中国から「技術を盗まれる側」だった「日本の自動車メーカー」がいまは逆の立場に…トヨタがファーウェイとあえて組む「本当の狙い」
日本人が「EVかハイブリッドか」などと悩んでいる間に、海外では「クルマとAIの融合」が普通になった。今から追いつけるか?
取材・文:井上久男(いのうえ・ひさお)/'64年生まれ。大手電機メーカーを経て朝日新聞社に入社。経済部で自動車産業などを担当し、'04年に独立。『日産vs.ゴーン 支配と暗闘の20年』ほか
【前編を読む】日本では「黒船」のBYDも中国では「おじさんのクルマ」で時代遅れ…「トヨタ」の「ほんとうのライバル」は
既存の自動車メーカーは「下請け」になる
実際、'26年1~6月のBYDの世界販売は、前年同期比16%減の約181万台。6年ぶりの前年同期割れとなり、一時の勢いを失っている。
日本ではいまだに「EVは本当にエコなのか」といった議論がなされているが、中国で取材していると、それ自体が時代遅れも甚だしいと感じてしまう。中国ではすでに「車の知能化」の競争が加速しており、その勝敗が売り上げにも大きな影響を及ぼしているのだ。この「現実」は、いずれ日本の自動車産業にも及んでくるだろう。
特に筆者が脅威に感じるのは、ファーウェイが既存の自動車メーカーを「下請け化」しているということだ。
自動車産業では、ブランドを保有する自動車メーカーが「ティアゼロ」としてサプライチェーンの頂点にいる。その下に「ティア1(1次下請け)」「ティア2(2次下請け)」といった協力企業が階層的に連なっている。
しかし、ファーウェイの立ち位置は、自動車メーカーの上に立つ、いわば「ティアマイナス1」である。ファーウェイ主導で車を企画・開発し、知能化システムなどの付加価値の高い部品・システムを自動車メーカーに採用させ、生産は自動車メーカーに任せる。そして販売はファーウェイの店舗で行い、同社のスマートフォンなどと一緒に売っている。中国ではこうした「主客転倒現象」がいま起きているのだ。まさに産業構造の大転換と言えるだろう。
ファーウェイの「走るスマホ」
上海から高速鉄道に乗って2時間半ほどの安徽省合肥市に、中堅自動車メーカーの江淮汽車が本社と工場を構えている。日本では販売されていないので、消費者はほとんど知らないだろう。7月20日、筆者は同社の「スーパースマートファクトリー」を訪問した。保秘のため製造現場は見せてもらえなかったが、ショールームで解説を受け、車にテストコースで試乗した。
試乗したのはEV「尊界S800」。ファーウェイが同社の最高級車と位置づける、独ベンツの「マイバッハ」を意識して開発した車だ。ファーウェイと江淮汽車の共同開発とされるが、主導権はファーウェイが握っている。
後部座席に乗せてもらった。室内は総革張りで、身体が吸い込まれるような感じがある。助手席のドアはタッチパネルに触れると閉まった。エアコンやカーナビ、座席などのあらゆる操作は音声指示でAIにより行われる。江淮汽車の説明員は「車内の操作の80%以上が音声コマンドで、そのソフトウエアや運転支援関連技術もファーウェイのものを使っている」と説明した。車内の操作はファーウェイのスマホでもできる。まさに「走るスマホ」だ。
ファーウェイはこの「尊界」以外にも、「享界」「智界」などの5つのブランドを持つことから「五界」と言われている。「享界」は北京汽車、「智界」は奇瑞汽車が生産を担っており、自動車メーカー5社と組んでいる。
「HIMA(Harmony Intelligent Mobility Alliance)」と呼ばれるこのプロジェクトは、ファーウェイのスマホなどで使われる「ハーモニーOS」と連携した「自動車連合」である。これを通じてファーウェイは、次世代車の中心となるスマートカー市場で覇権を握ろうとしているように見える。
トヨタがファーウェイと「あえて組む」狙い
トヨタはファーウェイの車載OSを'26年3月から中国市場限定のEV「bZ7」に採用した。日産も'25年秋に発売したセダン「ティアナ」では、ファーウェイ製のインテリジェント・コックピットを採り入れている。こうした技術を採り入れなければ、中国市場では戦えない。
トヨタは米国市場も重視している。ファーウェイの技術を採用した車は米国では販売できない。このため、社内デカップリング(分離)を進め、トヨタの米中の開発部門が直接連絡を取れないような社内ルールを構築している。
そうした障壁がありながらも、トヨタがファーウェイと組む狙いは、「中国で自動車を売る」ということ以外にもあると筆者は見ている。自動車産業の構造転換を進めているファーウェイの「手の内」を知るために、あえて組むということだ。トヨタは'20年に、深圳でBYDとEVの開発合弁会社を設立したが、当時も狙いは同じだった。
1990年代半ば以降、日本の自動車メーカーが中国企業と合弁を組み、技術を盗まれてきた面は否定できない。しかし、今はトヨタでさえも盗み返す側にいる、ということだ。
闘う相手は「同業者」ではなく「時代の流れ」
さらに中国が知能化の先に見据えるのが、ロボット産業との融合だ。安徽省蕪湖市にある、中国で最も輸出台数が多い奇瑞汽車本社を訪れたところ、迎えてくれたのは、同社が新興企業と一緒に開発した人型ロボットだった。
EVで先行する米テスラも、EVの工場を人型ロボット「オプティマス」の生産拠点に変えようとしている。
日系合弁企業も含めて、中国の主要自動車メーカーの開発を請け負ってきたIATという会社が北京にある。中国で最大の独立系自動車開発会社と言われる同社は、日本留学後、三菱自動車で働いた宣奇武氏が独立して'01年に日本で起業。'20年には中国で上場した。宣氏も「今後はロボット事業を強化していく」と語る。
自動車が「走るスマホ」、そして「走るロボット」になる時代が目前に来ている。もはや日本のメーカーが闘うべき相手は、同業他社ではなく、「時代の流れ」そのものなのかもしれない。
「週刊現代」2026年8月31日号より
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