「後ろ足を引きずる子猫を拾った」医師からは「脚の切断」も示唆され…それでも私が「飼う」と決めた理由
2026年6月の下旬、車の前によろよろと出てきた、下半身不随の子猫。後ろ脚をひきずり、細い前足だけでずりずりと這いずる姿はあまりに無残だった。
保護犬猫の連載記事などを担当し、自身もこれまでに4匹の外猫を保護し、3匹の保護猫(うち1匹は保護された野良猫が生んだ子)を飼育中。また昨年から今年にかけては、8匹の野良猫のTNR(飼い主のいない外猫を捕まえて、不妊去勢手術をし、元の場所へリリースする活動)も経験したFRaU web編集兼現代ビジネスのライターが、障害を持つ子猫と出会ってから家に迎え入れるまでをお伝えする。
後ろ脚を引きずる子猫が国道に……
6月下旬の小雨が降る夕方、千葉県内の交通量の多い国道で信号待ちをしていた時のこと。車の運転席に座る夫が「あ、猫!」。
目に入ったのは、小さな猫だった。
まだ手のひらに乗るほどの子猫。後ろ脚を引きずりながら、停車していた前の車の下へ潜り込んでいった。
信号が変わった。
前の車がそろそろと動き出す。その瞬間、子猫が私の目の前に縮こまっているのが見えた。このままでは轢かれてしまう。
隣の車に合図をして止まってもらい、子猫が逃げないよう、車と平行になるように身体を横向きにして、そろそろと近づいた。
手を伸ばすと、思っていたより、あっさり捕まった。
動物病院に電話を入れ、そのまま車で連れていった。
事情を聞いた獣医師は、まず交通事故を疑い、すぐにレントゲンを撮った。ところが、目立った外傷はなく、骨折も見つからない。
それなのに、子猫は力の入らない下半身を重そうに引きずりながら、必死に逃げようとする。尻尾も動かない。
先生は、少し厳しい表情で言った。
「詳細はMRIを撮ってみないとわからないけど、神経がいってないかもしれない。尻尾も動いてないでしょ。まだはっきりしたことはわからないけど、このままの可能性は高い。トイレが自分でできるかどうか……」。
「なかったこと」にはできない
「トイレが自分でできるかどうか」。
その言葉が、重く響いた。
これまで、FRaU webで動物支援団体「ワタシニデキルコト(ワタデキ)」の坂上知枝さんの保護犬猫のレスキュー活動記事を数年にわたって担当してきた。時には愛護センターに一緒に行ったり、山口県から野犬の子の「預かりさん」をしたりしながら、生まれたての子猫や疾患や障害のある犬猫を世話することが、どれほど大変なのかを聞いていた。
もし自力で排泄できなければ、24時間つきっきりの介護が必要になることもある。
体も小さい。もしかしたら、まだミルクを数時間おきに飲ませなければならないのだろうか。
いろいろなことが頭をよぎった。
でも、今さら「なかったこと」にはできない。
会計をしている間も、子猫はかぼそい声で鳴き続けていた。
病院のスタッフに名前を聞かれ、とっさに答えた。
「ハウルにします」
ハウルの脚が少しでもよくなって、自由に行きたい所に行けるように。
ノミ・ダニの駆虫処置をしたので、その日は身体を洗うことができない。水たまりの道路を這いずり回っていたハウルは汚かった。先住猫もいるため、一緒にするわけにもいかない。
夫と協力して、以前ワタデキから野犬の子を預かった時に購入したケージを組み立て、トイレシートを敷き詰め、ごはんと水を用意した。
心配なことはいくらでもあった。
血液検査もできないほど衰弱しているが、このままで大丈夫なのか。
トイレは自分でできるのか。
目ヤニは拭いても拭いても出てくる。ワクチンも、体調が戻るまでは打てないと言われた。
ただ、獣医師から「たぶん生後2カ月くらいなので、フードで大丈夫だと思う」と聞き、少しだけほっとした。まだ未体験の、しかも技が必要とされる「ミルク飲み」の必要はないらしい。
人にも慣れているようだった。試しにドライフードをそのまま置いてみると--。目の前で、がつがつ食べ始めた。
よかった。食べられる。
ひとまず安心して部屋を暗くし、1時間ほどしてから様子を見に行った。
「ミルク飲み」という、子猫にミルクをあげるボランティアもあるが、手を挙げるには自治体の講習を受ける必要がある。不器用な私が訓練も受けずに、できるのか大いに不安だった。
すると、もう一つの心配も、あっさりクリアした。小さなうんちが、ちゃんと出ていたのだ。
「ディナー代わりの誕生日プレゼント」
ドライフードが食べられる。
自分で排泄できる。
下半身は動かなくても、自分で移動できている。
ワタデキの坂上さんのこれまでの話を思い返せば、ハウルはだいぶ恵まれていると思えた。
先住猫が入ってこないよう、ドアを閉めた。
翌朝、気になって早朝に目が覚め、様子を見に行くと、私を見るなり鳴いて餌をねだる。
