歯列矯正で噛み癖は改善できる?癖が歯並びに与える影響を解説

「いつも同じ側でばかり噛んでいる気がする」と感じたことはありませんか。噛み癖は日常の何気ない習慣として続きやすく、自身では気付きにくい特徴があります。噛み方の偏りが長く続くと、歯や顎に負担が偏り、歯並びや噛み合わせに影響が及ぶこともあると考えられています。

本記事では、歯列矯正と噛み癖の関係について以下の点を中心に解説します。

噛み癖としてみられる習慣と気付き方

噛み癖が歯並びや顎関節に与える影響

歯列矯正で対応できる範囲と、あわせて行いたい習慣の見直し

歯列矯正と噛み癖について理解を深めるためにも、参考にしていただければ幸いです。
ぜひ最後までお読みください。

監修歯科医師:
小田 義仁(歯科医師)

小田歯科・矯正歯科
院長 小田 義仁
岡山大学歯学部 卒業
広島大学歯学部歯科矯正学教室
歯科医院勤務をへて平成10年3月小田歯科・矯正歯科を開院
所属協会・資格
日本矯正歯科学会 認定医
日本顎関節学会
日本口蓋裂学会
安佐歯科医師会 学校保健部所属
広島大学歯学部歯科矯正学教室同門会 会員
岡山大学歯学部同窓会広島支部 副支部長
岡山大学全学同窓会(Alumni)広島支部幹事
アカシア歯科医会学術理事

噛み癖とは


噛み癖とは、噛み方や口元の使い方の偏りが習慣になった状態を指します。ここでは主な習慣と原因、気付き方を解説します。

噛み癖としてみられる主な習慣

噛み癖として挙げられるのは、まず左右どちらか一方でばかり噛む偏咀嚼(へんそしゃく)です。食事のたびに同じ側を使い続けるため、負担が片側に集中しやすくなります。

次に、上下の歯を無意識に接触させ続ける習慣があります。日本顎関節学会は、仕事中や休息時に上下の歯が接触していると気付いたら歯を離すよう呼びかけています。歯は本来、会話や食事のとき以外は軽く離れているのが自然な状態です。

睡眠中のはぎしりや、日中の食いしばりも噛み癖の一つです。強い力が繰り返し歯や顎にかかるため、歯がすり減ったり顎の筋肉が張ったりする原因になるとされています。

このほか、爪を噛む、唇を噛む、氷や硬い食べ物を好んで噛み砕くなどの習慣も、歯や顎への負担につながると考えられています。頬杖や猫背などの姿勢の癖も、顎への負担と関わる要素として挙げられています。

これらの習慣は、一つひとつは小さな動作です。ただし毎日繰り返されるため、積み重なると歯や顎に無視できない負担がかかると考えられています。

片側だけで噛む偏咀嚼が起こる原因

偏咀嚼が起こる背景には、噛みにくさをかばう動きがあります。むし歯や歯周病で痛みのある歯を避けているうちに、反対側だけで噛む習慣が定着してしまうケースは珍しくありません。

歯を失ったまま補っていない場合も同じです。噛み合う相手の歯がない部分では食べ物をすりつぶせないため、自然と噛める側へ偏っていきます。合っていない被せ物や入れ歯が原因になることもあります。

歯並びの乱れも一因です。歯が重なり合っている部分や、上下の歯が接していない部分があると、噛みやすい場所が限られ、使う側が固定されやすくなります。

姿勢や生活習慣が影響する場合もあります。テレビを見る向きや机に向かう姿勢が一定だと、顎の動かし方に偏りが出ることがあるとされています。原因が一つとは限らないため、歯科医院で状態を確認してもらうと整理しやすくなります。

偏咀嚼は、原因を取り除かないまま意識だけで直そうとしても続きにくい面があります。噛みにくさの理由が残っていないかを、先に確認しておきましょう。

噛み癖に気付くためのセルフチェック

噛み癖は無意識のうちに続いているため、意識して振り返る機会をつくると気付きやすくなります。食事のときに、どちら側で噛んでいるかを数回確認してみましょう。

次のような点に心当たりがあれば、噛み方が偏っているおそれがあります。

食後に片側の頬や顎の筋肉だけが疲れる

左右で歯のすり減り方や着色の程度が違う

頬の内側や舌の側面に歯の跡が付いている

朝起きたときに顎がだるい、口が開けにくい

気付くと上下の歯が触れ合っている

硬い食べ物を片側だけで噛んでいる

こうした項目は、あくまで気付きのきっかけです。当てはまる項目があっても、それだけで診断が付くわけではありません。セルフチェックで気になる点があれば、歯科医院で噛み合わせの状態を診てもらうと、原因の見当が付けやすくなります。

