子どもの口唇閉鎖不全は矯正で改善できる?原因と治療の進め方を解説
「子どもがいつも口をぽかんと開けている」と気になったことはありませんか。安静時に唇が閉じない状態は口唇閉鎖不全(こうしんへいさふぜん)と呼ばれ、お口の機能の発達と関わりがあると考えられています。
歯並びが気になって矯正歯科の相談を検討する保護者もいますが、学会は、まずお口の機能へのアプローチから始める考え方を示しています。
本記事では、子どもの口唇閉鎖不全について以下の点を中心に解説します。
口唇閉鎖不全と口腔機能発達不全症の関係や原因
放置した場合に考えられる影響と、歯科医院で行う検査
矯正歯科治療で対応できる範囲と、機能を育てる訓練の考え方
子どもの口唇閉鎖不全について理解を深めるためにも、参考にしていただければ幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
監修歯科医師:
小田 義仁(歯科医師)
院長 小田 義仁
岡山大学歯学部 卒業
広島大学歯学部歯科矯正学教室
歯科医院勤務をへて平成10年3月小田歯科・矯正歯科を開院
所属協会・資格
日本矯正歯科学会 認定医
日本顎関節学会
日本口蓋裂学会
安佐歯科医師会 学校保健部所属
広島大学歯学部歯科矯正学教室同門会 会員
岡山大学歯学部同窓会広島支部 副支部長
岡山大学全学同窓会(Alumni)広島支部幹事
アカシア歯科医会学術理事
口唇閉鎖不全とは

口唇閉鎖不全は、唇を閉じる力が十分に育っていない状態を指します。ここでは関連する疾患や原因、気付き方を解説します。
口唇閉鎖不全と口腔機能発達不全症の関係
口唇閉鎖不全は、口腔機能発達不全症(こうくうきのうはったつふぜんしょう)と深く関わっています。日本歯科医学会は、口腔機能発達不全症を、食べる機能や話す機能、そのほかの機能が十分に発達していないか、正常に機能獲得ができておらず、明らかな摂食機能障害の原因疾患がない状態と説明しています。
具体的な病状としては、咀嚼や嚥下がうまくできない、構音の異常、口呼吸などが挙げられています。本人に自覚症状がない場合も多い点が特徴です。
日本小児歯科学会も、お口の働き(食べる、話す、呼吸を助ける)が年齢相応に発達していない状態として説明し、口をぽかんと開けて口呼吸をしている、いびきをかくといった様子を例に挙げています。
口唇閉鎖不全は、この評価のなかで確認される所見の一つです。日本歯科医学会は、話す機能の評価として、視診で安静時の口唇閉鎖の有無を確認するよう示しています。
口唇閉鎖不全が起こる主な原因
口唇閉鎖不全の背景には、複数の要素が重なっている場合があります。まず挙げられるのが、唇や舌など口腔周囲筋の力が十分に育っていない状態です。やわらかい食べ物に偏った食生活が続くと、噛む回数が減り、口の周りの筋肉を使う機会が少なくなると考えられています。
鼻で呼吸しにくい状態も要因の一つです。日本歯科医学会は、口呼吸が頻繁にみられる場合は鼻の疾患を疑い、小児科や耳鼻科へ紹介するよう示しています。鼻で呼吸しづらい状態が続けば、口を開けて呼吸する習慣が定着しやすくなります。
歯並びや顎の形態が関わる場合もあります。前歯が前へ出ていると唇を閉じにくく、閉じようとすると力が必要な状態になります。
指しゃぶりや長時間の下唇を巻き込む癖など、口元の使い方の癖が関わる場合もあります。癖が続いている間は、唇を閉じる動きが習慣として定着しにくくなると考えられています。
姿勢や生活習慣の影響も指摘されています。日本歯科医学会は、唇を閉じる筋力だけを鍛えても意味はなく、安静時に唇が開いてしまうような不適切な姿勢や食生活、全身の発達状態まで含めて考える必要があると説明しています。
子どもの口唇閉鎖不全に気付くサイン
口唇閉鎖不全は、日常のちょっとした様子から気付ける場合があります。次のような点に心当たりがあれば、注意して観察してみましょう。
テレビを見ているときや集中しているときに口が開いている
食事のときにくちゃくちゃと音が出る
食べこぼしが多い、飲み込むまでに時間がかかる
寝ているときにいびきをかく、口が開いている
唇が乾燥しやすい、口の周りが荒れやすい
発音が不明瞭に感じられる
鹿児島大学の研究では、鹿児島県の3~5歳の未就学児444名を対象とした調査で、口唇閉鎖不全が疑われる小児は全体の30.7%にのぼり、年齢が上がるにつれて増加する傾向がみられたと報告されています。
同じ研究では、口唇閉鎖不全がみられる群の子どもに、鼻が低い、口元が突出している、顎が後方に下がっているなどの特徴があり、これらが3歳の時点ですでに現れていたと示されています。珍しい状態ではないからこそ、早めに気付く視点が役立ちます。保護者から見て気になる様子が続く場合は、成長とともに自然に整うと決めつけず、確認の機会をつくりましょう。
口唇閉鎖不全を放置するリスク

