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9月19日に開幕するアジア大会愛知・名古屋の代表で、陸上女子中長距離界のエース田中希実(27、豊田自動織機)が、2週間を切ったアジア大会に向けて心境を語った。3種目(1500m、3000m、5000m)の日本記録を持ち、日本選手権では1500mで7連覇、5000mで4連覇(2022年~25年)を達成するなど長年第一線で戦ってきた田中だが、今季は“勝ち続けること”への苦悩があったと吐露した。

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アジア大会の代表は意外にも初めての田中。自身の状態について「自分の中では(アジア大会が)今シーズンの最後にも位置付けられている大会なので、そこにピークを持ってこられるようにっていう部分は考えて走ってきたかなと思います」と話した。

3種目で日本記録を持つ田中は、21年東京五輪女子1500m準決勝で3分59秒19をマーク、日本人女子初の4分切りで同種目初の決勝進出を果たし8位入賞を成し遂げた。今年6月に行われた日本選手権で同種目7連覇を達成。また、2種目(1500m、5000m)に出場した昨年の東京世界陸上では女子5000mで4大会連続の決勝進出(最終順位12位)を果たすなど、常に日本人女子中長距離の第一線で活躍してきた。

アジア大会では異例の3種目(1500m/5000m/10000m)に出場する予定で、注目度が高い田中だが、今シーズンは「勝ち続けたとしてもやっぱりいつかは負けるので・・・」と悩みを抱えながらレースに挑んでいた。

「連覇はなにか価値があることなのかもしれないんですけど、自分の中でただの数字でしかないように感じていて。何連覇っていうことを目標にしているわけでもないし、何連覇することによってすごいって思ってもらえることを目標にしているわけでもないし。本当に勝ち続けたい気持ちさえあれば、いくらしんどくても、悲壮感があってもやったと思うんですけど、自分の中でそんな死に物狂いでやる価値というか、目的意識が見出せなくなっていたかなっていうのはあって」

6月の日本選手権女子5000mに出場した田中は、史上初の5連覇がかかっていた。2位の山本有真(26、積水化学)と3秒の差をつけたままラスト1周に入り、そのまま田中が1着でゴール、かと思われたがラスト100mで山本に越され2位。田中は「決して手を抜いたわけでもない」と言うも、勝つことに嫌悪感を抱いていたという。

「フレッシュな気持ちで新しくシーズンを迎えられると思った時に、結構勝負事へのアレルギーというか、別に勝ちたいと思わないし、勝とうと思えない気持ちがあったので。練習とかで走ることは好きなんですけど、そういうピリピリしたり、バチバチしてる場にあまり入っていきたくないっていうような気持ちがすごく大きくて、その時点で自分は勝負の場にいるべきではないし休むべきなんだろうなって。それでもやっぱりシーズン始まってしまってたので、走るしかなくて、自分の中でそういう感情に振り回されること自体にちょっと疲れてたのかなっていうのは思います」。

父・健智コーチに見透かされた気持ち

それでも走ることを止めなかった。答えが出ないまま走り続けた理由に、「父が絶対にレースを放棄するっていうのを認めてくれなかった」と父・健智コーチの存在があったと話した。

「練習は継続しながらレースだけ封印するという手はあったと思うんですけど。でも多分父はその自分の勝負事から逃げるっていう精神的な弱さを見ていて。その気持ちがある限りはどんどん勝てない選手になっていって、勝てない選手になればどんどん競技を続けること自体が難しくなっていってっていうような、活動自体が尻すぼみになってしまうところを多分見透かしていて。色々父も理解もしつつも、苦しい厳しさっていうのは見せてたのかなっていうのはすごく思いました。父がそれだけ言うんだったら何かあるんだろうなっていうのもどこかであったりとか、でもその時は分からなかったりとかっていう、すごく色々あって、グダグダ言いながらずっと走ってるみたいな状態だったかなと思います」