家族に食事の様子を見てもらう方法も役立ちます。自身では気付けない偏りを、周囲から指摘されて初めて自覚するケースもみられます。

噛み癖が歯並びと噛み合わせに与える影響


噛み方の偏りは、歯や顎に少しずつ影響を及ぼします。ここでは歯並びへの影響と、顎関節にかかる負担を解説します。

噛み癖が歯並びに影響する仕組み

歯は、噛む力や唇や舌から受ける力のつり合いのなかで位置を保っています。同じ側でばかり噛む習慣が続くと、その側の歯や歯を支える組織に力が集中し、つり合いが崩れやすくなります。

日本歯科医師会は、咀嚼について、前歯で噛み切り、奥歯で砕いてすりつぶし、舌と唾液で食塊をつくる連続した過程だと説明しています。奥歯の噛み合う面に食べ物を保持するには、内側から舌、外側から頬が適度な力で挟む働きが欠かせません。片側だけを使い続けると、この働きにも左右差が生じます。

また、幼少期の指しゃぶりや舌の癖は、前歯が噛み合わない開咬の原因になることがあると日本矯正歯科学会は説明しています。噛み方や口元の使い方の癖は、歯の位置に影響しうる要素です。

長い時間をかけて生じる変化のため、日々の実感は乏しくても、数年単位でみると歯並びの乱れとして現れる場合があります。

さらに、使う側の歯だけがすり減っていくと、上下の歯が接する高さに左右差が生まれます。噛み合わせ全体のバランスが崩れ、噛みにくさが強まる悪循環につながることもあります。

顎関節への負担と症状

噛み癖は、顎関節にも負担をかけます。日本顎関節学会は、顎関節症について、日常生活における行動や癖が症状と関係している場合があると説明しています。

学会が挙げている要素には、硬い食品や長時間の咀嚼、頬杖や猫背などの姿勢、上下の歯の接触、睡眠時のはぎしりや食いしばり(睡眠時ブラキシズム)、強い心理的な緊張が続く環境などがあります。噛み癖は、こうした要素と重なる部分が少なくありません。

顎に負担がかかった状態が続くと、口を開けたときに音が鳴る、顎や周囲の筋肉が痛む、口が開けにくいなどの症状につながることがあります。片側だけで噛む習慣がある場合は、その側に症状が出やすい傾向があるとされています。

学会は、これらの行動や癖に自身で気をつけることで症状が軽くなる場合があるとして、生活指導を治療の一つに位置づけています。

症状が続く場合には、筋肉のマッサージや温罨法などの物理療法、開口量を増やす運動療法、消炎鎮痛薬を用いる薬物療法が組み合わされることもあります。自己判断で我慢を続けず、相談してみましょう。

歯列矯正で噛み癖に対応できる範囲


歯列矯正は歯の位置と噛み合わせを整える治療です。ここでは対応できる範囲と、あわせて必要になる取り組みを解説します。

歯列矯正で改善が期待できるケース・難しいケース

歯列矯正で改善が期待できるのは、歯並びの乱れが原因で噛める場所が限られている場合です。歯が重なって噛みにくい部分がある、前歯が噛み合わない、上下の歯の中心がずれているなどの状態は、歯を動かすことで噛める範囲を広げられる可能性があります。

上下の顎の位置関係に大きなずれがある顎変形症では、外科手術と組み合わせた治療が検討されます。日本矯正歯科学会は、手術前後に矯正歯科治療を行う方法を説明しています。

一方で、歯並びが整っていても噛み癖が残る場合は、歯列矯正だけでは解決しません。痛みをかばう動きや姿勢の癖、はぎしりや食いしばりのように、歯の位置以外に原因がある場合が当てはまります。

また、歯を動かして噛み合わせを整えても、以前の噛み方を続けていれば負担の偏りは残ります。歯列矯正は土台を整える手段であり、癖そのものを消す治療ではない点を理解しておきましょう。

検査では、歯並びの状態に加えて顎の動きや筋肉の緊張も確認されます。どこまでが歯の位置の問題で、どこからが癖の問題なのかを整理してから方針を決めると、進め方がはっきりします。

歯列矯正とあわせて行う習慣の見直し

噛み癖への対応では、歯列矯正と並行して生活の見直しを進める方法がすすめられます。まず取り組みやすいのは、食事のときに左右をバランスよく使う意識づけです。ひと口の量を減らし、意識して反対側でも噛むようにすると偏りを抑えやすくなります。

上下の歯が触れ合っていると気付いたら、意識して歯を離す習慣も役立ちます。日本顎関節学会が生活指導として挙げている内容で、日中に何度か思い出すだけでも顎の筋肉の緊張を和らげやすくなります。

