『VIVANT』『Tシャツが乾くまで』で熱狂する「考察ブーム」は地上波ドラマの救世主か、衰退の兆しなのか?
『VIVANT』や『Tシャツが乾くまで』など、2026年夏ドラマでも過熱する「ネット上の考察合戦」。各局が考察で盛り上がるドラマ作りに注力する背景と、考察ブームの功罪についてコラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが解説する。
【写真】穏やかな雰囲気の集合写真、主演の蒼井優や中島歩、夏帆、高橋文哉など。他、『VIVANT』新キャストの花岡すみれやハリウッド女優・藤本ルナ、声優の鬼頭明里なども
* * *
夏ドラマが中盤から終盤に向かう中、TBSの『VIVANT』(日曜21時)と『Tシャツが乾くまで』(金曜22時)が"今期の2大ヒット作"として盛り上がりを見せています。
『VIVANT』は自衛隊の非公認部隊「別班」の乃木憂助(堺雅人)が日本を守るために世界を駆けめぐる物語、『Tシャツが乾くまで』は、とある事故に巻き込まれた2組の夫婦による愛と秘密の物語とまったく異なる作風ながら「考察がヒートアップする」という現象が一致。それぞれ『VIVANT』は「誰が敵で誰が味方か」などを、『Tシャツが乾くまで』は「夫婦たちがどんな関係性でどんな過去や秘密を抱えているのか」などを考察する声が飛び交っています。
さらに今夏はその2作だけではありません。『告白―25年目の秘密―』(日本テレビ系)、『マイ・フィクション』(ABC・テレビ朝日系、日曜22時15分)、『一次元の挿し木』(読売テレビ・日本テレビ系、日曜22時30分)などでもネット上の考察のコメントが活発に書き込まれています。
あらためて気付かされるのは、視聴者だけでなく独自の考察記事を報じるネットメディアや考察専門のYouTuberなども加わって多くの人々が盛り上がっていること。もはや考察要素の有無によって盛り上がり方が変わるように見えるほど、ネット上には競い合うようにさまざまなコメントがあがり続けています。
このような過熱する一方の考察合戦は視聴率低下に苦しむ地上波ドラマを救うものなのか。それともエスカレートすることで破滅へ向かってしまうのか。業界唯一のドラマ解説者として活動する筆者がその本質を掘り下げていきます。
ドラマの考察はいつ広がったのか
ドラマは主に80年代からミステリーを中心に「考察をしながら楽しむ」という視聴方法があり、事件の犯人を予想する2時間ドラマがそれを担っていました。
連ドラでは90年代前半の『もう誰も愛さない』『あなただけ見えない』『もう涙は見せない』(いずれもフジテレビ系)のジェットコースタードラマや、脚本家・野沢尚さんが手がけた90年代後半の『青い鳥』(TBS系)、『眠れる森』(フジテレビ系)、『氷の世界』(フジテレビ系)などのロングサスペンスなども犯人当てを楽しむ視聴者が多数いました。
その後は東野圭吾さんや湊かなえさんなどの小説ドラマ化も考察要素が濃く、犯人当てを楽しむ視聴者がいた一方で、結末が調べられてしまうため、盛り上がりは限定的。ただ、2010年代に入ってからはドラマ関連のネット記事が増え、SNSが浸透したことで考察を楽しむという新たな醍醐味が生まれていました。
それでも当時は手堅く視聴率を得るためシンプルな一話完結型ドラマが多く、連ドラらしいサスペンスやミステリーの長編は1から作る難しさもあって、考察要素の濃い作品は年に数本程度。考察を楽しむ機会は少なく、ライト層に広がることもありませんでした。
風向きが変わったのは2019年放送の『あなたの番です』(日本テレビ系)。登場人物の多くが連続殺人事件の容疑者で、伏線なのかわからないレベルの思わせぶりなシーンが多く、しかも異例の2クール放送でたっぷり描いたことで、考察を楽しむ人が右肩上がりで増えていきました。
以降は『最愛』(TBS系)、『真犯人フラグ』(日本テレビ系)、『マイファミリー』(TBS系)、『ライオンの隠れ家』(TBS系)、『良いこと悪いこと』(日本テレビ系)、『リブート』(TBS系)などの考察要素の濃いロングサスペンス&ミステリーが増えて現在に至っています。
最近は明らかに「あやしげな登場人物」「伏線かもしれないカット」「メインビジュアルやタイトルバックなどの仕掛け」などの考察をうながす策を大量投入していることは間違いないでしょう。ではなぜ制作サイドは考察要素を大量投入するようになったのでしょうか。
