて、それを考えると憂鬱になるほどです。よし、この時間にすませてしまおう。あなたはステーション最大のショップを地図で探して、行ってみることにしました。最初にカフェに入ったときに比べると、われながらずいぶん度胸がついたものだと思います。
そのショップは、日本の家電と洋服とインテリア雑貨の大型量販店を足し合わせて3倍にしたほどの規模がありました。喧噪ぶりはカフェの比ではなく、いったい何に使うのか見当もつかない商品に、さまざまな姿かたちの人々が群がっています。これじゃ何を選んでいいか、わからないな……と思ったとき、あなたはひらめきました。そうだ、カレンダーにしよう。いっぺんにたくさん買えて、さほどかさばらず、そこそこ見栄えがする、カレンダーがいい!
館内案内図は複雑きわまりないので、店員に何度も翻訳機で尋ねながら、あなたはようやく、カレンダー売り場にたどりつきました。ここもかなりの品揃えです。さて、どれにしようかと手に取って、めくってみたりしているうちにあなたは、どうもいろいろと、おかしなカレンダーが多いことに気づきました。とくに目につくのは、日付を表す数字(らしき文字)が、月の半分だけ、2つダブって書かれているものです。見ていると目がちかちかして、頭もくらくらしてきます。
「すいません」と、あなたは勇気を出して、店員に声をかけました。
振り向いたのは、『スター・ウォーズ』のヨーダのような顔の、いかにも偏屈そうな人でした。
「どうしてこちらのカレンダーは、こんなに変わっているものが多いんですか」
店員はじろじろとあなたを見て、こう答えました。
「うちのカレンダーが変だとでも?」
「はい、できれば普通に使えるカレンダーがほしいのですが」
「では、あなたがお使いのカレンダーを見せていただけますか」
バッグから手帳を取り出してカレンダーを見せると、店員はしばらく眺めてから、ふん、と鼻を鳴らしてこう言ったのです。
「このカレンダーが普通だと思っているあなたのほうが、よっぽど変ですね」
温厚なあなたもさすがに頭にきて、思わず言い返しました。
「それは失礼でしょう?」
すると店員は、薄笑いを浮かべながらこう聞いてきました。
「では聞きますが、あなたたちの惑星には太陽はいくつありますか?」
星の半分以上は「連星」である
地球人全体ではどうかはわかりませんが、少なくとも日本人には、「太陽が1つ」であることは普通だと思っている人が多いように私は感じています。普通とは、少なくとも50%以上の確率があることだとすれば、ある惑星が回っている恒星、つまりその惑星にとっての「太陽」が1個であることは、まったく普通ではありません。すべての恒星の少なくとも半数以上は、「連星」と呼ばれる、2個の星の組み合わせで存在しているのです。みなさんが夜空を見上げたときには1個の粒にしか見えない星は、じつは半分以上が連星ということです。
連星とは、基本的には、2つの星がお互いの「重心」を回っているものです。ペアでダンスをしているような状態、と言うと優雅なイメージですが、生涯ステップをやめられないダンスというのは無限の苦しみかもしれません。「基本的に」と言ったのは、連星には3つからなる三重連星や、それ以上の場合もあるからです。三重連星の場合は、3つが同じように回りあうということにはならず、2つの星のペアの周囲をもう1つの星が回ったり、2つの星のペアがもう1つの星の周囲を回ったり、ということになります。これは有名な「三体問題」にも関係していて、3つのものが連動すると安定せず、1つが弾き飛ばされたりするためです。
2つの星のペアどうしが回りあうと四重連星、さらにその周囲をもう1つの星が回っていれば、五重連星です。では、いったい何重連星まであるのかといえば、2021年現在、地球からさそり座方向に約500光年離れたところにある、さそり座ν星が、七重連星(!)であることがわかっていて、これが地球人の知るかぎり、いまのところ最高記録です。
有名どころではどんな連星があるか、例を挙げてみましょう。たとえばシリウスは、星のスペクトル分類では最も標準的なA型の代表的な1等星ですが、2つの星からなる連星です。それから、驚かれるかもしれませんが、北極星も連星です。北極星は約2万5000年ごとに代替わりしますが、現在の北極星であるポラリスは、なんと三重連星なのです。また、しし座の胸あたりに輝く1等星レグルスは、四重連星です。
スペクトル分類でOB型の星は、8割が連星であるといわれています。もしもOB型星を太陽にもつ宇宙人がいたら、地球人などは「えっ、太陽が1個だけ?」と引かれてしまうでしょう。太陽が1個しかないのは、宇宙では特殊な環境なのです。
ブルーバックスを愛読しているあなたは、その程度の知識はもっていました。ヨーダ似の店員に太陽の数を聞かれて、彼が何を言いたいのかもわかりました。カレンダーの多くは太陽の動きにもとづいています。奇妙なカレンダーは、太陽が連星であることに関係しているのでしょう。そう思うと、失礼なのは自分のほうだったと気づきました。あなたはこう答えました。
「私は太陽が1つしかない惑星から来ました。こちらのカレンダーを買いたいと思います。帰ったらみんなに説明したいので、なぜこういう日付になっているのかを教えていただけませんか」
ヨーダ似の店員はニッと笑うと、あなたに椅子をすすめ、話を始めました。
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