頬杖をやめる、猫背を正す、片側を下にして寝る習慣を見直すなど、姿勢に関わる癖の修正も並行して行いたい点です。硬い食品を長時間噛み続けるのを控えることも挙げられています。

はぎしりや食いしばりが強い場合は、就寝時に装置を使う方法が検討されることもあります。日本顎関節学会は、上顎または下顎の歯列全体を覆うアプライアンスについて、睡眠時ブラキシズムの際の咀嚼筋の緊張を和らげ、顎関節部への負荷を軽くする目的があると説明しています。

歯科医師と相談しながら、自身に合った方法を選びましょう。

噛み癖が気になる場合に知っておきたいこと


噛み癖への対応には、訓練や早めの相談も関わります。ここでは口腔筋機能療法とリスク、相談の目安を解説します。

噛み癖の改善に用いられる口腔筋機能療法(MFT)

口腔筋機能療法(こうくうきんきのうりょうほう)は、MFTとも呼ばれ、舌や唇、頬などお口の周りの筋肉の使い方を整える訓練です。歯を動かす治療とあわせて行われることがあります。

訓練の内容は、舌を正しい位置に置く練習や、唇を閉じる力を高める練習、飲み込むときの舌の動かし方を整える練習などです。日本小児歯科学会も、お口を閉じる力や口の周りの筋肉を高めるトレーニングを、機能を育てる治療の内容として示しています。

舌で前歯を押す癖や、口が開いたままになる習慣が残っていると、歯を動かした後に元へ戻る力が働きやすくなります。筋肉の使い方を整えることは、整えた歯並びを保つうえでも意味があると考えられています。

訓練は毎日の積み重ねが前提です。短時間でも続けるほうが効果を得やすいとされ、歯みがきの後など決まった場面に組み込むと習慣にしやすくなります。歯科医師や歯科衛生士の指導を受けながら、無理のない範囲で続けましょう。

噛み合わせの乱れが進むリスク

噛み癖をそのままにしておくと、負担の偏りが積み重なっていきます。使い続けている側の歯はすり減りやすく、詰め物や被せ物が欠けたり外れたりする原因になることもあります。

歯を支える組織への負担も見逃せません。強い力が繰り返しかかると、歯周組織に炎症がある場合に状態が進みやすくなると考えられています。歯がしみる、噛むと違和感があるなどの変化が出る場合もあります。

あまり使っていない側では、噛む刺激が減って汚れが残りやすくなり、むし歯や歯周病のリスクが高まるおそれがあります。左右で歯石の付き方に差が出ることも珍しくありません。

顎関節への負担が続けば、口が開けにくい状態や痛みにつながることもあります。食事や会話に支障が出てから受診すると、対応に時間がかかることも考えられます。気付いた段階で対応するほうが、選べる方法は広がります。

歯科医院に相談する目安

噛み癖そのものは病気ではありませんが、次のような変化があれば歯科医院で相談しましょう。口を開けるときに音が鳴る、顎や周囲の筋肉が痛む、口が大きく開けにくい、朝起きたときに顎がだるいなどの症状は、顎関節への負担を示すサインとされています。

歯のすり減りが目立つ、詰め物が繰り返し外れる、噛むと痛む歯があるといった変化も相談の目安です。片側でしか噛めない状態が続いている場合は、その原因を調べておく必要があります。

受診の際は、いつ頃から噛み方が偏っているか、どちら側で噛んでいるか、痛みや音がどのようなときに出るかをメモしておくと伝えやすくなります。

歯科医院では、噛み合わせの確認や必要に応じた検査を行い、原因に応じた対応が検討されます。自己判断で様子を見続けず、早めに相談してみてください。

まとめ

ここまで、歯列矯正と噛み癖の関係についてお伝えしてきました。要点をまとめると以下のとおりです。

噛み癖には偏咀嚼や歯の接触癖、はぎしりや食いしばりなどがあり、痛みをかばう動きや歯並びの乱れが背景にある

噛み方の偏りは歯を支える組織や顎関節への負担につながり、歯並びや噛み合わせに影響が及ぶ場合がある

歯列矯正は噛める範囲を広げる手段になるが、癖そのものへの対応には生活の見直しや口腔筋機能療法を組み合わせる

噛み癖への対応では、歯の位置を整える取り組みと、日々の使い方を整える取り組みの両輪が欠かせません。歯列矯正だけに任せるのではなく、食事のときの噛み方や姿勢、歯を接触させる癖まで振り返ってみると、変化を実感しやすくなります。気になる症状があれば、歯科医院へ相談してみてください。

これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

参考文献

顎関節症の主な治療は|一般社団法人日本顎関節学会

かむ、食べる、味わう|歯とお口のことなら何でもわかる テーマパーク8020