歌手でタレントのあの

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あのちゃんって言われないとわからない〉〈マジで演技上手い〉〈少年の声にしか聞こえない〉──短篇アニメ映画『しらぬひ』(8月21日公開)のアフレコ映像が公開されるなり、無数の驚きの声がSNS上を駆け巡った。

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 主人公・湊(みなと)役を演じるアーティストのあのは、反響の大きさに「びっくりしたけどうれしい」と喜びを覗かせる。少年役は、今回が初挑戦。しかも"酒におぼれる父親への憎しみを募らせる10歳の子供"という難役だ。あのは、湊が抱える複雑な感情とどのように向き合ったのか。
10年経っても色褪せぬ「反骨精神」

 少年役という意外なオファーに、正直なところ、「なんでだろう?」と驚きもあった。しかし、自分の未知なる可能性を見出してくれたことに「応えたい」と感じ、大きなチャレンジへと踏み切った。

 あのいわく、湊は「大人にならざるを得なかった10歳」だ。

「"子供"でいさせてもらえない環境で生きてきた湊をわかりやすく子供っぽい声で演じるのは違う。アフレコにあたって、声のパターンをいくつか用意していきましたが、子供だけど子供じゃない、高すぎず低すぎない中間のところに決まりました。

 でも中間だからこそ、ニュアンスを表現するのが難しくて。(花澤香菜演じる、湊に寄り添う少女の姿をした神様の)べんちゃんと話すときの湊は少し子供っぽくなるぶん、どうしても普段の僕の声色に近づいてしまって苦戦しました」

 湊という少年が10年間どのように生きてきたのか、何度も台本を読み返して想像した。父親に対する恐怖、憎しみ……。湊の激しい感情とシンクロし、演じていて「心を持っていかれる」ような感覚もあった。

「湊の気持ちは、僕にとってもすごく覚えがあるもの。アフレコのときも、家で練習するときも、ずっと泣いてました」

 それほど深く役と共鳴した結果なのか、物語のクライマックス、湊が慟哭するシーンはすぐにOKが出たという。

 自らの「生きづらさ」を隠さないあのの姿勢は、大勢のファンの心の拠り所になっている。その点で、彼女は湊であると同時に、べんちゃんにも通じる立場なのかもしれない。悩みを抱える人々の心の支えになっていることについて、あのは、「使命感はあります」と語る。

「きれいごとは言いたくないし、言うつもりもないけど、それこそ湊に共感するような人たちの逃げ場になれたらいいなとは思います。そういう人たちが僕のライブとかに来て、『もうちょい生きてみるか』みたいに感じてくれるとうれしいですね。

 僕のことをすごく切実な気持ちで応援してくれるファンの方もいるからこそ、『あの』という存在がブレるようなことはしない。"ちゃんと引き受けよう"みたいな使命感はありますし、その役割を背負うのは別に苦ではないですね」

 主演ドラマに冠番組、全国ホールツアーなど、活動のスケールは大きく広がった。しかし、あのは「僕の根本的なところは全然変わっていない」と断言する。

「昔からずっとこんな感じなのに、お茶の間では通用せず、叩かれることもあって。僕の存在って、狭いカルチャーの中でしか受け入れられないものだったんだなぁと痛感しています。でも反骨精神なんでしょうね、テレビでも僕のことを認めさせたい。

 グループに入って活動をしていたとき、世の中の"アイドル"のイメージに合わせることなく振る舞っていたら、逆に僕の真似をする人たちも出てきました。

 今も僕が僕らしく居続けたら、そのうち世の中の常識のほうがちょっと変わって、"こういう子もいるんだね"と受け入れられるようになるのかもしれない。それって世界が少しだけ広がったってことだと思います」

 あのを突き動かすのは、彼女なりの"復讐心"だ。

「誰しも"認められたい"という気持ちを抱えていると思う。僕もどれだけ頑張っても舐められることが多くて、何度も腐りそうになった。でも必死に自分で自分の居場所を作っていたら、いろんなお仕事が来て、自分のことが少し認められたような気持ちになれるし、腐らなくてよかったなとも感じる。

 復讐って、自分自身を許すことでもあると思います」

 自分を肯定できるその日まで、あのの戦いは続く──。

撮影/塩原 洋
ヘア&メイク/URI
スタイリスト/神田百実
取材・文/原田イチボ(HEW)