【井上 久男】日本では「黒船」のBYDも中国では「おじさんのクルマ」で時代遅れ…「トヨタ」の「ほんとうのライバル」の名前

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日本人が「EVかハイブリッドか」などと悩んでいる間に、海外では「クルマとAIの融合」が普通になった。今から追いつけるか? 

取材・文:井上久男(いのうえ・ひさお)/'64年生まれ。大手電機メーカーを経て朝日新聞社に入社。経済部で自動車産業などを担当し、'04年に独立。『日産vs.ゴーン 支配と暗闘の20年』ほか

日本の自動車産業を脅かす存在

中国の自動車最大手BYDが、日本の自動車市場の約4割を占める「軽自動車」に殴り込んできた。7月28日、BYDは軽EV「ラッコ」を発表。テレビコマーシャルで女優の広瀬アリスさんを起用するなど力を入れている。

希望小売価格は最廉価版で214万円。競合する日産自動車の軽EV「サクラ」が244万円、ホンダ「N-ONE e:」が269万円であることから見ても、BYDの価格設定は戦略的と言える。

「ラッコ」の性能・装備を見ると、電池容量が大きい高級版は1回の充電による航続距離が320キロあり、軽EVで最長。また、無線技術を使って車載ソフトウエアを更新する最新技術も導入する。

BYDの2025年の世界販売ランキングは6位。いまやホンダや日産を上回る存在だ。BYDの今年の株主総会では同社の創業者である王伝福会長が「5年以内に世界販売で1000万台を超え、トヨタ自動車を追い抜く」と発言したとされ、日本でも大きく報じられた。

こうした動きから国内では、BYDが日本の「屋台骨」である自動車産業を脅かすと見る向きがある。著名な保守系論客からも「BYDに対して、税金が原資となっている補助金を出すべきではない」といった声が出ている。

トヨタの「本当のライバル」とは?

しかし、はっきり言おう。こうした見方はもはや古い。「日本のエース」トヨタのライバルは、もはやBYDではない。むしろBYDばかりに目を向けていると、大きな流れを見誤りかねない。というのも今、世界の自動車産業の競争のフェーズが、再び大きく変化しているからだ。

筆者は7月半ば、日中経済協会主催のツアーに参加し、中国の自動車メーカーなどを視察した。また、独自の取材ルートを頼り、蘇州や上海などの部品・設備メーカーも訪れた。1年前にも深圳を訪れたが、わずか1年で、中国の産業界の様相はさらに大きく変わっていると感じた。

上海中心部から車で2時間ほど西に走ると、ファーウェイの「練秋湖研究開発センター」がある。約3万人が働く同社最大の研究センターだ。敷地内には寮やジム、病院まで完備されており、その中で生活がほぼ完結できる。企業の研究施設というより大学の施設のようで、ファーウェイの人たちも「キャンパス」と呼んでいる。

あまりに広いため、センター内の移動は電車だ。乗ってくる社員はみな若く、カジュアルな服を着ていた。聞くと、社員の平均年齢は31・6歳だという。

案内してくれた社員が「うちは自由な社風が特徴。経営幹部の中には、ライバルのアップルのiPhoneを使っている人もいますので」と語った。ただ、信賞必罰は厳しいらしく、評価の低い社員の入れ替えは頻繁にあるそうだ。

このファーウェイこそが、「世界のトヨタ」の最大、最強のライバルになると筆者は見ている。今回の中国訪問で出会った日系企業の駐在員にも、同意見の人が多かった。

ついに始まった「クルマの知能化」

ファーウェイは通信機器大手として知られるが、2023年から自動車事業を本格化。'25年の全体の売上高は8809億元(約20兆2600億円)で、自動車事業は450億元(約1兆350億円)。売り上げ全体に占める比率はまだ高くないが、前年比で72%増と、同社の事業の中では最大の成長率を見せた。

中でも力を入れるのが、車の「知能化」である。自動運転などの「インテリジェント・ドライビングシステム」、音声AIによる操作や車載OSなどの「インテリジェント・コックピット」、EV向け制御などの「インテリジェント電動化」などだ。

ホンダのある幹部は、「今や中国ではファーウェイのコックピットシステムを入れないと、若い消費者に評価されない。うちが中国で販売を落としているのは、ファーウェイとの取引を進めるのが遅れたからだ」と言う。

また日本の商社で中国市場を担当する役員も「中国に出張すると、現地の若い社員でBYDに乗っている人はあまり見ない。ファーウェイの技術が採用された車や、スマホメーカーの小米(シャオミ)の車に乗る人が多い」と語る。さらに設備メーカーの現地駐在員は「うちの中国人の20代の社員も、『BYDはおじさんのクルマだから買わない』と言っていた」「BYDは、インテリジェント化で中国の新興自動車企業に後れをとっている」と指摘する。

【後編を読む】中国から「技術を盗まれる側」だった「日本の自動車メーカー」がいま“盗み返す側”に…トヨタがファーウェイとあえて組む「本当の狙い」

「週刊現代」2026年8月31日号より

【つづきを読む】中国から「技術を盗まれる側」だった「日本の自動車メーカー」がいま”盗み返す側”に…トヨタがファーウェイとあえて組む「本当の狙い」