考察が視聴率&配信再生を得る最善策
民放各局、特に現在のドラマシーンをリードするTBSが考察に注力した脚本・演出を手がけている理由は、第1に「リアルタイム視聴を促す」ため、第2に「配信再生をリピートしてもらう」ための2点。
テレビは今も視聴率に基づくCM収入がメインのビジネスモデルを続けており、リアルタイムで見てもらうことの重要性は変わっていません。しかし、録画に加えて配信での視聴が増える一方で、視聴率を獲ることはますます困難になりました。
その点、最もリアルタイムで見てもらえる可能性が高いのは考察要素のあるドラマ。リアルタイムで見てもらい視聴率が確保できるほか、SNSに考察が飛び交うことでXの世界トレンド1位を獲得するなどの勲章を得ることもできます。
また、配信での広告収入や自局系動画配信サービスの有料会員を得るために、ドラマをオンラインで見てもらうことも重要になりました。視聴率とは異なり、1人のコアなファンが繰り返し配信視聴することも可能なだけに、考察要素はリピートを誘う最善策となっています。
さらにこのところTBSの戦略でしばしば見られるのは、「ドラマが放送されていない時間も考察で楽しんでもらう」ための仕掛け。制作サイドが毎週新たな情報を提供したり、裏話を明かしたり、キャストがコメントしたりなどの工夫で視聴者とコミュニケーションを取って放送のない日も盛り上げています。
このような「視聴者とコミュニケーションを取る」という点は『あさイチ』(NHK総合)の"朝ドラ受け"や、Xの"朝ドラ反省会"と似ていて、「毎日そのドラマのことを考えているため愛着が増す」などの効果が得られます。
作り手に求められる制作上のモラル
ビジネスモデルを変えられないまま視聴率低迷に苦しむ民放各局にとって考察要素の濃いドラマは、それを補う救世主のような存在となっていることは間違いないでしょう。
オリンピック、サッカーワールドカップ、WBCなどの国際的スポーツイベントがそうであるように、テレビ最大の強みは多くの人々が一緒に見て同時に盛り上がれること。有料会員のみが好きな時間帯に見る動画配信サービスのドラマにはない楽しみ方であり、SNSで感情を共有して楽しめることも含め、「いかにリアルタイムで見たくなるドラマを作っていくか」が求められています。
それだけに本当はもっと多くの作品で『VIVANT』や『Tシャツが乾くまで』のような考察要素の濃いドラマを作りたいところですが、そうもいかないのが現実。考察要素の濃いドラマをオリジナルで手がけることは時間・予算・労力などの点で難しく、中途半端なものを作ると視聴者に粗を見つけられ、批判を浴びてしまいます。
さらに考察要素を詰め込みすぎてしまうと、すでに「考察疲れ」を訴える声があるように、観る人を選ぶ作品になっていくのも難しいところ。謎解きゲームのような感覚のドラマになるほど人間ドラマとしての醍醐味が薄れ、登場人物に感情移入できなくなっていくため、制作サイドには繊細なバランス感覚が求められます。
その点、『VIVANT』は「考察要素を詰め込み過ぎでは?」という指摘もありますが、国内ドラマでは珍しい世界をめぐる物語、主演級俳優たちの熱演、海外ロケを含む映像のスケール感など、さまざまな点で見応えを作ることでバランスを取っています。
もし『VIVANT』や『Tシャツが乾くまで』の成功を受けて今後、考察要素の濃いドラマが量産されたら、どんな未来が待っているのか。
クオリティやバランスの良い作品でもこれ以上増えたら飽きられてしまうリスクが高くなりますし、逆にクオリティやバランスの悪い作品が増えたら、地上波のドラマ全体のイメージダウンにつながりかねないでしょう。
民放各局の制作サイドは目先の数字だけを追うのではなく、「考察要素を濃くしても、一定以上のクオリティと人間ドラマとのバランスは死守する」「それが難しいのであれば、ほどほどの考察要素に留める」などのモラルが求められていくのかもしれません。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月30本前後のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『どーも、NHK』などの批評番組に出演し、番組への情報提供も行っている。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。
