月5000円払うだけで5万円分使える…医師・和田秀樹が「老後資金は500万円で足りる」と説く"制度の名前"
※本稿は、和田秀樹『60歳からの 世にも愉しい「ひとり時間」の過ごし方』(永岡書店)の一部を再編集したものです。

■蓄えは500万円もあれば十分
「老後2000万円問題」が大きな話題になったことがあります。
令和元(2019)年に金融庁の審議会報告書で「夫65歳・妻60歳で定年退職した世帯が、老後30年間暮らすには、公的年金だけでは約2000万円足りなくなる可能性がある」と試算したため、「貯金をしよう」という風潮が一気に広まりました。
けれども、実際にそれほど多くのお金を用意しておく必要があるのでしょうか?
私は「500万円くらいで十分だと思います。ゼロならゼロでなんとかなりますよ」とお伝えしています。
まず、「500万円」と書いたのは、介護保険を使えば、寝たきりになったときに入る有料老人ホームの入居費用も1人当たり500万円ほどで済むからです。
日々の生活においては、支給される年金があります。国民年金だけの人(自営業・専業主婦など)の受給額は月額平均で6~7万円ほど、会社員だった人(厚生年金あり)で月額平均14~15万円ほどでしょうか。
ここに仕事の報酬をプラスすれば、「生活が成り立たない」ということはないと私は思います。
「ゼロならゼロでなんとかなる」とお伝えしているのは、生活保護制度があるから。万が一、生活が成り立たなくなった場合は、生活保護に頼ればいいのです。「恥ずかしい」などと思う必要はありません。
これまで多くの税金を払ってきたのですから、それを返してもらうだけ。いざというときには当然の権利として使ってください。また、知らない人も多いかもしれませんが、年金収入の月額が国が定める最低生活費に満たなければ、その差額分がもらえるのです。
都市部・単身・高齢者の場合、「1カ月で11~13万円前後」を1つの目安としているようですから、年金支給額が目安よりも低くて貯金がない場合は、居住地域を所管する福祉事務所(または町村役場)に生活保護の申請をしてみてください。
■老後の人生設計に欠かせない介護保険制度
ひとりで生きていくとなった際に気になることの1つが「介護」の問題です。「将来、介護が必要な状態になったら……」と不安に感じつつ、「誰かに頼らず自分で何とかしよう」と頑張ろうとしてしまう人が多いのです。
「人と関わるのが嫌だ」「面倒に感じてしまう」という思いも相まって、さらに孤軍奮闘してしまうのです。私はこれまでに「よくもそこまで頑張りましたね」という高齢者をたくさん見てきました。
ただ、その一方で、「多くの人が介護保険制度の存在や、その中身について知らないのだな」とも感じています。これは非常にもったいないことだと思います。
なぜなら、介護保険制度は、老後の人生設計を立てる上で欠かせない心強い味方だからです。

では、どんな制度なのでしょうか?
ここでは概要にのみ触れますが、「そのような制度があるのなら、介護が必要になったらどんどん活用しよう」と思ってもらえたら嬉しいです。国がサポートしてくれると思えるだけで、だいぶ気が楽になりますから。
そのためにも、積極的に情報を集めて、サービス内容を知っておきましょう。
■原則は1割負担で
介護保険制度とは、「高齢者の介護を家族だけに任せず、社会全体で支えること」を目的とした公的保険制度で、平成12(2000)年に始まりました。
原則として40歳以上の国民全員が保険料を支払い、65歳以降、原因を問わず、要介護・要支援状態になった場合に給付やサービスを受けられる制度です。
給付やサービスを受けられるかどうかの認定は市区町村が行い、要支援1~2、要介護1~5の7段階があります。
サービス内容は大きく3つに分かれています。
①居宅サービス……訪問介護(ホームヘルパー)、訪問看護、デイサービス(通所介護)、福祉用具レンタル(車いす・介護ベッドなど)
②施設サービス……特別養護老人ホーム(特養)、介護老人保健施設(老健)、介護医療院
③地域密着型サービス……小規模多機能型居宅介護、認知症グループホーム
所得に応じて2割~3割負担になる場合がありますが、原則は1割負担で済みます〈※施設利用時の介護費用+食費・居住費(滞在費)については、原則自己負担となっています〉。
■月額5000円で最大5万円分のサービス
最も軽い要支援1は、「自立に近いが、少し支えが必要」という位置づけです。この要支援1の段階であっても、週2回はヘルパーさんが来てくれて、掃除、洗濯、買い物などをお願いすることが可能なのです。
介護予防通所介護(デイサービス)の利用や、福祉用具レンタル(手すり、歩行器、杖など)もできます。
サービス上限があるのですが、要支援1の場合は月額5万320円。原則は1~3割負担(所得に応じて変動)なので、「月額5000円で最大5万円分のサービスを享受できる」というわけです。要件を満たすのであれば、この制度を使わない手はありません。
市役所や区役所に行けば、介護サービスについてわかりやすくまとめられたパンフレットを入手できます。インターネットで検索してみるのもいいですね。
介護保険料は40歳以上ならば収入から天引きされ、65歳以上になると、基本は年金から天引きされています。つまり、あなたが長年払い続けてきた保険なのですから、「機会があれば遠慮なく活用しよう」という気持ちでいれば良いのです。

■孤独という立場・状況を上手に活用する
「孤独」は主観的なものです。
あなたが「孤独で寂しい」と思えば寂しいものですし、「孤独だからこそ自由で楽しい」と思えば自由で楽しいものなのです。
誰かに縛られる人生、誰かに支配される人生では、自由で楽しいとは思えませんよね?
孤独という立場・状況を上手に活用することで、あなたの今後の人生の幸福度を高めることが可能なのです。
私がこれまでに多くの高齢者と長く接してきて思うのは、「人に迷惑をかけてはいけない」という強い意識です。戦前の日本からの道徳観にいまだに引きずられているなと感じます。
仕事柄、患者さんにデイサービスやヘルパーさんの利用をすすめることもあります。けれども「それは申し訳ない」と拒否されることが多いです。
また、必要に応じて、生活保護の受給や介護保険の利用をすすめることがあります。この場合も「お上の厄介になっては申し訳ない」「世間に迷惑をかけてはいけない」などと言うのです。周囲の人に頼らず、公的サービスを活用せず、さらに無理を重ねてつぶれていくような事態を私はたくさん見てきました。
でも、いいじゃないですか、今まで頑張ってきたのですから。人の世話にはならない、迷惑をかけない--誰1人として、そんな生き方はできません。生きていれば、何かしら人のお世話になり、人に迷惑をかけて生きています。
私はよく、
「生きているということは誰かに貸しをつくること。老いていくことは誰かにその貸しを返してもらうことですよ」
と高齢者の方々にお伝えしています。これまで我慢して社会のために働いてきたのですから、気兼ねせずに借りを返してもらえば良いのです。
■「自立とは依存先を増やすこと」

脳性麻痺を持つ「当事者研究」の第一人者である熊谷晋一郎先生によれば、「依存先とは、人が生きていく上で頼っている、支え・助け・つながりの行き先」のことだそうです。
熊谷先生は「自立とは、依存しなくなることではなく、依存先を増やすこと」「依存は悪ではなく、分散されていることが大切」という考え方を提唱していますが、私も同感です。
一つひとつへの依存度を浅く、分散することで人は自立でき、孤独をうまくコントロールできるようになるからです。
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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。幸齢党党首。立命館大学生命科学部特任教授、一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、40年にわたり高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。
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(精神科医 和田 秀樹)
