【内田雅也の追球】人生を映し出す打球
◇セ・リーグ 阪神4─1巨人(2026年8月29日 甲子園)
阪神4回裏、1点を先取してなお2死一、三塁で元山飛優が打席に入ったとき、予感がした。甲子園球場内OB室で一緒に見ていた前OB会長・川藤幸三に「元山はここで汚いヒット打ちますよ」と伝えた。
田中将大に2球で追い込まれたが「彼はここから打つんですよ」と言った。すると内角カッターに詰まったゴロが二塁右に転がり、内野安打となった。貴重な追加点を刻み、一塁を駆け抜けた元山が何か叫んでいた。予感的中である。
「わかる気がするな」と川藤は言った。「あいつのこれまでの人生があるやないか。一度クビになった身やろ。1球に対する思いが違うわね」
元山は昨秋、西武を戦力外となり、阪神が獲得した。川藤も現役時代、何度も戦力外を告げられながら「給料はいらん」としがみつき、代打で生き残った。「浪速の春団治」と呼ばれた。元山も東大阪の出身。大阪人らしい泥臭さ、たくましさを感じる。7月21日の移籍後初先発から結果を残し、優勝争いのなか遊撃を守り続けている。
元山の「根性安打」を予感したのには、これまで何度も追い込まれてからのポテン打や内野安打を見てきたからだ。調べてみると、この夜と同じ0ボール―2ストライクで、1―1と並ぶカウント別最多の5安打を放ち、打率3割8分5厘だった=成績は28日現在=。
川藤は「ピッチャーはあんなヒットが一番こたえるんや」と言った。「快打されたら仕方ない。下位や控えはあんなヒットにこそ値打ちがある。いい追加点やったな」
打球に人生が映し出されるとは何とも野球らしい。今の阪神の選手たちは日々、懸命に真摯(しんし)に野球と向き合っている。その生活こそが人生である。
5回裏無死二塁、中野拓夢はバント失敗(ファウル)で追い込まれながら外角球を引っ張り、二ゴロ進塁打とした。2死後適時打した大山悠輔は「みんなで取った追加点」とコメントした。7回裏1死一、三塁は一塁走者ヒットエンドラン(併殺回避)、三塁走者ゴロゴーで大山が二ゴロを転がし1点を加えた。これらもまた人生を映し出した打球だった。
前夜と同スコアの快勝で優勝へのマジックナンバー23がともった。歓喜までは山あり谷ありだろう。先を見ず、今の生活、つまりは人生というヤツを続けていくことである。 =敬称略= (編集委員)