唇が閉じない状態が続くと、お口のなかや全身にさまざまな影響が及ぶ場合があります。ここでは主なリスクを解説します。
歯並びや噛み合わせへの影響
歯は、内側から舌が押す力と、外側から唇や頬が押さえる力のつり合いのなかで位置を保っています。唇を閉じる力が弱いと、外側から押さえる力が不足し、前歯が前へ傾きやすくなると考えられています。
日本矯正歯科学会は、上の前歯が強く前へ傾いている上顎前突では、口を楽に閉じられないと説明しています。唇が閉じにくい状態と歯並びの乱れは、互いに影響し合う関係にあります。
また、飲み込むときに舌で前歯を押す癖が残っていると、前歯が噛み合わない開咬につながる場合もあります。学会は、指しゃぶりや舌の悪い癖が開咬の原因になることがあると示しています。
成長期の子どもは顎骨が発育の途中にあるため、機能の偏りが形態に影響しやすい時期です。だからこそ、早い段階での気付きが意味を持ちます。
むし歯や歯茎の健康への影響
口が開いたままの状態が続くと、お口のなかが乾燥しやすくなります。唾液には汚れを洗い流す働きや、歯の再石灰化を助ける働きがあるとされ、乾燥によってこれらの働きが弱まると考えられています。
その結果、歯垢が残りやすくなり、むし歯のリスクが高まるおそれがあります。前歯の表面が乾燥した状態では、汚れが付いたままになりやすい点にも注意が必要です。
歯茎への影響も指摘されています。乾燥した状態が続くと歯茎に炎症が起こりやすくなり、腫れや出血につながる場合があります。
日本歯科医学会は、多数の歯にむし歯があるなど咀嚼機能に影響を及ぼす歯科疾患がある場合には、家庭環境などの環境因子も含めて検討するよう示しています。お口の状態と生活の様子は、切り離して考えにくい関係にあります。
発音や睡眠に関連する症状
唇や舌の使い方は、発音とも関わります。日本歯科医学会は、構音機能の発達は成長に伴い変化するため経過観察を行い、問題が長期化する場合や顕著になる場合に構音訓練を行うと示しています。
歯と歯の間から息が漏れる歯間化構音や、側音化構音、口蓋化構音などが認められた場合は、歯科的な対応法を検討して治療にあたるとされています。気になる発音があれば、歯科医師に伝えてみましょう。
睡眠に関わる症状もみられます。日本小児歯科学会は、口をぽかんと開けて口呼吸をしている、いびきをかくといった様子を、機能の発達を確認する際の着目点として挙げています。
口呼吸が続くと、のどが乾燥して感染を受けやすくなるとも考えられています。鼻で呼吸しにくい状態が背景にある場合は、耳鼻科での確認が必要になることもあります。
口唇閉鎖不全を調べる検査と診断の流れ

口唇閉鎖不全は、視診だけでなく数値で確認する方法があります。ここでは検査の内容と診断基準を解説します。
歯科医院で行う検査
日本歯科医学会は、口腔機能発達不全症を診断して評価する検査として、口唇閉鎖力検査、舌圧検査、咬合力測定検査、咀嚼回数測定検査などを挙げています。なかでも口唇閉鎖力検査と舌圧検査は、検査方法と結果の評価の両方に適切な指標があり、いずれも重要とされています。
口唇閉鎖力検査は、専用の測定器を使って唇を閉じる力を数値化する検査です。装着具を歯と唇の間に入れ、引き出されるまで本体を引っ張る方法が用いられ、10秒程度で数値が表示されるとされています。
測定した値は、年齢と性別に応じた標準値と比較して評価します。子どもは成長発育の個人差が大きいため、その時点の数値だけで判断するのではなく、身長や体重と同じように成長曲線のなかで見ていく考え方が示されています。
唇を閉じる力が十分に育っていない子どもには、必要に応じて3ヶ月に1回のペースで測定を行い、変化を追っていきます。
口腔機能発達不全症の診断基準
日本歯科医学会は、口腔機能発達不全症の診断基準を、チェックリストを用いた方法で示しています。機能に関する項目のうち、食べる機能と話す機能の項目で2つ以上の該当項目にチェックが付いた場合に、口腔機能発達不全症と診断するとされています。
離乳の完了前と完了後で、確認する項目の範囲が変わります。離乳完了前はC-1からC-9まで、離乳完了後はC-1からC-6までの項目を一つ含むことが条件として示されています。
口唇閉鎖力については、標準値より低い値(-1SD以下)を示し、安静時や摂食時に唇の閉鎖を認めない、あるいは口呼吸などの所見がある場合に、口唇閉鎖力が不足していると診断されます。
ただし学会は、検査の数値が正常範囲に達していないものがすべて異常ではないとも述べています。機能の獲得が遅れている状態を見極め、正しい成長に導くための評価基準と位置づけられています。
口唇閉鎖不全に対する矯正歯科治療の考え方

