「今ならおかしいとわかる」のに...なぜ1週間も電話を切れなかったのか?5000万円を失った50代主婦を縛った”恐怖”の正体
「電話は切らないでください」
詐欺グループからそう告げられた50代の主婦・Aさんは、スマートフォンを充電器につないだまま、約1週間にわたって通話を続けた。
筆者がこの話を知ったのは、マネーリテラシーの講師・金盛潤一氏への取材中だった。
「今だったらわかるんですけどね…」
詐欺師に約5000万円を騙し取られたAさんは、被害を振り返ってそう話している。
Aさんは、詐欺グループから「電話を切ってはいけない」「誰にも言わないでください」と告げられ、スマートフォンを充電器につないだまま約1週間も通話を続けた。1週間の間に資産状況などを詐欺師に明かしてしまい、結果、多額のお金を騙し取られてしまった。
Aさんは独身ではなく、夫と2人で暮らしていた。不審な電話があったにもかかわらず、夫に相談することもなく、証券口座などの資産を現金化し、指定された先へ送金してしまったのだ。
彼女がお金を騙し取られるまでの流れの詳細については、前編『「電話を切らないでください」詐欺グループの指示に従い1週間通話を続けた50代主婦…資産のほぼすべてを失った「洗脳の手口」』を読んでほしい。
今回は、1週間もの間、通話を続けるという不自然な状況にいたAさんが、当時なぜ周りが見えなくなっていたのかを考えていきたい。
「犯罪者になるかもしれない」という恐怖
Aさんを縛っていたものの一つが、自分まで犯罪に巻き込まれるのではないか、という恐怖だったとみられる。
最初は、「スマホ代の支払いが遅れている」という電話だった。相手が告げてきたスマホの利用料金は、Aさんにとっても違和感を覚えるほど大きなものだった。最初から何の疑いもなく信じ込んでいたわけではない。それが警察などを名乗る人物へつながり、話を聞き続けているうちに、Aさん自身の責任が問われかねない展開へと変わっていった。
普段であれば、5000万円もの資産を動かす場面で真っ先に頭に浮かびそうなのは、「お金を失いたくない」という思いだろう。
ところが、自分が犯罪者として扱われるかもしれないと思い込めば、目の前の優先順位は変わる。「この状況から逃れなければ」という焦りが、資産を守ることより先に立っても不思議ではない。
Aさんは後に、自分が当時「マインドコントロールされていた」ような状態だったと振り返っている。詐欺被害をニュースで見ている側からすれば、「おかしいと気づくだろう」と思える。
当事者が置かれているのは、そのニュースを冷静に眺められる環境とは違う。次々と説明を聞かされ、考える時間を奪われ、恐怖を抱えたまま判断を迫られる。Aさんの場合、その状態が数時間ではなく、1週間に及んだ。
銀行や証券会社に相談しないほうがいいワケ
もう一つ見逃せないのが、Aさんが夫に相談しなかったことである。夫婦で暮らしているのだから、一言話せば済んだのではないか--。そう考える人もいるだろう。
詐欺グループは、Aさんに「誰にも言わないでください」と念を押していた。「警察に捕まって迷惑をかけたくない」という心理から相手の言葉に従ってしまった結果、自分以外の誰かに状況を確認してもらう機会もなくなった。
ひとりで考えている限り、判断材料になるのは電話口から与えられる情報ばかりだ。別の立場を名乗る人物まで次々と現れれば、作られた話の中だけで物事が完結していく。
Aさんのケースについて、彼女から今回の詐欺被害について直接聞き、これまで幅広い種類のお金の相談を受けてきたマネーリテラシーの講師・金盛潤一氏は、「相談できる相手」の存在が重要だと指摘する。
「こうした詐欺被害の話を聞いてきて、大事だと感じるのは、利害関係のない相談相手がいるかどうかです。資産を預けている銀行や証券会社の担当者のように、商品を勧める立場ではなく、利害関係のない人に話せるか否か。そこで『その振り込み、本当に必要ですか』と止めてもらえるだけでも、被害を防げる可能性は高まります」(金盛氏)
金融商品の知識が豊富でなくても、第三者だからこそ気づく違和感はある。「誰にも言うな」と言われたときほど、誰かに話す。Aさんのケースでは、その一手を挟めないまま話が進んでいった。彼女がもし、親しい誰かにこの話をしていたとしたら。きっと相談相手は「騙されている」「旦那に相談したほうがいい」と助言をしてくれたことだろう。
ダマされても“致命傷”を避ける方法
相手が警察や金融機関を名乗っていても、資産を売る、指定された口座へ送金する、といった話が出たら、その場では動かない。いったん電話を切り、自分から公式の窓口へ確認する。基本的なことだが、やはりこれがもっとも大切なのは言うまでもないだろう。
では、今回のケースでは、Aさんが詐欺だと見抜けず、そして誰にも相談ができなかった時点で、5000万円を失う結末は避けられなかったのだろうか。金盛氏は、詐欺を見抜く力と、資産を守る力を分けて考える。
「すべての話を白か黒か正確に判定するのは難しいケースもあるでしょう。そこで大事になるのが『資金管理』です。たとえ判断を間違えても、自分の資産の大部分を一度に動かさなければ、致命的な被害になる可能性は下げられます」(金盛氏)
巧妙な詐欺ほど、初見で見抜くのは難しい。警察や金融機関など信用されやすい存在を名乗られれば、一瞬迷う人はいるだろう。犯罪側の手口も変化していくため、「このパターンだけ覚えておけば安心」とも言い切れない。
そこで金盛氏が重視するのが、判断を誤った場合でも被害を限定する資金管理である。Aさんの場合、失った約5000万円は、自身が保有していた資産の大きな部分を占めていた。
仮に電話の内容を本物だと信じてしまったとしても、すべての資産を動かさない、もしくは「動かせない」ようにしておく。そうしていれば、結果は違った可能性がある。
「この指示は少しおかしい」と立ち止まれれば被害は防げるが、資産管理について自分なりのルールを定めておけば、さらなる予防に繋がる。こうした備えの有無が、Aさんが5000万円を守る分岐点だったのかもしれない。
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