箱で作った小さな簡易トイレで、うんちも、おしっこもちゃんとしている。道路を這いずり回ったためか、擦過傷のひどく、毛も皮膚もずる剥けになった後ろ脚はおしっこで黄色く染まっていた。下半身を起こせないからだ。
それでも、私を見上げ、しつこく餌をねだるハウルのたくましさに、もう、飼うしかないと、思った。
ハウルを拾った日は、たまたま私の誕生日だった。夫と誕生日ディナーに出かける途中だったのだ。
行き先は動物病院に変わったが、トイレが自力でできたことも、ドライフードが食べられることも、「ディナー代わりの誕生日プレゼント」だったのかもしれない。
もちろん、まだ問題は残っている。
いちばん大きいのは、後ろ脚をどうするか、ということ。体は1日経って、ノミ・ダニ駆虫の効果が生き渡ったところでお風呂に入れてきれいに洗ったが、下半身を起こせないため、おしっこのたびに後ろ脚が汚れる。
獣医師からは「両脚が床ずれ状態で雑菌が怖いので、おしっこがついたら、優しく洗ってあげてください」と言われ、トイレのたびに洗面所で体を洗う。体重は750グラムで、まだ片手で抱えられるほど小さいため、労力はたいしたことではないのだが、大きくなったらどうしたらいいのか。
引きずっている下半身全体が床ずれになったら……。そんなことを考えながらの、1週間が経った。
ハウルは、とにかく食欲旺盛だった。人懐っこく、子猫らしい好奇心も旺盛だ。ぶらんと伸びた後ろ脚を引きずりながら、それでも家じゅうを這いずり回る。
人恋しさは、人間だけでなく、先住猫の5歳の雌猫「むぎ」にも見せた。
これまで何度も、犬や猫を一時保護してきたが、決して慣れようとしないむぎは、ハウルのいた部屋の様子は見に来ても、近づこうとはしない。
体をきれいに洗い、ワクチンを打ったハウルをケージから出しても、つねに距離をとり、ハウルが近づこうとすると、手加減しながらも猫パンチしようとする。それでもハウルが近づけば、ピアノや棚の上に素早く逃げる。
普通なら、これで懲りそうなものなのに。けれどもハウルは叱られても、距離を置かれても、むぎが少し気を抜いた隙に、またそばへ行く。脅かされても、高いところに逃げられても、それでもむぎのそばに寄ろうとする姿に、もしかするとハウルは、むぎに母猫を求めているのではないかと思えてきた。
「子猫には可能性があるから、諦めないで」
そんなことを「ワタデキ」の坂上さんに言うと、こんな話を聞いた。
兄弟猫が複数いる場合、障がいがあったり、身体が弱かったりする子猫は、他の子を安全な場に移動する際に、母猫に置き去りにされることがある。
さらに今年は、保護活動をしている人たちの間で「子猫祭り」と呼ばれるほど、子猫が多いという。
「子猫祭り」。
一見すると、なんとも明るい呼び方だが、猫にとっては、むしろ受難の年だろう。
ハウルは他の兄弟たちの安全のために、見捨てられたのか。それとも、障がいのために付いていけず、母猫とはぐれてしまったのか。ハウルがどうしてあの雨の国道にいたのか、本当のことはわからない。
ただ、執拗にむぎを求め、また家族の誰に対しても、胸元に抱っこされると小さな腕をのばし、安心したように目を瞑るハウルは、母猫のぬくもりを恋しがっているように見えた。
坂上さんからは、こんなアドバイスももらっていた。
「子猫には可能性があるから、諦めないで。
足のマッサージを、ひんぱんにしてあげて」
仕事の合間を見つけて、ハウルの後ろ脚をマッサージした。また、神経系に強いと言われる病院も紹介してもらい、診てもらった。
下半身を相変わらず重石のようにぶら下げて這いずり回るハウルの姿に、脚や尻尾を切る可能性を考えた。
やっと直ってきた後ろ脚の擦過傷、床ずれになる前に切ったほうがいいのか。2本の脚は単なるお荷物なのか。このままでは世話をする側だけでなく、ハウル自身も大変なのか。
動物は意思表示ができない。
ただ一つだけ確かなのは、ハウルは生きる喜びに満ち溢れていた。障害はあってもどこにでもついてきて、大きな鳴き声で餌をねだり、脚を引きずりながらも遊ぼうとさえする。そんなハウルは可愛らしさに溢れ、一緒に暮らせることは、喜びだった。
下半身不随をもろともせず、2本の脚をひきずりながら遊ぼうとするハウル。
自力排泄ができ、ミルク飲みの時期は過ぎていたことは確かにありがたい。けれどもハウルの存在自体が、バースデイプレゼントだったのかも。そう思うようになった頃、ミラクルのような出来事が起きた。
脚や尻尾の切断の可能性も示唆されていた子猫のハウルに、何が起きたのか。筆者の家で起きたミラクルな出来事とは。
後編「下半身不随で医師から脚の切断も示唆され…それでも諦めなかった子猫に起きた奇跡」で詳しくお伝えする。
後編「下半身不随で医師から脚の切断も示唆され…それでも諦めなかった子猫に起きた奇跡」を読む。
