埼玉栄高死亡事故、遺族が1億3600万求め学校を提訴…裁判の争点は?弁護士が解説
埼玉栄高校で2024年11月、生徒4人がグラウンド整備用の軽自動車を校庭で走らせて横転し、男子生徒が死亡した事故で、生徒の遺族が学校法人などに約1億3660万円の損害賠償を求める訴訟をさいたま地裁に提訴しました。提訴は1日付けとされています。
事故は2024年11月16日の深夜、さいたま市西区のグラウンドで起きました。寮を抜け出した同高校の生徒4人がサッカー部の整備用の軽自動車を無免許で運転して横転させ、助手席にいた陸上部の生徒(当時17歳)が死亡しました。
遺族の主張の内容、裁判の争点を簡単に解説します。
●遺族は誰に、何を求めているのか
記者会見の資料によると、被告は学校法人と理事長、校長、教頭、サッカー部の指導者3人、寮の舎監、陸上部の顧問、さらに、運転した生徒、車の持ち出しを主導した生徒、この2人の親4人、の合計15人です。
請求額は約1億3662万円です。内訳は、逸失利益約7054万円、慰謝料5000万円、葬儀費用など約366万円、弁護士費用1242万円となっています。なお、被告全員に連帯して支払うよう求めています。
また、学校法人(予備的な主張)と、運転した生徒に対しては、民法上の損害賠償責任だけでなく、自動車損害賠償保障法3条の責任(運行供用者責任)も主張されています。
運行供用者責任の主張の方が、立証責任の関係で不法行為責任よりも原告側に有利になりますが、亡くなった生徒が同法の「他人」に当たるかは争点になりえます。
仲間と一緒に無断で車を持ち出して乗っていた同乗者は、運行を支配していた側とみられる可能性もあるからです。
もっとも、他人に当たらないとされても、民法上の不法行為責任の請求は残ります。
過去の裁判例では、誰でも立ち入りできる場所に、鍵を差したまま車を置いていた会社があり、置き場所を知っていた元従業員がこれを無断で持ち出して事故を起こした事案で、会社の運行供用者責任を認めたものなどがあります(高松高裁昭和48年(1973年)8月10日判決など)。
一方で、置き場所の管理状況などから、所有者の責任を否定した裁判例もあります。
●学校法人に対する請求で問題になることは?
学校法人に対しては、生徒の生命・身体の安全に配慮する義務(安全配慮義務)違反などに基づく損害賠償を請求しています。
この点については、寮を抜け出した生徒の校則違反中の事故にまで安全配慮義務が及ぶのかが問題になりえます。
生徒が車を無断で運転する危険を具体的に予見でき、防ぐ措置を怠ったといえる必要があるからです。
なお、学校側は会見で「鍵の管理に落ち度があったのが事故の最大の原因」と認めています。
原告側はこの点について、鍵を車内に置く運用は教職員自身の判断で続けられていたと主張しています。
グラウンドに繰り返し残ったタイヤ痕や、事故の約1か月前に同じ車が横転して動かなくなった出来事など、無断運転の兆候があったにもかかわらず、それを調べなかった以上、学校は事故を予見できたし防げた、という主張です。
●個人に対する請求で問題になることは?
次に、理事長や校長個人に対しても訴えを起こしていますが、理事長らが個人としてどんな注意義務を負っていたのかが問題になります。
また、事故を起こした生徒らに対しても訴えを提起していますが、それだけでなく、その保護者についても訴えを起こしています。
事故を起こした生徒らの責任は認められやすいと考えられます。
ただ、2人は未成年で、資力がないと思われるため、損害賠償責任が裁判で認められたとしても、実際に支払われるかは別の問題です。
一方で親の責任ですが、高校2年生(事故当時16歳と17歳)の子には、自分の行為の責任を判断できる能力(責任能力、民法712条)があります。
そのため、当然に親が責任を負うわけではありません。親の監督義務違反と事故との相当因果関係が必要となります。
本件では、子が親元を離れて寮で生活していたことから、親に対する請求のハードルは高いと考えられます。
もっとも、離れて暮らしていたというだけで親が免責されるわけではなく、監督の実態次第で責任が認められた例もあります。
原告側は、主導した生徒の養父が学校の鍵管理のずさんさを自分の目で見ていたとも主張しています。
●被害者側の過失も問題になりうる
すべての被告に共通する問題が、過失相殺です。
これは、被害者側にも落ち度がある場合に、損害賠償の額などが減らされるのではないか、という問題です。
本件では、亡くなった生徒も、無免許運転と知って同乗していたと考えられます。
「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる」という規定があるため(民法722条2項)、賠償が認められるとしても、減額される可能性があります。
学校法人に対する債務不履行の請求でも同様です(民法418条)。
学校事故の裁判例には、生徒自身の落ち度を理由に大きく減額した例もあれば、学校側の落ち度が重いとして減額を抑えた例もあります。
●第三者委員会の報告書と、遺族側の主張では異なる部分もある
第三者委員会の報告書は、鍵を無施錠の車内に置く運用が2023年3月以降常態化していたと認定しています。
無断乗車は約2年前から続いていたのに、教職員は把握していなかったともしています。
遺族側が主張している事実には、報告書にない事実もあります。たとえば、以下のような事情が主張されています。
・サッカー部のコーチが、中学サッカー部の監督から鍵放置の危険を指摘されていた
・整備業者から監督に「もう少し車を大切にして欲しい」と申し入れがあった
・舎監が普段から、1階の舎監用の寝室ではなく3階の自室で寝ていた
・運転した生徒が法面に向けて自らハンドルを切った
・亡くなった生徒は座ったままで、自動車から身を乗り出していなかった
などです。
一方、報告書は、4人全員に事故以前の無断乗車歴があると認定しています。
亡くなった生徒が「助手席の窓から顔を出していた」という同乗者の説明も記載されています。
学校がどこまで夜間の無断運転の状況を知っていたのか。亡くなった生徒にどこまで落ち度があったのか。報告書と遺族側の主張が食い違う部分は、訴訟における主な争点になるとみられます。
小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)