走ることは好きでとにかく練習に明け暮れた。約1か月間欧州遠征としてイタリアに行き、その間高地トレーニングなども行った。「久しぶりに1か月間レースから離れて、練習に集中できたからか、久しぶりのレースの時は緊張しましたし、そのレースがうまくいかなかったらすごく悔しかったし腹が立ちました。そのエネルギーを爆発させるために、もっと強くなりたいっていう気持ちも戻ってきたので、それは自分としては喜ばしいことなのかなっていうのは思います」。田中は、調子を取り戻し始めた。

7月に行われた陸上の世界最高峰の大会、ダイヤモンドリーグ(DL)ロンドン大会では女子3000mに出場、8分32秒29をマークし自身が持つ日本記録を1秒23更新した。さらに、8月に行われたDLシレジア大会では女子5000mで、今季日本最高の14分58秒35を記録。

「勝てなかった時期は自分は勝てるんだってことを証明するために頑張ってたと思うんですけど、それが1回勝ってしまったら、何を証明すればいいか分からなくなった。でもそういった迷子になってる時期というか、わからないながらも、わからないからこそ無理やりにでも走ってきたっていう自分を誇りたい気持ちがあるので、今は走り続けてよかったんだよって自分に言える証明のために勝ちたいのかなっていうのは思います」

再び芽生えた勝ちへのこだわり「アジア大会では“勝ち癖”をつけたい」

田中が掲げる大きな目標は、27年の世界陸上北京に出場すること。19年ドーハ大会から出場する田中は、来年出場となれば、福士加代子さん以来日本人女子2人目の5大会連続出場となる。「勝ち癖はつけたいですし、その中で本当に喜べる自分っていうのを取り戻したいなっていうふうに思います」。目標達成に向け、アジア大会で成し遂げたいことについて述べた。

競技を続けていく上で自分の持ち味を問われると、「どんな種目でも全力で臨めることと、種目もやっぱり1500mから10000mまでっていう選手はあまりいないと思うんですけど、私自身も初めての挑戦で、そういったいつでも自分にとって未知の挑戦ができるっていうところ」と答えた。「自分の中で勝負事が元々そこまで好きになれない分、メダルを取りますみたいには言いにくいところはあるんですけど。でもやっぱりメダルを取れたら嬉しいとは思うので、そういった自分に出会えるように頑張りたいなと思ってます」と“勝ちにこだわる田中希実”も垣間見れた。

32年ぶりに日本で開催される今大会。「大会を通して、疲弊していく様子とか、今の時点ではどういう流れか予想できないんですけど、例えば10000mダメだったけど1500mでこんな走りをしてるぞとか、逆に10000m良かったけど1500mちょっと疲れたのかなとか、5000mは3種目目なのにこんなことしてるよとか、そういうトータルで物語みたいに楽しんでもらえることを期待したいです」と笑顔で呼びかけた。

◆田中希実(たなか・のぞみ
1999年9月4日生まれ 27歳
兵庫県小野市出身。元中・長距離の選手として活躍した父・健智(かつとし)さんと、北海道マラソンで二度の優勝経験を持つ母・千洋(ちひろ)さんのもとで生まれ育った田中は、幼少期から陸上のレースに触れる機会が多かった。2014年に中学生で兵庫県代表として全国都道府県対抗女子駅伝に出場し、8区の区間賞を受賞した。高校進学後、2015年国民体育大会(国体)で1500m(少年女子B部門)優勝、2017年同大会では3000m(少年女子A部門)で優勝するなどトラック種目でも頭角を表した。2021年東京五輪では女子1500mで日本勢女子初の決勝進出で8位入賞、日本人女子初の4分切りを達成した。24年パリ五輪には1500mと5000mで出場した。世界陸上には2019年ドーハ大会から4大会連続で出場、2023年ブダペスト大会女子5000mでは日本勢26年ぶりに決勝進出、8位入賞を成し遂げた。現在、1500m(3分59秒19)、3000m(8分32秒29)、5000m(14分29秒18)の日本記録を含むトラック・ロード種目合わせて12個の日本記録を保持している。