末期がんの高齢女性、不動産の相続登記で「仲違いしたきょうだい」にやむなく連絡も…その後に起きた衝撃の展開【司法書士が解説】
令和6年4月から始まった「相続登記の申請義務化」。粛々と進められる法的手続きの一方で、思いがけない家族間のドラマが繰り広げられることがあります。多数の相続問題の解決の実績を持つ司法書士の近藤崇氏が、実際にあった事例を読み解いていきます。
親の介護やケアなどをめぐり、きょうだいと音信不通に
相続手続きのひとつである「不動産の相続登記」を進めていると、ときに法律だけでは解決できない家族の問題・物語に立ち会うことがあります。
ある地方の不動産は、所有者の父が20年以上前に亡くなってから、そのままになっていました。その不動産は、横浜市在住の高齢の女性、鈴木さん(仮名)のご実家であり、地域的には値段がつくかどうかもわからない状況でした。
しかし、不動産の名義変更を行うためには遺産分割協議という手続きが必須です。この手続きでは、戸籍で確認された相続人全員によって、誰がどの財産をもらうかを話し合い、合意することが必要です。
鈴木さんには複数のきょうだいがいましたが、なかには親の介護やケアなどをめぐり音信不通になっている人もいました。
最初の相談で「そもそも私自身が何十年も連絡もしていない」「今どこに住んでいるのか、どんな生活をしているのかもわからない」「年賀状のやり取りすらない」と話していたのが印象的でした。
「不動産を円満に引き継ぐためにできることは何か」
鈴木さんの背中を押したのは、令和6年4月から始まった「相続登記の申請義務化」に関するマスコミ報道と、不動産の老朽化でした。
しかし最も大きな動機は「将来子どもに不動産を引き継ぐにあたり、何をしておけばよいのかわからず、心配」というものでした。
実は鈴木さんは、事務所に相談に来た半年ほど前にがんの宣告を受けていたのです。
そのため「この不動産を円満に次の世代に引き継ぐために今できることは何か」と考えていたといいます。
きょうだいに手紙を出した結果、想定外の反応が
司法書士は、職権で戸籍などの書類を取り、きょうだいの現住所までを確定することができます。
しかし、判明するのは住所までです。この住所に手紙などで連絡をして、初めて相続登記、それに必要な遺産分割協議書の作成につながることになります。
こうした調査をしている間にも、相談者の女性の健康状態は少しずつ悪化していきました。
相続人を確定することができ、いざ手紙を出してみると、鈴木さんが想定していなかったことが起こりました。
疎遠で険悪な関係にあると思っていたきょうだいたちから、末期がんに侵された鈴木さんを心配する声が届き、なかには、飛行機で横浜まで駆けつける方もいたのです。
「相続の手続きを進めることはもちろんですが、こうして〈止まっていた家族の時間〉が動き出したことがすごく大きかったです」
鈴木さんはそのように話してくれました。
「放置されていた家族の縁」を見つめなおす
この件で鈴木さんが「うまくいくはずがない」と思い、手続きをそのままにしておいたらどうなったでしょうか。あるいは「面倒だから」と手続きを放置していたら、またあるいは「義務化」というきっかけがなければ…。
もしかしたら、鈴木さんは何もしないまま亡くなり、この不動産の問題が次世代に持ち越されていたかもしれません。
相続手続きは確かに面倒です。しかし、単に不動産の登記を変えるだけにとどまらず、鈴木さんが言ったように〈止まっていた家族の時間を動かす〉こともあるのです。
司法書士としては日常業務のひとつですが、いろいろ考えさせられるものがありました。
相続手続きは、確かに面倒で複雑です。しかし、それは単に不動産の名義を変えるだけのものではありません。
「放置されていた権利」を整理することは、同時に「放置されていた家族の縁」を見つめ直すきっかけにもなります。
「疎遠な親族がいるから、手続きが進まない」「会いたくないけれど、法的な義務は果たしたい」そんな悩みをお持ちの方は、法的な調査と調整を行うことで、結果として新しい家族の形や絆の再発見になるかもしれません。
*本件は個人情報保護のため、内容は一部改変を加えております。
近藤 崇
司法書士法人近藤事務所 代表司法書士

