「何もしなくても、お金が増えてしまうんですよ」…資産1億8,000万円・配当年400万円の73歳男性、有り余るお金に喜ぶどころか「もう十分」と怯える理由【FPの助言】
「老後のために」と築いてきた資産。しかし、一緒に使うはずだった相手を失ったあとも、お金だけは増え続けました。年金だけで生活できるのに、配当まで入ってくる--。73歳になった男性は、なぜ「もう増えなくていい」と怯えるようになったのでしょうか。FPの三原由紀氏が解説します。
父からの「時価約2,500万円の株式相続」をきっかけに投資の道へ
「何もしなくてもお金が増えてしまうんです。昔なら嬉しかったんでしょうけど、いまは違います。もう十分なんです。むしろ、このお金をどうしたらいいのかと思うと怖くなります」
そう話すのは、神奈川県で一人暮らしをする佐々木修一さん(仮名・73歳)です。
佐々木さんは大学卒業後、機械メーカーに就職し、60歳まで勤務。定年前の年収は約750万円でした。20代後半で同い年の妻と結婚しましたが、子どもはいません。若いころは実家の敷地内に小さな戸建てを建て、両親が亡くなったあとは母屋へ移ったため、住居費の負担は比較的小さく済みました。
投資のきっかけは52歳のとき。父から時価約2,500万円の国内株式を相続しました。父は頻繁に売買せず、配当を受け取りながら長く株を持つタイプでした。
その後、佐々木さん自身も配当を期待できる株を買い足します。55歳でリーマン・ショックに遭遇し、株価は大きく下落。減配した銘柄もありましたが、配当がすべてなくなったわけではありません。この経験から、「売らずに持ち、配当を受け取る」という考えが強くなりました。
妻の死で“配当旅行”は叶わず…増え続ける資産に「もう嬉しくない」
「年金で生活して、配当で旅行をしよう」
あるリゾート施設に夫婦で一度泊まり、その居心地の良さが気に入って会員権を購入。ところが、佐々木さんの定年退職を目前に、同い年の妻が病気で亡くなり、会員として利用することは一度もできませんでした。
死別直後は旅行などをする気になれなかったものの、時間の経過とともに友人との食事や外出を楽しむ日常を少しずつ取り戻していきました。そのうえで数年後、一人でそのリゾート施設を訪れたこともあります。しかし夫婦や3世代で食事を楽しむ宿泊客を見て、「ここは、自分が一人で来たかった場所ではなかった」と痛感したといいます。
現在の年金は月約18万円、生活費は月16万円ほど。車は持たず、贅沢をしているわけではありませんが、切り詰めているわけでもありません。一方、保有株に退職金やそれまでの預貯金を合わせ、60歳時点の金融資産は約7,500万円。その後、株式相場の上昇や使わなかった配当などが積み重なり、現在は約1億8,000万円になっています。現在も配当だけで年間約400万円(税引前)が入ります。
「増えて嬉しいとは、もう思わないんです」
使うはずだった相手はもういないのに、使うはずだったお金だけが、あの頃よりも大きく膨らんでいました。
しかも、資産が増え続けることは、単に「使い切れないお金が増える」というだけではありません。持っている資産から生まれる配当や、その受け取り方によっては、老後の社会保障にかかる負担にも関係してきます。75歳を目前に、佐々木さんが気になり始めたのは、まさにこの点でした。
増え続ける配当が将来の「保険料」に影響?75歳を前に気になり始めたこと
佐々木さんが資産の持ち方を考え始めたきっかけのひとつが、「75歳から加入する後期高齢者医療制度に、金融所得を反映する」という改正ニュースでした。
現行制度では、市町村民税の所得情報をもとに保険料や窓口負担割合等を計算するため、確定申告した上場株式の配当等は反映される一方、源泉徴収で課税関係が終了し申告しなかったものは原則として反映されません。預貯金や有価証券を「いくら持っているか」という金融資産額そのものも、原則として勘案されていません。
厚生労働省も、同じ金融所得があっても、確定申告をした場合としなかった場合とで、後期高齢者医療の窓口負担割合や保険料に差が生じるケースを示しています。
こうした不公平を是正するため、2026年に成立した医療保険制度改正法では、後期高齢者医療制度について、これまで把握されていなかった上場株式の配当等の金融所得を、保険料や窓口負担割合等へ反映する仕組みが盛り込まれました。施行は公布後5年以内に政令で定める日とされています。
つまり、これからの老後資産を考えるうえでは、資産から生じる金融所得が医療保険の負担にどう関わるのかも、決して他人事ではありません。
佐々木さんも、金融所得によって将来の負担が変わる可能性は気になります。ただ、それ以上に引っかかるのは、いまの自分には必要以上となった「配当所得」です。
使う予定のないお金がさらに所得を生み、それが負担にも影響するとしたら--。この状態をこの先も続ける意味があるのか。75歳が見えてきたいま、初めてそんな疑問を抱くようになったのです。
「お金の管理」と「住まい」、独り身だからこそ考えたいこと
では、佐々木さんはどうすればよいのでしょうか。
まず考えたいのは、年間約400万円の配当が、これからの暮らしに本当に必要なのかということです。医療保険の負担を抑えるために高配当株を売る、という単純な話ではありません。今後の生活費や医療・介護費を見積もり、いまの資産構成が73歳の自分に合っているかを確認することが出発点になります。
そのうえで、優先して考えたいことが大きく2つあります。
ひとつは、「いつまで自分でお金を管理できるか」です。いまは問題なく管理できても、加齢とともに判断力は変わっていきます。元気なうちに、任意後見制度や民事信託(いわゆる家族信託)など、判断力が低下したときに備える仕組みについて専門家に相談しておくことも選択肢です。
もうひとつは、「これから、どこでどう暮らすか」です。親から受け継いだ家に住み続ける場合と、医療や介護のサービスが整った住まいへ移る場合とでは、必要なお金も暮らし方も変わってきます。
加えて、子どものいない佐々木さんには、残った財産を誰にどう託すかというテーマも残ります。甥や姪などの親族への承継や、遺贈、寄付など、選べる形はひとつではありません。
厚生労働省によると、2022年の男性の健康寿命は平均72.57歳。73歳になれば途端に健康を損なうわけではありませんが、元気なうちに暮らしとお金を考える節目とはいえるでしょう。
制度改正のニュースは、偶然にも資産を棚卸しするきっかけになりました。あなたも「いつまで自分で管理し、どこで暮らし、最後は誰に託すか」を考えてみてはいかがでしょうか。
(参考)
厚生労働省「後期高齢者医療制度における金融所得の公平な反映について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/newpage_00014.html
厚生労働省「平均寿命と健康寿命」
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/hale/h-01-002
三原 由紀
プレ定年専門FP®

