現代社会を覆う「不機嫌と意地悪」のパンデミック
「とてもいい本ができたので、とにかくたくさんの人に読んでほしい」という担当編集からの要望を受け、9月29日に発売するアナウンサー・吉田尚記さんの新刊『ご機嫌の技術 人生を上達させるウェルビーイングと推し活』から、「はじめに」と「第一章 不機嫌のパンデミック」をすべて先行で公開します!
ニッポン放送のアナウンサーとして27年、言葉の最前線で戦い続けてきた吉田尚記さんが、50歳で「社会的安定」という看板を脱ぎ捨て挑んだのは人生最大の人体実験だった--。そして辿り着いた「誰といても、一人でいても、ご機嫌でいられる」ための方法論とは?
9月11日(金)より、毎週火・金に更新予定(全6回)。書籍は、全国の書店・オンラインストアでご予約いただけます。ぜひお買い求めください。
はじめに
22歳のときTSUTAYAで立ち尽くした私が、
50歳でニッポン放送を辞めた理由
あの日、私はTSUTAYAのビデオ棚の前で、ただ立ち尽くしていました。今から28年前、大学4年生のときの話です。
客観的に見れば、私は羨ましがられてもよさそうな状況でした。就職超氷河期ではありましたが、何の実績もないのにうっかりアナウンサーの入社試験を突破して内定をもらっておりました。まぁマジメはマジメだったので、単位もすべて取り終えて、あとは週に一度ゼミに行くだけで卒業もほぼできるだろうという状態。
誰もが羨むような「圧倒的な自由」が目の前に広がっていたのです。
ところが、当時の私は、人生で一番「不安」と「不機嫌」のどん底にいました。TSUTAYAに入店したのはお昼前。それから時計の針は12時を回り、夕方になり、気づけば外は真っ暗--。なんと6時間もの間、私は1本のビデオも選べずにいたのです。
なぜか。アナウンサーになる、ということは確定しているのに、それに伴う実力が全くない。というか、「そもそもアナウンサーとしての実力って何だろう」ということもわからない。
多分、人生経験がそういうことの基盤になるはず。ではそのためになる正解を選びたい。でも、それは何……!? と、答えが出るはずもないのに、「将来のためになる『正解』を選び取らなければならない」という強迫観念に脳を完全にハックされていたからです。
「この映画を観れば教養が深まるだろうか?」
「アナウンサーとしての血肉になるのはどっちだ?」
自分を追い詰めれば追い詰めるほど、棚に並ぶビデオを通して、
「ふーん、そんなの見て、しかもその程度のことしか受け取れないんだ」
って私に言ってくる、これから足を踏み入れなければいけない制作現場のプロたちの目、「審査官」からの冷たい声が聞こえてくる。
結局、1本も借りられないまま店を出たときの、足の裏がじんわりと痛む感覚と、何一つ成し遂げられなかったのに、また一日をムダに過ごしてしまった……! という焦燥感は、今でも鮮明に覚えています。
この苦しさの正体こそが、現代社会最大の呪いである「ウェルドゥーイング(Well-doing:よく成すこと)」の暴走です。
私たちはいつの間にか、自分自身を、年収や能力、フォロワー数などで価値が決まる工業製品のように見てしまっています。 終わりのない検品ラインの上で、「何ができるか」「何点取れるか」という目に見えないスコアボードを気にしたくなくても気にせざるを得なくなっている。
そのとき、ただそこに生きているだけの自分--「ウェルビーイング(Wellbeing:よく在ること)」のことを、感じられなくなっています。だから、「結果」「数字」を出しているのに、イライラしている人、少なくないですよね。
その後、私はニッポン放送に入社してアナウンサーになり、27年間、会社員という「標準的な人生のチェックボックス」を一つずつ埋めていきました。その間、ずーっと目にし続けていたのは、現代社会を覆う「不機嫌と意地悪」のパンデミックでした。
2026年、私は27年間勤めた会社を退社しました。
50歳になり、挑んだのは、長く続いている会社という「評判のいいアプリ」をアンインストールして、裸の「OS(存在)」だけで生きてみるという、人生最大の人体実験です。
そして、 評判のいい看板(アプリ)を外した今、私は、不安や不機嫌どころか、ずーっとご機嫌に過ごさせてもらっています。
その私が確信を持って言えることがあります。
「ご機嫌」というのは生まれ持った才能ではなく、後天的に獲得できる「技術」であるということです。
料理や掃除が練習すればうまくなるように、ご機嫌になる方法も、うまくならないはずがない。人生は、いつからでも「上達」させることができます。他人と比較するスコアボードを横に置いて、世界の理を一つずつ「明らめる(明らかにする)」。上達したら、下手になることもまずありません。一度身につけてしまえば、不機嫌な時代を生き抜くための最強の武器になります。
本書は、私が27年かけて、時には「推し」の力を借り、時にはAIと対話しながら練り上げてきた、「人生を上達させるための技術」の集大成です。
難しいことは何もありません。ただ、今この瞬間から、自分という「天然物」を、工業製品のように扱うのを止めてみるだけです。
あの日、TSUTAYAで立ち尽くしていた私のように、真面目だからこそ、世間の価値観ですべてを見てしまいすぎているあなたへ。
よかったら、誰の許可も得ずに「ご機嫌」でいられる、人生を上達させる技術を、ご覧ください。
<次回は9月15日(火)17時配信予定です>
書誌情報

『ご機嫌の技術 人生を上達させるウェルビーイングと推し活』
著=吉田尚記
価格:1800円+税
仕様:四六判/192ページ
下記リンクからご予約いただけます!
Credit:
文=吉田尚記