口唇閉鎖不全への対応では、機能と歯並びの区別が大切です。ここでは矯正歯科治療の位置づけと、相談の目安を解説します。
矯正歯科治療で改善できるケース
矯正歯科治療は、歯や顎骨に力をかけて歯を動かし、歯並びと噛み合わせを整える治療です。前歯が強く前へ傾いていて唇を閉じにくい場合など、歯の位置が唇の閉じにくさに関わっているケースでは、歯を動かすことで閉じやすくなる可能性があります。
ただし、日本小児歯科学会は、口腔機能発達不全症の治療と矯正治療は別のものだと明確に示しています。学会によると、口腔機能発達不全症の治療の目的は食べる機能や話す機能を向上させることであり、歯並びの改善を目的としたものではありません。
学会は、口腔機能が健全化することで歯並びの改善がみられることもあるが、それは治療の目的ではなく結果だと説明しています。トレーニングやむし歯の治療、舌小帯付着異常の手術は公的医療保険で受けられる一方、矯正装置による歯列矯正は含まれない点も示されています。
歯並びの治療を検討する場合は、この違いを理解したうえで判断しましょう。
口腔機能を育てる訓練が必要なケース
日本小児歯科学会は、食べ方や話し方が気になるときには、まず機能へのアプローチをすすめています。矯正治療の検討は、口腔機能発達不全に対する治療の効果をみてから行っても遅くはないという考え方です。
機能を育てる治療には、むし歯の治療や正しい食べ方の指導に加えて、口を閉じる力や口の周りの筋肉、舌を鍛える訓練が含まれます。矯正装置を使った治療は、機能を育てる治療には含まれません。
日本歯科医学会は、口唇閉鎖力の訓練について、標準値を越えるまで口唇トレーニングを行い、増強や維持が確認できたら終了すると示しています。その後も定期的に来院して測定を続け、力が弱まっていないかを確認します。
3ヶ月程度の訓練を行って再評価し、改善がみられない場合や、改善傾向はあっても目標に届かない場合は、さらに3ヶ月の訓練を続ける方法も示されています。
訓練は家庭での積み重ねが前提になるため、子どもが続けやすい形に整える工夫も欠かせません。歯みがきの後など決まった場面に組み込むと、習慣として定着しやすくなります。
歯科医院に相談する目安
安静時に口が開いている様子が続く、食事に時間がかかる、いびきをかくといった様子が続く場合は、歯科医院で相談してみましょう。自覚症状が乏しい状態のため、保護者の気付きが出発点になります。
学校や園の歯科健康診断で指摘を受けた場合も、相談の機会になります。歯科医院では、視診や口唇閉鎖力検査などを通じて、機能の発達状況が確認されます。
口呼吸が頻繁にみられる場合には、鼻の疾患が背景にある可能性を踏まえ、小児科や耳鼻科への紹介が行われることもあります。歯科だけで完結しない場合がある点も知っておくとよいでしょう。
日本小児歯科学会は、判断に迷う場合はセカンドオピニオンを求めるなどして十分な検討を行うようすすめています。急いで装置による治療を選ぶ前に、機能の状態を確認する姿勢が役立ちます。
まとめ

ここまで、子どもの口唇閉鎖不全についてお伝えしてきました。要点をまとめると以下のとおりです。
口唇閉鎖不全は口腔機能発達不全症の評価で確認される所見の一つで、筋力の未発達や鼻で呼吸しにくい状態、歯並びなどが背景にある
唇が閉じない状態が続くと歯並びや噛み合わせ、むし歯のリスク、発音や睡眠に影響が及ぶ場合がある
学会は口腔機能発達不全症の治療と矯正治療を別のものと位置づけ、まず機能へのアプローチをすすめている
子どもの口唇閉鎖不全は、見た目の問題ではなく、お口の働きが育つ過程の課題としてとらえられています。歯並びが気になる場合も、まずは機能の状態を確認することから始めると、進め方の見通しが立てやすくなります。気になる様子があれば、歯科医院へ相談してみてください。
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
参考文献
口腔機能発達不全症に関する基本的な考え方|日本歯科医学会
口腔機能発達不全の治療に関する重要なお知らせ~口腔機能を育てる治療と矯正治療との関係について~|日本小児歯科学会
子どもの口唇閉鎖不全(お口ぽかん)はなぜ問題なの?|鹿児島大学

