(※写真はイメージです/PIXTA)

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相続が発生した際、税務署が特に厳しくチェックするのが過去の口座履歴と生前贈与の有無です。2024年からの税制改正により、相続財産へ加算される生前贈与の遡及期間が「3年」から「7年」へと段階的に延長されたことで、過去のうっかりした金銭のやりとりが申告漏れとして指摘されるリスクは格段に高まりました。本記事では、事例を通して、生前贈与の正しいルールと注意点について、木戸真知子税理士が解説します。

認知症の祖母が6回くれた「結婚祝い」

Aさん(27歳・会社員)は、おばあちゃん子。幼少期の記憶は、いつも祖母に遊んでもらっていたことばかりです。共働きの両親に代わり、隣の家に住んでいた祖母が保育園のお迎えから習い事の付き添いまで、子育てのサポートの多くを祖母が対応してきたのです。

祖母にとってAさんは愛おしい初孫でした。Aさんも、両親と祖父母に大切に育てられてきたことを感謝しており、社会人になって一人暮らしをするようになってからも定期的に実家と隣の祖母の家に顔を出していました。

しかし、長年自分を支えてくれた祖母も、徐々に高齢となり家族の心配が増していきます。実家に帰ると、とりわけ懸念されていたのが、「祖母が認知症になってきているのではないか」ということ。

何度も電話を掛けてきて同じことを聞いたり、遠い昔の出来事をいきなりいま起きたことのように話したり、ときにはもうとっくの昔に済んだことについて怒りだしたりと、記憶のあいまいさが目立つようになります。祖母本人が至って元気で自覚がないことも、家族が対応に頭を悩ませる要因となっていました。

そんな状況を聞いていたAさんは、なるべく時間を作って祖母に会いに行くようにしていました。Aさんから見ても「これはさすがに認知症かもしれないな」と感じる場面があり、少し寂しい気持ちにならざるを得ません。しかし、祖母はAさんへの愛情を忘れることはありませんでした。Aさんが祖母の家に行くと、それはそれは本当に嬉しそうにしていましたし、家族にも「Aに会える日が楽しみだ」と話していたそうです。

祖母とはいろいろな話をしました。仕事のことや恋愛のことも。祖母はいつも嬉しそうにニコニコして耳を傾けてくれたのです。

やがてAさんも、結婚をしたいと思える相手に出会います。彼女のことは祖母にも話していて、いつか会わせたいと思っていました。そのため、Aさんは真っ先に祖母に報告。祖母は飛び上がらんばかりに喜び、「今度お祝いを用意するね」といってくれました。

次に会いに行った際、約束どおりお祝いを用意してくれていた祖母。Aさんは心からお礼をいって、受け取りました。--ところが、その後会いに行くたびに戸惑うことが起きます。

祖母は会うたびに、結婚祝いを渡してくるのです。毎回、本当に嬉しそうに準備をしてくれているので、Aさんもどうしたらいいかわからず「もうもらったからいらないよ」と断ることもできません。Aさんはただ「ありがとう」といって受け取っていました。

結局、同様のやりとりが6回ほど繰り返されたところで、ようやく終わりました。

社会人として一人暮らしを始めてから思うように貯金ができず、結婚準備費用に悩んでいたAさん。内心、祖母のお金を有難いと思っていたのも事実です。何度も受け取ることへ心苦しさを感じつつも、受け取ってしまっていました。

祖母の他界…税務調査で指摘された「600万円」の存在

それから2年後、祖母は他界しました。家族にとって大きな存在であった優しい祖母がいなくなったことに、両親もAさんも耐えがたい寂しさを感じます。Aさんは「ひ孫に会わせてあげたかった……」という想いもあったので、なかなか立ち直れません。

先に他界していた祖父の財産を相続していたこともあり、祖母の遺産は約1億2,000万円。相続税の申告が必要となりました。Aさんと両親は、祖父の申告のときの資料を参考にしながら自分たちで書類を集め、どうにか申告を完了させます。

しかしそれからしばらくして、税務署から「申告内容について確認したい」と連絡が入りました。心当たりがないまま迎えた税務調査の当日、調査官が通帳の履歴を指差しながら質問を投げかけます。

「この口座から何度も引き出されている、まとまった金額はなんでしょうか?」

通帳を確認すると、確かに短期間で何度もまとまった資金が引き出されていました。回数は合計6回。Aさんはハッと記憶が蘇り、「それは私への結婚祝いです」と正直に答えました。

調査官が引き出し履歴を集計したところ、1年間で受け取った金額は合計600万円にのぼっていたのです。調査官はこう告げました。

「これは贈与税の申告が必要なものでしたね。そして、生前贈与加算の対象になります」

贈与税の仕組みと「生前贈与加算」の注意点

個人から財産をもらった場合、受け取った人は翌年の3月15日までに贈与税の申告・納税を行わなければなりません。「暦年課税」では、1年間(1月1日~12月31日)に受け取った財産の合計が110万円以下であれば非課税となり、申告も不要です。

今回、Aさんは合計600万円を受け取っていたので、贈与税の対象になりました。申告と、68万円の納税が必要でした。

そして相続税の申告にも申告をする必要があったためその指摘を受けることに。注意しなければならないのが、相続税における「生前贈与加算」というルールです。亡くなった人から生前に暦年課税で贈与を受けていた場合、その財産を相続財産に連動させて計算し直す必要があります。

2024年1月1日施行の税制改正による変更点

生前贈与加算の対象となる期間については、2024年1月1日以降の贈与より改正が行われました。

〈主な改正の内容〉

1.相続開始前に暦年課税の贈与があった場合、相続税の申告の対象となる期間が「3年前以内」から「7年前以内」に延長。

2.延長となった4年間の贈与については、合計100万円までは相続財産に加算しない。

延長される期間は、下記の相続開始日によって変わります。

〇相続開始日が2026年12月31日まで:相続開始前3年以内

〇相続開始日が2027年1月1日~2030年12月31日まで:3年超~7年未満(2024年1月1日から死亡の日までのあいだ)

〇相続開始日が2031年1月1日から:相続開始前7年以内

今後は確認すべき遡及期間が長くなるため、過去の贈与履歴を忘れてしまったり、記憶があやふやになったりした結果、うっかり申告漏れというリスクが生じる可能性が高まるため、注意してください。

家族間での金銭の授受であっても、金額が大きい場合は贈与税の申告が必要になる点や、将来の相続税に影響を与える点に十分留意しておかなければなりません。

木戸 真智子

税理士事務所エールパートナー

税理士/行政書士/ファイナンシャルプランナー